乙女ゲーのラスボスに転生して早々、敵が可愛すぎて死にそうです

楢山幕府

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 夜、勉強机に向かっていると、珍しく父上が部屋を訪ねてきた。

「少し話せるか」

 すぐに頷いてソファを勧める。
 対面して腰を落ち着けると、予想外の言葉が父上の口から出てきた。

「すまなかった」
「……何がですか?」

 父上が謝罪する意味がわからず、訊き返すしかない。

「コーン氏の件だ。調べが足りてなかった。お前も不快だっただろう」
「あぁ、陛下から話が行ったのですか」
「来ないわけがない。私はお前の父親だぞ。何故私に相談しなかった!」

 重く響く声に、身が竦む。
 父上は立ち上がると、僕に影を落とした。
 感じる圧力に、顔を上げられない。

「確信が持てなくて……」
「不快だと感じた時点で教えろ。判断違いなら私が指摘する。一人で抱え込むのではない!」

 ごめんなさい。
 そう言いたいのに、開いた口から声が出てきてくれない。
 思うように動いてくれない体に、焦りが募る。
 まごつく僕に、落ちる影が濃くなって――。
 父上のコロンが鼻をついた理由に思い至るまで、時間を要した。

「怒りにきたのではない、謝りにきたのだ」
「父上……」

 父上の胸が、目の前にあった。
 服越しに体温が伝わってきて、ようやく抱きしめられているのだとわかる。

「気づくべきだった。お前に問題はないと無責任に思い込んでいた。お前の気持ちを、また見過ごしていた」
「父上に相談しなかった僕の落ち度です」
「それも否定しない。次はないぞ、私も、お前もだ」

 その言葉に目頭が熱くなって、顔を父上の胸に押し付けた。
 抱きしめられる腕の力が強くなる。

 あぁ、僕は。

 僕は、ちゃんと愛されている。
 実感した父上の思いに、心が満たされていく。
 温かい。
 幸福感に包まれて、このまま眠ってしまいそうだった。

 けれど浮かんできた疑問が、それを邪魔する。

 何故僕は、闇の化身になった?
 愛する家族がいる現状からは、到底考えられない。
 ゲームの舞台となる六年後までに、闇に堕ちる事態が発生するのだろうか。
 それとも。

 僕は、既にやらかしてしまっているのだろうか。

 死ななければならないと思った。
 それが世界を救う方法だから。
 けどもし、僕が前世の記憶を理解したことで、流れが変わっていたら……?

 父上が自主的に僕を抱きしめたのは、これがはじめてだった。
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