乙女ゲーのラスボスに転生して早々、敵が可愛すぎて死にそうです

楢山幕府

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「ルーファス様、コール氏がお見えです」
「わかった、今行く」

 乱れる心を押さえつけるように立ち上がると、服の袖を引かれた。
 心配げな青い瞳と目が合う。

「今日ぐらい、お勉強は休まれたら?」
「何かしてるほうが気が紛れるんだ。心配してくれて、ありがとう」

 ――よく、彼女を使い捨てにできたものだ。
 殿下より、妹の信頼を裏切ったゲームの自分に、僕は憤りを覚えた。


◆◆◆◆◆◆


 ヴィヴィアンには気が紛れると言ったものの、自室でコール氏を前にした途端、溜息が出そうになるのを堪える。
 僕は彼が苦手だ。

「おや、どうされたのです? 綺麗なお顔が台無しではありませんか」

 年若いコール氏は後任の家庭教師で、彼からは地理を教わっている。
 前任は老齢を理由に引退された。
 授業に問題があるとは思わない。

 僕は、彼の視線や距離感が苦手だった。

 今もさり気なく、患部とは反対の頬に触れようとしてくるので、否と言いながら首を振って避ける。

「大したことはありません」
「大ごとですよ。何せデビュタントを終えられてから、社交界ではルーファス様の容姿を褒め称えぬ者はおりませんから」
「母上には負けます。課題をいただけますか?」

 世間話なんてしていたくない。
 コール氏の粘着質な視線から逃れるため、教本を開く。

「ルーファス様は勉強熱心でおられる。魔法の素養がなくとも、立派に貴族の務めを果たされるでしょう」

 余計なお世話だ。
 貴族は平民と比べると、魔法を使うための魔力が多い。
 その筆頭が王家で、ゲームでも殿下の魔力が一番多かった。
 しかしウッドワード家は、貴族にしては珍しく、魔力に乏しい家系なのだ。僕だけじゃなく、父上も魔力が少ない。
 それでも侯爵家として相応しい地位を王宮で築いている。
 わざわざコール氏に、務め云々と言われるまでもない。

 悪気がないのは、わかっている。
 僕を嘲るような様子でもなかった。
 けれどコール氏への苦手意識から、どうしても心がささくれ立つ。

「では本日は教本の――」

 授業がはじまって、ほっとする。
 前世の記憶が鮮明になってから、より苦手意識が強くなったかもしれない。

 子どもを性愛する大人が、いると知ってしまったから。

 コール氏がそうだとは限らない。
 現に、接する距離は近く感じるけど、触れられる場所に危機感を覚えたことはなかった。
 頬や肩なんて、親しい間柄なら触れるだろう。
 僕側の心の距離が、コール氏が思っているほど近くないだけかもしれない。
 決め付けてはだめだ。
 そう理性が訴えるものの、嫌悪感はなくならなかった。
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