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高等部一年生

009※

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「ふあっ……」

 ようやく解放された唇の間で、唾液が糸を引く。
 それが鎖骨の辺りに落ちる冷たさを感じながら、ぼんやりと怜くんの動きを目で追った。
 いつの間にか、ズボンのベルトが緩められ、前が開かれている。
 ぼくのだけじゃなく、怜くんのも。
 怜くんは下着から自身を取り出すと、次はぼくの股間に触れた。

「ぅえっ!? えっ、れ、怜くん!?」

 咄嗟に怜くんの手首を掴むけど、抵抗むなしく、ぼく自身も下着から出されて彼の手に包まれる。

「お前は先を急ぐと怖がるからな。保は、感じることにだけ、集中していればいい」

 後半は言い聞かせるように言葉を区切りながら、怜くんは空いた手でぼくの頭を撫で、熱のこもった息を吐いた。
 視線だけで怜くんを見上げると、彼の白い頬が薄く色付いて上気しているのが分かる。
 喉仏の下、シャツは第二ボタンまで開けられていて、鎖骨が覗いていた。
 そこから溢れ出る色気を目の当たりにしてしまい、居たたまれない気持ちになる。
 けど、怜くんも同じように興奮してるんだと思うと、嬉しく感じるのも事実で。
 自然とぼくは、怜くんの言葉に対して頷いていた。
 ぼくたちの中心を握る手に、力が込められる。

「あっ……!」
「痛かったら言え。できるだけ、加減する」

 どこから取り出したのか、ローションをぼくたちの間に垂らすと、怜くんは上下に腰を揺らしはじめた。
 次第にスピードがのってくれば、にちゃにちゃと卑猥な水音が耳に届く。

「保……っ」

 時折、怜くんの掠れた声が聞こえると体が震えた。
 彼の声だけで、気持ちがいっぱいになってしまう。
 泣きそうになるのを堪えながら、怜くんの背に腕を回す。

 大好き。
 怜くん、大好きだよ。

 ぼくの気持ちが少しでも伝わったら嬉しい。
 そんな中、速まる鼓動が耳の裏にあるように感じられて、額に浮かんだ汗が流れた。
 どこか遠のく意識の先で、全ての熱が下半身に集約される。
 怜くんの指にカリ首をなぞられると、反射的に足の爪先が反った。

「ぁふっ、んっ……んあっ!」

 そのまま足をつりそうになって、回した手に力が入る。
 より近くなった距離に、怜くんの荒い息が聞こえた気がした。

「ふ……っ、保……」

 裏筋を、怜くん自身にこすられる。
 同時に人差し指だけで亀頭を撫でられると堪らなかった。
 駄々をこねるように首を振りながら嬌声を上げる。

「あ、あっ! 怜くんっ……れいくんんっ」

 舌に力が入らない。
 はぐはぐと開閉する口で、ただ空気を食んだ。
 額を怜くんの胸に当てると、より彼の熱を感じる。
 汗ばんでいるのは、自分だけじゃない。
 そのことに後押しされながら、言われた通り、ぼくは快感を享受していた。
 体が上下に揺さぶられる度に、ソファが軋んで音を立てる。
 視界の端では濃紺のブレザーが揺れ、ここがどこで、相手が誰なのかを意識させられた。
 いけないこと、してる。
 漠然とそう思った瞬間、全身を熱が焼いた。
 背徳感と与えられ続ける快感が合わさって、ぼくは天井を仰いだ。

「あぁっ! もう……イッちゃう! れい、く……!」
「っ……」

 射精する寸前、咄嗟に怜くんの手に自分の手を重ねた。
 少しの時間差を置いて、二人分の熱がお腹に放たれる。

「ぁ……」

 ちゃんと、怜くんも感じてくれてたんだ。
 その結果が見て取れて、安堵する息が漏れた。
 お腹の上に溜まった白い液体を眺めていると、ティッシュがそこに投げられる。
 一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚……。

「怜くん、ティッシュ多過ぎ」

 怜くんはティッシュで小山を作り終えてから、無造作にぼくのお腹を拭った。
 その塊をゴミ箱に捨てると、また新しい小山を作っておへそに溜まった分も、拭き取ってくれる。
 無駄が多い気がするけど、世話を焼いてくれるのが嬉しくて、ぼくは自然と笑顔になった。

「ん、ありがとう」
「……その様子なら大丈夫そうか」
「え?」
「最近、気が散ってるだろう? 俺のことで悩んでたんじゃないのか」

 指摘されたことに、一瞬固まる。
 ぼくの様子に、怜くんは気怠げに髪をかき上げた。ううう、エロ格好良い。

「板垣と違って、俺が肌を重ねるのは保だけだ。何を悩んでる?」

 良かった、ゲームのことがバレたわけじゃなさそうだ。
 そりゃそうだよね、ぼくが話さない限り、分かるはずがない。
 怜くんは、ぼくが浮気を心配していると思ったみたい。誰と関係を持つかは怜くんの自由だから、浮気っていうのも変な気がするけど。

「えっとポスターのことなんだけど……」

 代替として直近の問題点を挙げると、怜くんの眉間に皺が寄った。
 うう、くどいだろうけど、心配事に変わりはないんだよ。

「俺は、名法院怜だ」
「うん」
「名法院家の人間として、崩せない態度もある。お前と眞宙の言いたいことも分かるがな」
「意見を言いたくても、言えない人がいるってこと?」
「あぁ。だとしても、名法院家から歩み寄ることは許されない。それは佐倉の仕事だ。眞宙も分かってるはずなんだがな」

 現状、財閥五家は地域に分かれて均衡を保っている。
 自ずと、それぞれの家の役割も決まっているようだった。

「さも大勢の味方面をして、一々意見を言ってくる嫌味ったらしいところは、あいつらしいが」
「眞宙くんは、ぼくに気を使ってくれたんだよ」
「だろうな。あいつはいつだって、お前の味方だ」

 だが気を付けろ、と続けられて、怜くんを見上げる。

「眞宙は配下に人を襲わせて、颯爽と自分が助けにいくようなことを平気でするからな」
「眞宙くんが?」
「保にケガを負わすようなことだけは、絶対にしないだろうが……」

 エメラルドグリーンの瞳は、深い海のようで。
 そこにある思いを、ぼくは上手く読み取れない。

「お前は俺のだ。忘れるな」
「うん」
「本当に分かってるのか?」
「わかってるよ! ぼくは怜くんの親衛隊長だもん!」
「即答されても不安なのは、どうしてだろうな?」

 するりと、太ももを直に撫でられる。

「そろそろ先に進んでもいいか?」

 そしてあろうことか、怜くんの手がぼくのお尻に回された。
 こ、この展開は……!?

「だめぇーっ!」
「ごっ!?」

 考えるまでもなく反射的に膝を折ると、膝が怜くんの鳩尾にヒットした。
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