乙女ゲーのラスボスに転生して早々、敵が可愛すぎて死にそうです

楢山幕府

文字の大きさ
15 / 82

015

しおりを挟む
 ゲーム内で、ラスボスについて語られる機会はあまりない。
 悪役令嬢であるヴィヴィアンに対して、兄のルーファスは話がわかる相手として登場する。しかし実は彼が、妹や王都で起こる事件の犯人たちを煽っていた黒幕だった。
 筋書きでは、それだけである。
 何故彼が闇の化身になったのかまでは明かされないのだ。

 どうしたらいいんだろう……。

 できるだけ筋書きからは離れたくなかった。
 仮に僕がラスボスにならなかったら? 世界の敵である「闇」がどうなるのか、全く想像がつかない。
 だったら目に見える形で倒されるのが一番確実だろう。

 だから僕は、死ななければならないと思ったのに。

 生きていられる可能性があるなら、それを喜ぶべきだ。
 だけど突然迷子になってしまったようで、気持ちは晴れなかった。

「なぁ、なんか睨まれてるんだけど」
「睨まれてる?」

 いけない、今は殿下が遊びにきているんだ。余計なことを考えるのはよそう。
 僕たちは乗馬の準備を終え、これから庭へ出るところだった。
 ギュッと繋いでいる手に力を込められて、殿下の視線を追う。

「ヴィー? 部屋にいないとダメだろう?」

 視線の先には、ドアに体を隠しながら、こちらにキツい視線を向ける妹の姿があった。
 編み込みの上にコサージュを付けたヴィヴィアンは、今日も可憐に白のワンピースを着こなしている。
 殿下へ挨拶をした後、部屋に戻っているはずの妹の姿に、ヴィヴィアン付きの侍女はしきりに頭を下げていた。どうやら言うことを聞かなかったみたいだ。

「わたくしはお兄様が心配なのです! 何でよりによって、その方と二人っきりなんですの!?」
「殿下の侍従や護衛もいるから、二人っきりじゃないよ」

 侯爵家の屋敷ということもあり、護衛の人数は最低限に留められているものの、殿下が一人で行動することはあり得ない。

「侍従や護衛は数に含みません! それに手をお繋ぎになってるじゃありませんか! 危険ですわ!」
「大丈夫だよ。殿下とは仲直りしたって言っただろう? それよりヴィー、部屋に戻らないと母上に叱られるよ」

 デビュタント前に異性交流を持つことは、貴族社会では推奨されていない。
 社交界のマナーにうるさい母上にバレたら、ヴィヴィアンが叱られることは必至だ。

「でも……!」
「キーキーとうるさい」

 尚も言い募ろうとしたヴィヴィアンに答えたのは殿下だった。
 彼女の目尻が、より一層釣り上がる。

「あなたが問題なのです! 今すぐお兄様から手を放しなさい!」
「何でオレがオマエなんかに命令されなくちゃならないんだ。オレはルーファスがどうしてもって言うから、来てやったんだぞ!」

 見せつけるように殿下が腕まで絡ませてきたところで、ヴィヴィアンはドアから離れて全身を現した。
 すかさず空いていた手を、彼女に取られる。

「よくもまぁ、お兄様の顔を傷付けておきながら偉そうに! 第一、お兄様はわたくしのお兄様でしてよ!」
「あ、あれは、わざとじゃない! ルーファスは、オレと遊ぶんだ! オマエこそ手を放せよ!」

 どうしよう。
 二人を宥めないとという気持ちと、もう少しこのままでもいいかな、という気持ちがせめぎ合う。
 それぞれの手に、二人の温もりが伝わっていた。

 天国は、ここにあったんだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...