怜くん、ごめんね!親衛隊長も楽じゃないんだ!

楢山幕府

文字の大きさ
11 / 50
高等部一年生

010

しおりを挟む
「うわぁああ!? ごめん、大丈夫!?」
「っ……」

 悶絶する怜くんに悪いと思いながらも、ぼくはソファから脱出して、服装を正した。
 よし、ここは逃げよう!

「怜くん、ごめんね!」
「まっ……!」

 きっと少し休めば、痛みも治まるはず。
 体の丈夫な怜くんなら大丈夫だよ! 昔は病弱だったらしいけど、今は元気だし!
 後が怖いけど、ここに留まるのも危ない気がするんだ! だから、ごめんね!
 心の中で何度も謝罪しながら、ぼくは生徒会室から逃げた。

 最後までしたいという怜くんの気持ちも、分からないわけじゃないんだ。
 BLゲーム「ぼくきみ」の世界でも、ぼくと怜くんはがっつり致してたみたいだし。
 けど、思うんだよ。
 「画面の中のぼく」は、何も知らないまま、最後まで行ったんじゃないかって。
 現物を見ないまま、あれよあれよと流されたんじゃないかって。
 じゃなきゃ怜くんのを目の当たりにして、素直に受け入れられるはずがない。
 無理だよ、どう見ても日本人の平均サイズより大きいんだもん! むしろどうやって入れたの「画面の中のぼく」!?
 アースホールがブラックホールに繋がってない限り無理じゃない!? ……誰が上手いこと言えと!?
 焦る頭で自分にツッコんでいたのが悪かったのか、ぼくは生徒会室を出て幾ばくもしない内に、人とぶつかった。

「うわっ!?」
「保!? 大丈夫?」

 顔を上げると、気遣わしげな赤茶色の瞳と目が合う。

「眞宙くん、ごめん」
「僕はいいけど、保は一人? 怜から逃げてきたの?」
「うっ……」

 ぼくが目を逸らしたことで、事の顛末を察したのか、眞宙くんは盛大に溜息をついた。

「はぁ……だから焦るなって言ったのに」

 ぼくと怜くんのことは、眞宙くんに筒抜けだ。
 怜くんがぼくのことを眞宙くんにグチるのが最大の理由だった。
 幼なじみの体の関係なんて知りたくもないだろうに、眞宙くんはよく気遣ってくれる。

「えっと、ごめんね」
「保が謝る必要はないよ。別に最後までしないといけない決まりはないんだから」

 優しく抱き締められて、頭をポンポンされると安心感に包まれた。
 そのまま甘えたくなるけど、ここが校舎で人目があることを思いだし、慌てて体を離す。
 自由行動する眞宙くんの傍に、彼の親衛隊長である南くんの姿がないわけがなかった。
 案の定、眞宙くんの後ろに、ふわふわのハニーブラウンの髪が見えて声をかける。

「南くんも、ごめんね!」

 好きな人が自分以外の誰かを抱き締める光景なんて、見たくなかったよね。
 謝るぼくに、南くんは首を横に振った。

「今更保くんに嫉妬することはないですよ。眞宙様が保くんを大事にしているのは知っていますから」
「うう、南くんは懐が深い……」

 ぼくだったらきっと、嫉妬にかられて醜い顔になってるよ。

「南くんはいい子だからね。さぁ、保も一緒に寮に戻ろうか」

 眞宙くんに背中を押されて歩き出す。
 二人の邪魔じゃないかと心配になるぼくを察したのか、南くんが手を繋いでくれた。

「実は保くんと一緒に帰りたくて待ってたんですよ」
「えっ!? 本当!?」
「どうせ怜は今回も逃げられるだろうと、予想してたからね」
「あははー……」

 逃げてきた身としては、乾いた笑いしか出ない。
 置き去りにしてきた怜くんのことが気にならないでもないけど、結局ぼくは眞宙くんたちと仲良く三人並んで寮へ帰った。


◆◆◆◆◆◆


 寮の部屋に帰ると、同室の桜川くんが出迎えてくれる。

「ただいまー」
「おかえり。今日は少し遅かったけど、相変わらず怜様と?」
「う……そんなところ」

 桜川さくらがわ 圭吾けいごくんは、高等部からの外部生なんだけど、代々名法院家に仕えている家柄もあって、ぼくも昔から顔なじみだった。
 怜くんの実家での身の回りの世話は、桜川くんが担当だからね。
 学園では、侍従を付けるのは禁止されているので、あくまで一生徒として桜川くんは通っている。
 だから学園では、気軽にタメ口で話してくれた。

 桜川くんも身長が高いので、ぼくはいつも見上げる格好になる。
 体を鍛えているのもあって、白いシャツの上からでも、筋肉が引き締まっているのが見て取れた。
 髪はサッパリと短く、その佇まいにはいつも清涼感が漂っている。
 苗字と同じ桜色の髪は目を引くけど、彼はBLゲーム「ぼくきみ」の攻略キャラではなかった。
 攻略対象ではないけど、ゲーム主人公くんの相談役兼お友達ポジションだ。
 外部生同士で気が合うという設定。
 ついでに怜くんの情報も教えてもらえて、攻略しやすいようになっている。
 来年からぼくへの風当たりがどうなるのか考えると、ちょっと胃が痛い。
 覚悟はしているつもりなんだけどね。
 いかんせん、周囲はゲームに登場する人ばかりなので、気が滅入るときがあった。
 はぁ……性悪になりきるのは大変だ。

「その様子だと、赤飯はまだ必要ないか」
「うぇっ!?」

 肩を落としたぼくを見て何を勘違いしたのか、そんな爆弾が投下される。
 今更だけど、ぼくと怜くんの関係って、周囲に筒抜け過ぎないかな!?

「自分が怜様と保のことで、知らないことがあると思うか?」
「だ、だよねー……」
「自分としては、保はまだしばらく、可愛い保でいて欲しいと思うけどな」
「そ、そう?」

 無理をしなくていいんだぞ、と頭を撫でられる。
 眞宙くんといい、桜川くんといい、彼らは優しい。
 すぐにぼくを甘やかしてくれるから、つい楽なほうへ逃げてしまいそうになる。

「一線を越えられなくて、ヤキモキしてる怜様を見るのは面白いからな。で、今回はどうやって逃げてきたんだ」
「あー、それ聞いちゃう?」
「むしろこれを聞かずして、何を聞けと?」

 怜くんの立場を考えると言いにくい。
 けど怜くんの体調に関することは、桜川くんも知っておかないといけなくて……。
 渋々顛末を話すと、仕える主人が足蹴にされたと聞いてショックだったのか、桜川くんはその場に蹲った。

「れ、怜様が……鳩尾、蹴られっ……」
「わざとじゃないんだよ!? 咄嗟に膝を曲げたら、当たっちゃって!」
「しかも、その後、放置……!」
「ぼ、ぼくの膝が当たったぐらいなら、少し休めば大丈夫だと思ってね!?」

 オロオロと言い募るぼくに、プルプルと震える桜川くん。
 これは怒られるかと思った矢先、軽快な笑い声が部屋に響いた。

「あははははは! 保の前じゃ、怜様も形無しだ! こうしちゃいられない、怜様をからか、違った、様子を確認してくる」
「完全にからかいに行くつもりだよね!?」
「だってこんな面白いことないだろ! ほら、ちゃんと痣になってないかも見てくるからさ。ぷふっ、保に蹴られた場所をな!」
「取って付けたような理由でからかうつもりだ!?」

 いつも思うけど、大丈夫かな、ここの主従関係!?
 実は昔、桜川くんに「もっとフランクな対応でも怜くんは怒らないよ」って言っちゃった手前、いつか逆鱗に触れやしないかと心配になる。
 しかしそんなぼくをよそに、桜川くんは軽快な足取りで部屋を出ていった。
 この後、とても不機嫌な怜くんを、ぼくが宥めることになったのは言うまでもない。
 ……置き去りにして、逃げてごめんなさい。
 痣は大したことないみたいでよかった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

処理中です...