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ゲーム内で、ラスボスについて語られる機会はあまりない。
悪役令嬢であるヴィヴィアンに対して、兄のルーファスは話がわかる相手として登場する。しかし実は彼が、妹や王都で起こる事件の犯人たちを煽っていた黒幕だった。
筋書きでは、それだけである。
何故彼が闇の化身になったのかまでは明かされないのだ。
どうしたらいいんだろう……。
できるだけ筋書きからは離れたくなかった。
仮に僕がラスボスにならなかったら? 世界の敵である「闇」がどうなるのか、全く想像がつかない。
だったら目に見える形で倒されるのが一番確実だろう。
だから僕は、死ななければならないと思ったのに。
生きていられる可能性があるなら、それを喜ぶべきだ。
だけど突然迷子になってしまったようで、気持ちは晴れなかった。
「なぁ、なんか睨まれてるんだけど」
「睨まれてる?」
いけない、今は殿下が遊びにきているんだ。余計なことを考えるのはよそう。
僕たちは乗馬の準備を終え、これから庭へ出るところだった。
ギュッと繋いでいる手に力を込められて、殿下の視線を追う。
「ヴィー? 部屋にいないとダメだろう?」
視線の先には、ドアに体を隠しながら、こちらにキツい視線を向ける妹の姿があった。
編み込みの上にコサージュを付けたヴィヴィアンは、今日も可憐に白のワンピースを着こなしている。
殿下へ挨拶をした後、部屋に戻っているはずの妹の姿に、ヴィヴィアン付きの侍女はしきりに頭を下げていた。どうやら言うことを聞かなかったみたいだ。
「わたくしはお兄様が心配なのです! 何でよりによって、その方と二人っきりなんですの!?」
「殿下の侍従や護衛もいるから、二人っきりじゃないよ」
侯爵家の屋敷ということもあり、護衛の人数は最低限に留められているものの、殿下が一人で行動することはあり得ない。
「侍従や護衛は数に含みません! それに手をお繋ぎになってるじゃありませんか! 危険ですわ!」
「大丈夫だよ。殿下とは仲直りしたって言っただろう? それよりヴィー、部屋に戻らないと母上に叱られるよ」
デビュタント前に異性交流を持つことは、貴族社会では推奨されていない。
社交界のマナーにうるさい母上にバレたら、ヴィヴィアンが叱られることは必至だ。
「でも……!」
「キーキーとうるさい」
尚も言い募ろうとしたヴィヴィアンに答えたのは殿下だった。
彼女の目尻が、より一層釣り上がる。
「あなたが問題なのです! 今すぐお兄様から手を放しなさい!」
「何でオレがオマエなんかに命令されなくちゃならないんだ。オレはルーファスがどうしてもって言うから、来てやったんだぞ!」
見せつけるように殿下が腕まで絡ませてきたところで、ヴィヴィアンはドアから離れて全身を現した。
すかさず空いていた手を、彼女に取られる。
「よくもまぁ、お兄様の顔を傷付けておきながら偉そうに! 第一、お兄様はわたくしのお兄様でしてよ!」
「あ、あれは、わざとじゃない! ルーファスは、オレと遊ぶんだ! オマエこそ手を放せよ!」
どうしよう。
二人を宥めないとという気持ちと、もう少しこのままでもいいかな、という気持ちがせめぎ合う。
それぞれの手に、二人の温もりが伝わっていた。
天国は、ここにあったんだ。
悪役令嬢であるヴィヴィアンに対して、兄のルーファスは話がわかる相手として登場する。しかし実は彼が、妹や王都で起こる事件の犯人たちを煽っていた黒幕だった。
筋書きでは、それだけである。
何故彼が闇の化身になったのかまでは明かされないのだ。
どうしたらいいんだろう……。
できるだけ筋書きからは離れたくなかった。
仮に僕がラスボスにならなかったら? 世界の敵である「闇」がどうなるのか、全く想像がつかない。
だったら目に見える形で倒されるのが一番確実だろう。
だから僕は、死ななければならないと思ったのに。
生きていられる可能性があるなら、それを喜ぶべきだ。
だけど突然迷子になってしまったようで、気持ちは晴れなかった。
「なぁ、なんか睨まれてるんだけど」
「睨まれてる?」
いけない、今は殿下が遊びにきているんだ。余計なことを考えるのはよそう。
僕たちは乗馬の準備を終え、これから庭へ出るところだった。
ギュッと繋いでいる手に力を込められて、殿下の視線を追う。
「ヴィー? 部屋にいないとダメだろう?」
視線の先には、ドアに体を隠しながら、こちらにキツい視線を向ける妹の姿があった。
編み込みの上にコサージュを付けたヴィヴィアンは、今日も可憐に白のワンピースを着こなしている。
殿下へ挨拶をした後、部屋に戻っているはずの妹の姿に、ヴィヴィアン付きの侍女はしきりに頭を下げていた。どうやら言うことを聞かなかったみたいだ。
「わたくしはお兄様が心配なのです! 何でよりによって、その方と二人っきりなんですの!?」
「殿下の侍従や護衛もいるから、二人っきりじゃないよ」
侯爵家の屋敷ということもあり、護衛の人数は最低限に留められているものの、殿下が一人で行動することはあり得ない。
「侍従や護衛は数に含みません! それに手をお繋ぎになってるじゃありませんか! 危険ですわ!」
「大丈夫だよ。殿下とは仲直りしたって言っただろう? それよりヴィー、部屋に戻らないと母上に叱られるよ」
デビュタント前に異性交流を持つことは、貴族社会では推奨されていない。
社交界のマナーにうるさい母上にバレたら、ヴィヴィアンが叱られることは必至だ。
「でも……!」
「キーキーとうるさい」
尚も言い募ろうとしたヴィヴィアンに答えたのは殿下だった。
彼女の目尻が、より一層釣り上がる。
「あなたが問題なのです! 今すぐお兄様から手を放しなさい!」
「何でオレがオマエなんかに命令されなくちゃならないんだ。オレはルーファスがどうしてもって言うから、来てやったんだぞ!」
見せつけるように殿下が腕まで絡ませてきたところで、ヴィヴィアンはドアから離れて全身を現した。
すかさず空いていた手を、彼女に取られる。
「よくもまぁ、お兄様の顔を傷付けておきながら偉そうに! 第一、お兄様はわたくしのお兄様でしてよ!」
「あ、あれは、わざとじゃない! ルーファスは、オレと遊ぶんだ! オマエこそ手を放せよ!」
どうしよう。
二人を宥めないとという気持ちと、もう少しこのままでもいいかな、という気持ちがせめぎ合う。
それぞれの手に、二人の温もりが伝わっていた。
天国は、ここにあったんだ。
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