悲劇の駒姫に神様がくれたひと時の幸せは『令和の切ない恋』だった

神戸 雪谷

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悲劇の始まり

第十話 駒姫編:あなたは誰?

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運命の文禄四年、そして令和へ――
令和7年8月15日

私は、目が覚めています。
ですが、まだ目を開けていません。

同世代とのお買い物、プール、慎と見た花火。
自分の気持ちのままに、自由に行動ができる世界。

お家の為、身分の差、天下人の命令
自分の心を押し殺して、生きる世界

今、私が目を開けたらどちらの世界でしょうか。
朝を迎える度に思うことです。

この世界にずっといたい。

ですが、私が戻らなければ最上家にどのような禍が
降り掛かるか分かりません。

神様、あなたさまは、わたくしをどうなされたいのですか。

もし、自由な世界であれば目を開けた瞬間に、
駒凛こまり様と慎の2人の写真が見えます。

目を開けるのが怖い・・・

「慎、おはよう」
神様はもう1日、この世界にいることをお許し頂けたようです。

「駒凛、朝ごはんできたわよ~」
「は~い」

今日は、慎と霞城公園かじょうこうえんデートです。

父上の像がある私が生まれ育った場所
もう帰ることができない場所

駒凛様のスマホの写真を見ると、
何度か霞城公園へ行かれているようです。

慎とは14時山形駅に集合です。

それまで、私はお母さんに言われた
夏休みの宿題の残りをすることにしました。
申し訳ございませんが、まったく分かりません。

よかった。澪から宿題を写させてもらうことになっています。
ただ、歴史総合の教科書をみて私は愕然がくぜんとしました。

豊臣家は滅亡して、天下人は徳川 家康様。徳川様の時代が続く。
もし、元の世界に戻ったら、私は、最上家はどうなるのでしょうか。

怖くなった私は教科書を閉じました。

お昼ご飯を食べて、家を出ようとした時、
お母さんから言われました。

「今日、おばあちゃんが来るから、早めに帰って来てね。
 お小遣いをもらえるかもよ。」

母方の祖父は天童市の神社の宮司で祖母が山形市に来るついでに
立ち寄るそうです。

私は一人で山形駅へバスで行きました。
山形駅に着くと、今日も慎が先に来ていました。

「慎、いつも早いね。」
「うん、それが俺のお役目だから」

「お役目?」
「そう、彼氏の役目。」

すると今日は、慎から「はい」と言って手をつないでくれました。
私たちは、南門から入り本丸御殿広場へと行きました。

私が知っている山形城とは随分、面影が変わっています。

すると慎が立ち止まって、何かをずっと見ています。
古い井戸です。

「あの井戸がどうかしたの。」

「いや、あれは義光公の時代から残っている井戸なんだって
 まだ残っているって凄いよね。」

「そうなんだ。」

そう言えば、警護の方々が剣術稽古の後に、井戸の周りで汗を拭かれていた。
それがあの井戸かどうかは分かりません。

しばらく、公園内で櫓やぐらや土塀を見ながら、
お散歩歴史デートを楽しみました。

木陰で聞く小鳥のさえずりが、暑さを和らげてくれます。

慎は父上の像の前で立ち止まり、またお辞儀をしていました。
「最上 義光公は山形の誇りだからね。」

その言葉が私は嬉しかったです。
父上は今もなお、山形の民に慕われている。

私と慎は霞城セントラルへ向かおうと東大手門を抜けると、
父上の歴史館がありました。

「ねえ慎、歴史館に行ってみない。」

「もう何回も行っているし、今日はいいんじゃない。」
「うん・・・」

その後の最上家を知りたいが半分、知るのが怖い半分
慎の言葉にほっとした私がいました。

「ねえ、慎。少し歩くけど行きたいところがあるんだけど。
 いいかな。」

「うん、いいけど、どこ?」

六椹むつくぬぎ八幡宮」

「え・・・ああ、いいよ。インターハイのお礼?」

「まあ、そんなところ。」



六椹八幡宮は最上家にゆかりのある神社です。
そして、駒凛様が慎と一緒にインターハイ前に必勝祈願で
お参りされたようです。

そこに参れば、何かが分かるかもしれません。

六椹八幡宮のたたずまいは元の世界と変わっていません。
本殿に着くと二人でお祈りをしました。

「駒凛は何をお祈りしたの?」
「インターハイ準優勝のお礼。慎は?」

「駒凛といつまでも一緒にいれますように。」
「何、言ってんのよ、『ば~か』」

私は嘘をつきました。
『許されるなら、今はもう少しだけこの世界にいさせてください。
 身勝手ですが、最上家に禍が起きませんように。
 覚悟が出来た時、自ら元の世界に戻ります。帰り方を教えてください。』

その時、小鳥が飛び立つ音と同時に、冷たくても優しい風が吹きぬけ、
私には、『確かに聞こえました』

「駒凛、どうしたの?」

「え、何でもない。」

その後、霞城セントラルに向かうと、とてつもなく高くて巨大な建物があり、
私は思わず見上げてしまい「もの凄く高い!」

それを聞いた慎は「中学の修学旅行で東京へ行ったんだろ」
と言って、笑っていました。

24階の展望フロアに上がると、山形盆地が一望できました。
そこから見える景色は確かに山形です。

山形盆地を囲む山々、馬見ヶ崎川まみがさきがわ
懐かしい風景が広がっています。

元の世界に戻ってしまうと、この風景も見られなくなります。

ふと慎の顔を見ました。
今の慎はどのような感情でこの風景を見ているのでしょうか。
慎は東の山の向こうを見ているようでした。

「駒凛、明日少し遠いけど海を見に行かないか。」
「海、どこの海?」

「仙台に出て松島。」

松島。私も聞いたことがあります。
伊達様のご領地『千代せんだい』の近くにある
風光明媚な多島美の風景が広がる松島

「うん、行きたい」即答しました。

この世界にいる間に、慎と二人で少しでも多くの時間を過ごしたいのと
海を見てみたい思いでした。

もし明日、私が元の世界に戻ったら、この優しい時間は失われ、
大坂で私は鳥籠の小鳥になってしまいます。

私はお母さんに言われた通り、
祖母に会うため、慎とは別れて6時頃に家へ帰りました。
お父さんと姉の竹乃は遅くなるそうです。

祖母はなんとなく、
元の世界で幼い頃に会った母方の祖母に似ている気がします。

祖母は優しく話し掛けてくれて、
「駒凛ちゃん久しぶり、インターハイで準優勝だってね。
 おめでとう。私も鼻が高いよ。
 これお祝いも含めてお小遣いね。
 明日、仙台に行くんでしょ、足しにしてね」

「お母さん、駒凛には甘いんだから~
 明日の仙台は慎ちゃんと二人で行くの?」

「うん、ダメ?」

「いいけど気を付けて行くのよ」

「うん、大丈夫」

「早めに帰りなさいよ、宿題がまだ終わってないんでしょ。」

「あ~それは目途がついているから大丈夫。」

「あんた人のを写しちゃだめよ
 京都大学に行くんだったら、ちゃんと勉強しなさい。」

駒凛様は将来、京都に行かれるのですね。
それは慎と一緒でしょうか。

お母さんがコンビニへ出掛け、祖母と私の2人になった時のことです。
祖母が話し掛けて来ました。

「駒凛ちゃん、あなたは誰なの?」

祖母の言葉に私は言葉を失いました。
祖母は私が駒凛様ではないことに気が付いたようです。

私がしばらく黙っていると、
「いやね、うちのお父さんが神社の宮司でしょ。
 神社に居るといろいろなことがあるのよ。
 あなたからは悲しみ、幸せ、孤独、解放感、恐怖
 様々な感情が複雑に入り混じった不思議な感覚が見えるの。
 無理には聞かないから安心してね。
 ただね、一つだけ聞いてもいいかな。」

「はい」

「この世界で、あなたは幸せな時間を過ごせているの?」

「はい」

「よかった、この話は終りね。二人の秘密
 何か困ったことがあれば、すぐ私に連絡するのよ。
 それと、何も言わずに居なくなるのは無しよ。」

「ありがとうございます。」

私は返事しか出来ませんでした。
祖母は他にも何か気が付いているようでした。

夜、慎から電話があり、明日は朝8時に山形駅集合です。

明日、海が見られますように
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