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第一章
第1話 娘と実験
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皆は【異世界召喚】や【異世界転移】等と言った〝非現実的〟事象を信じるだろうか。
俺、シュヴェリーン=ヴァインウルトはそれを信じる。というよりは、俺こそがその被害者の一人である。
俺は、【異世界召喚】、この世界の視点からすれば【勇者召喚】によってこの世界【レヴィア】に召喚された〝元〟勇者である。
そう、元である。
……え? 今は何をしているのかって? 魔王をしている!(どやぁぁぁぁぁ!)
おほん。というのも、私が前魔王を殺した後、このような事があったのだ。
☆★☆★☆
「勇者様、この後、少しお時間を頂けませんか?」
この十六歳程度に見えるツインロールの金髪女は、この世界の三大国家【ランベル】の第一王女、ユーフィリア=ランベルである。
彼女は人畜無害な顔をしてこう誘ってきた。
「どうしたの? リア」
「いえ、少しお話したいことがありますのでお時間を頂けたらなと思いまして……だめですか……?」
その水色の【目】を上目遣いに向けてくる。
今思えばこいつ、めっちゃキモイ。なんなら今の配下のルーシーの方が可愛い。……かなりまな板だけど。でもね、女性の良さは胸の大きさで決まるわけじゃないからね! ……何を言っているんだ、俺は。
さて、そんな【目】に負けて俺はユーフィリアに付いて行ってしまった。この時、ユーフィリアが発動していた魔法に気が付いていれば、未来は変わったのかもしれない。と言っても、今の状態に満足しているけどな。【オリヴィエ】に感謝しないと。
閑話休題
ユーフィリアはこの時、いや、今思えば召喚され、初めて会った時から俺に対してじわじわと洗脳魔法の【インプリシット】を使っていた。
ユーフィリアの水色の〝目〟と〝勇者様〟という言葉を鍵言に、俺の行動を誘導するというものだ。
本来、【インプリシット】は意識を逸らす程度にしか使えないが、今回の場合は数年掛けてゆっくりと深く、深層意識に根付くように掛けられ、その上位互換である【ギアス】と同等の効力を発揮するようになっていた。小規模な魔法は大規模な魔法をすら、凌駕するということだな。
さて、そんな【インプリシット】に逆らえず、俺はノコノコと人気のない部屋へ入っていった。
その部屋の中には俺が冒険を共にした 剣士・ルドルフ、格闘家・ヴィルヘルム、そして、魔法士・ユーフィリア=ランベルが。そう言えば、あと一人、神官のユイ=エルメスは居なかったな。
まあ、いい。
その後、予唱していたと思われる中級魔法の【フレイム】で焼かれ、剣で心臓を貫かれ、ナックルで頭を吹き飛ばされた。
ここで、俺の第二の人生は終わるはずであった。そう、終わるはずであったのである。
しかし、堕女神化した女神【オリヴィエ】に召喚された時から見初められていた俺は〝彼女〟によって【魔王】として生き返らされた。
【魔王】として生き返らされて三年。
俺は元勇者の転生者であること。嘗ての仲間によって残虐的に殺されたこと。そして、【魔王】の名に於いて、魔人の国【ジーア】を更に発展させ、どの種族をも受け入れ、他国とも過度な干渉をしない〝永世中立国〟を宣言し、やられたら徹底的にやり返すことを誓った。
永世中立国の具体的な内容として、人間が治める国家を含める他国に干渉させない、しない。万が一、他国が干渉してきた場合は、国民全てが持てる武力を以て相手側が謝るまで止めない。いや、謝っても泣いてもその国家が潰れるまでボコる。
☆★☆★☆
そんな回想をしていると執務室のドアの外から ドタドタドタ と走る音が聞こえてき、その足音の主は、木製のドアを ドタンッ! と蹴り破ると「まおー! 私の魔法実験に付き合って!」と言ってきた。
薄桃色の髪をツインテールにして、右手に持った魔杖をこちらに向けてくる少女。
彼女の名をエルフィア=ヴァインウルト。
一応、俺の家族ということになっている。
彼女は、俺が各所を視察している時に、道端に捨てられていたのを見つけた。当時はただの捨て子だと思っていたが、今では天才大魔法士を自称するぐらいには魔法のレベルが上がってしまった。
「はぁ……エルフィ、俺を呼ぶ時は続柄で呼べと何回言ったら分かるんだ……」
「まおーはまおーなんだからまおーなんだよ! それに、ちゃんとした時はお父様って言ってるからいーでしょ?」
うっ、確かにその通りだから反論出来ない……。
「魔法実験なら後で手伝ってやるから、ちょっと横に立っておいてくれ」
「なにー? なんかやるのー?」
「エルフィからしたら面白い事かもな」
すると、コツコツという足音が近付いて来て、部屋の少し手前で止まる。
破壊されているドアを見て、少し引いているようだ。
俺は小声で「ほら、引かれてるぞ」とエルフィに言うが、彼女はぷいっとそっぽを向いて口笛を吹いている。無駄に上手いのがウザイ。
足音の主は部屋の様子を窺うように首だけをひょっこりさせ、部屋の主が居ることを確認すると、一歩だけ部屋に足を踏み入れ「失礼致します」と言った。
「よく来てくれたね、アルベルト君」
「はい。それで、本日はどのような御用でしょうか?」
「うん、率直に言うけど、君、クビね。明日から来なくていいよ」
「はい? 失礼ですが、もう一度o──」
アルベルトがもう一度お願いしますと言いかけた時、俺の隣にいたエルフィが割り込んだ。
「ねぇねぇ、アルベルト、とうとうお耳まで耄碌しちゃったの? 私のお父様がクビと言ったのよ? とっとと荷物纏めてこの城から出て行きなさいよ。荷物が纏められないのならこの天才大魔法士様エルフィアが貴方の荷物を吹き飛ばして差し上げましょうか?」
等々、エルフィが口撃を仕掛け始める。
それに耐えかねたアルベルトは、懐に忍ばしていたと思われる魔仗を取り出し「《炎よ》!」と言った。
すると、中級の火炎魔法【フレイム】が発動し、俺に向かって飛んできた。しかし、それを見逃す【魔王】と自称【大魔法士】では無い。
俺はフィンガースナップで。エルフィは魔仗を握る強さで、それぞれ【障壁】と【アイス】を行使した。
俺の【障壁】によって【フレイム】は消滅。
エルフィの【アイス】によって、アルベルトの魔仗とその脚が凍り付いた。
エルフィは留めと言わんばかりに、魔仗に仕込まれたナイフを引き抜き、アルベルトの第三・四頸神経根を突き刺した。
アルベルトは何が起こったのか理解出来ずに、世界が崩れ落ちる錯覚を見ながら死んでいったであろう。
「……エルフィって、容赦ないよな」
「まおーを守る天才大魔法士兼まおーの娘たるもの、こんぐらいは出来ないとねー」
「お前の父親として言うぞ。俺はお前にナイフの使い方なんて教えたこともないし、対人戦の訓練を付けたことも無いぞ」
「えーとねー、ルーちゃんにやってもらった~」
「ルーシー……はぁ。んで、なんだっけ? 魔法の実験台?」
「ああ! そうだよ、忘れるとこだった! まおー、ちょっと付き合って?」
「いいが、ちょっと待てよ」
そう言ってから【念話】をとある人物に繋げる。
「ルーシー、執務室に来てくれ」
『魔王様……了解しました』
そう伝えると直ぐに【転移】で俺の少し上前に現れた。
悪魔とは思えない銀色の髪と【暗部】所属を示す、黒を基調とした礼服にオーダーメイドの黒ゴススカートを靡かせて着地し、そのまま片膝を付いて顔を伏せる。
「急に呼び出してすまないな」
「いえ。本日は如何なさいましたか?」
「顔を上げろ」
「はっ」
……顔を上げろと言ったのに、少ししか上がらなかったのだが。
「そこの氷塊を捨てておけ。反逆者だ」
「御意」
ルーシーはそれを言うと早々に引き上げようとする。
「ちょっと待て」
「……」
「ルーシー、お前に対する制限を解除する。そう畏まられると俺がやり難い。エルフィと接する時と同じようにな」
そう言うと、ゆっくりと立ち上がり、その整った顔をこちらに向けて屈託のない笑顔でこう言うのであった。
「では! 他に何かようですか?」
「そうそう、そっちの方がやり易いんだよ。んで、その氷塊を捨て終わったら訓練場に来てくれないか? エルフィの実けn……ごほん。訓練相手になってほしいのだが」
おっと、危ない。本音を言いかけた。
「魔王様……いま、実験って言いかけませんでした?」
「気の所為だろ」
「気の所為じゃないです!」
物凄く頬が膨らんでいる。……悪魔の癖にこういう可愛いところがあるんだよな、こいつらって。
「はいはい気の所為じゃない気の所為じゃない。それよりも、早く仕事にかかれ」
「……はぁ。魔王様って、どこか使い魔遣いが荒いんですよね。元勇者とは思えないです!」
文句を言っているところ申し訳ないが、お前も現悪魔とは思えないぞ。
「そういうお前は使い魔らしくないけどな。まぁ、俺がそこまで縛っていないというのもあるんだろうが」
「そうですね。私が使役させてもらったどのヒトよりも制約が緩いですね~。ま、それも、私が何をしても対処出来るという自信の現れだと思いますが」
「まぁ、実際その通りだしな。ほら、行った行った」
「わかりました~」
ルーシーがぱたぱたと執務室から出ていく。
「まおー、着いてきて」
エルフィアの言葉に従って訓練場に向かう。
「んで、今度はなんの実験なんだ?」
「ふふん、聞いて驚くなかれ! 戦略級爆破魔法【炉心融解】だよ!」
「ぶふぅっ!!」
その名前を聞いて思わず吹き出してしまった。
え? なにこの子。しれっとなんてもん開発してくれちゃってんの??
メルトダウンってあれだよね。
原子力が負のボイドにシフトして、核燃料が溶けるってあれだよね。
「うへぇ……まおー、汚い……」
そんな事を考えているとエルフィが苦情を言ってきた。
その方向を見ると、背後に鬼のような何かが見える俺の唾がかかった……って、やべぇ! エルフィの機嫌が!
「《クリーンアップ》すまん、エルフィ。大丈夫か?」
一応、生活魔法に分類される【清浄】を使ってエルフィの身体と服を綺麗にする。が、機嫌は良くなっていなさそうだ。
「《我は稀代の大魔法師なり──》」
「ちょっ、やめっ!」
エルフィが戦略級魔法を唱えようとしたので全力でジャンピング土下座をする。……娘に頭を下げる魔王って、威厳なくね??
「ちょちょちょ、エルちゃん! なにやってるの!」
タイミング良くルーシーが戻ってきた。
「あ、ルーシー、エルフィの実験台になってくれ。このままじゃ俺が殺されそうだ」
あ、やべ。
「実験台! 今、確実に、か・く・じ・つ・に!! 実験台って言いましたよね!?」
「ぴ、ぴゅ~~」
明後日の方向を向きながら口笛を吹いて誤魔化す。
「そんなので私は誤魔化されませんよ!」
「《命令だ・エルフィの相手をしてこい》」
「ちょっ、せこい! せこいです魔王様!!」
割と弱めの【命令】を使うとルーシーは自らの意思に反して身体が動き始める。
「ルーちゃん、私のお相手になってくれるの? ありがとね。それじゃあ遠慮なく!《虚空に叫べ・此処に残響するは──》」
「わぁぁあぁぁあっ! ひ、ひ、ひ、《光の壁よォッ!!》」
「《──天空の咆哮》」
ルーシーが【リフレクター】を何重にも起動し、エルフィから逃げる。そして、そんなものは知らんとばかりに【炉心融解】の詠唱を完成させたエルフィ。
……これ、なんの魔法的防御もしていない俺が一番被害受けるんじゃね……?
「……《遍く総ての精霊よ・我を護り給え》」
……これで、あのキノコ雲を出すような魔法を防げたらいいなぁ……なんて。
「そんな都合のいいことある訳ないですよねぇっ!《風を纏いて駆け抜けよッ!!》」
瞬間、強い風が俺の身体を掻っ攫って、超高速で移動する。
うん。やっぱり、あの魔法防御だけでは足りなかったようだ。俺の服が少し破けてる。……エルフィの事だから、事前に最上級の魔法防御をしてからあれを放ったんだろうけど、ルーシーはなぁ……。召喚し直すか。
「《送還・ルーシー》《再召喚・ルーシー》」
それを唱え終えると俺の隣にルーシーが現れた。
「ふぁぁぁ~、助かりましたぁ~……。って、魔王様! 酷いですよっ!」
召喚したばかりのルーシーはそんなことを言ってきたのであった。
俺、シュヴェリーン=ヴァインウルトはそれを信じる。というよりは、俺こそがその被害者の一人である。
俺は、【異世界召喚】、この世界の視点からすれば【勇者召喚】によってこの世界【レヴィア】に召喚された〝元〟勇者である。
そう、元である。
……え? 今は何をしているのかって? 魔王をしている!(どやぁぁぁぁぁ!)
おほん。というのも、私が前魔王を殺した後、このような事があったのだ。
☆★☆★☆
「勇者様、この後、少しお時間を頂けませんか?」
この十六歳程度に見えるツインロールの金髪女は、この世界の三大国家【ランベル】の第一王女、ユーフィリア=ランベルである。
彼女は人畜無害な顔をしてこう誘ってきた。
「どうしたの? リア」
「いえ、少しお話したいことがありますのでお時間を頂けたらなと思いまして……だめですか……?」
その水色の【目】を上目遣いに向けてくる。
今思えばこいつ、めっちゃキモイ。なんなら今の配下のルーシーの方が可愛い。……かなりまな板だけど。でもね、女性の良さは胸の大きさで決まるわけじゃないからね! ……何を言っているんだ、俺は。
さて、そんな【目】に負けて俺はユーフィリアに付いて行ってしまった。この時、ユーフィリアが発動していた魔法に気が付いていれば、未来は変わったのかもしれない。と言っても、今の状態に満足しているけどな。【オリヴィエ】に感謝しないと。
閑話休題
ユーフィリアはこの時、いや、今思えば召喚され、初めて会った時から俺に対してじわじわと洗脳魔法の【インプリシット】を使っていた。
ユーフィリアの水色の〝目〟と〝勇者様〟という言葉を鍵言に、俺の行動を誘導するというものだ。
本来、【インプリシット】は意識を逸らす程度にしか使えないが、今回の場合は数年掛けてゆっくりと深く、深層意識に根付くように掛けられ、その上位互換である【ギアス】と同等の効力を発揮するようになっていた。小規模な魔法は大規模な魔法をすら、凌駕するということだな。
さて、そんな【インプリシット】に逆らえず、俺はノコノコと人気のない部屋へ入っていった。
その部屋の中には俺が冒険を共にした 剣士・ルドルフ、格闘家・ヴィルヘルム、そして、魔法士・ユーフィリア=ランベルが。そう言えば、あと一人、神官のユイ=エルメスは居なかったな。
まあ、いい。
その後、予唱していたと思われる中級魔法の【フレイム】で焼かれ、剣で心臓を貫かれ、ナックルで頭を吹き飛ばされた。
ここで、俺の第二の人生は終わるはずであった。そう、終わるはずであったのである。
しかし、堕女神化した女神【オリヴィエ】に召喚された時から見初められていた俺は〝彼女〟によって【魔王】として生き返らされた。
【魔王】として生き返らされて三年。
俺は元勇者の転生者であること。嘗ての仲間によって残虐的に殺されたこと。そして、【魔王】の名に於いて、魔人の国【ジーア】を更に発展させ、どの種族をも受け入れ、他国とも過度な干渉をしない〝永世中立国〟を宣言し、やられたら徹底的にやり返すことを誓った。
永世中立国の具体的な内容として、人間が治める国家を含める他国に干渉させない、しない。万が一、他国が干渉してきた場合は、国民全てが持てる武力を以て相手側が謝るまで止めない。いや、謝っても泣いてもその国家が潰れるまでボコる。
☆★☆★☆
そんな回想をしていると執務室のドアの外から ドタドタドタ と走る音が聞こえてき、その足音の主は、木製のドアを ドタンッ! と蹴り破ると「まおー! 私の魔法実験に付き合って!」と言ってきた。
薄桃色の髪をツインテールにして、右手に持った魔杖をこちらに向けてくる少女。
彼女の名をエルフィア=ヴァインウルト。
一応、俺の家族ということになっている。
彼女は、俺が各所を視察している時に、道端に捨てられていたのを見つけた。当時はただの捨て子だと思っていたが、今では天才大魔法士を自称するぐらいには魔法のレベルが上がってしまった。
「はぁ……エルフィ、俺を呼ぶ時は続柄で呼べと何回言ったら分かるんだ……」
「まおーはまおーなんだからまおーなんだよ! それに、ちゃんとした時はお父様って言ってるからいーでしょ?」
うっ、確かにその通りだから反論出来ない……。
「魔法実験なら後で手伝ってやるから、ちょっと横に立っておいてくれ」
「なにー? なんかやるのー?」
「エルフィからしたら面白い事かもな」
すると、コツコツという足音が近付いて来て、部屋の少し手前で止まる。
破壊されているドアを見て、少し引いているようだ。
俺は小声で「ほら、引かれてるぞ」とエルフィに言うが、彼女はぷいっとそっぽを向いて口笛を吹いている。無駄に上手いのがウザイ。
足音の主は部屋の様子を窺うように首だけをひょっこりさせ、部屋の主が居ることを確認すると、一歩だけ部屋に足を踏み入れ「失礼致します」と言った。
「よく来てくれたね、アルベルト君」
「はい。それで、本日はどのような御用でしょうか?」
「うん、率直に言うけど、君、クビね。明日から来なくていいよ」
「はい? 失礼ですが、もう一度o──」
アルベルトがもう一度お願いしますと言いかけた時、俺の隣にいたエルフィが割り込んだ。
「ねぇねぇ、アルベルト、とうとうお耳まで耄碌しちゃったの? 私のお父様がクビと言ったのよ? とっとと荷物纏めてこの城から出て行きなさいよ。荷物が纏められないのならこの天才大魔法士様エルフィアが貴方の荷物を吹き飛ばして差し上げましょうか?」
等々、エルフィが口撃を仕掛け始める。
それに耐えかねたアルベルトは、懐に忍ばしていたと思われる魔仗を取り出し「《炎よ》!」と言った。
すると、中級の火炎魔法【フレイム】が発動し、俺に向かって飛んできた。しかし、それを見逃す【魔王】と自称【大魔法士】では無い。
俺はフィンガースナップで。エルフィは魔仗を握る強さで、それぞれ【障壁】と【アイス】を行使した。
俺の【障壁】によって【フレイム】は消滅。
エルフィの【アイス】によって、アルベルトの魔仗とその脚が凍り付いた。
エルフィは留めと言わんばかりに、魔仗に仕込まれたナイフを引き抜き、アルベルトの第三・四頸神経根を突き刺した。
アルベルトは何が起こったのか理解出来ずに、世界が崩れ落ちる錯覚を見ながら死んでいったであろう。
「……エルフィって、容赦ないよな」
「まおーを守る天才大魔法士兼まおーの娘たるもの、こんぐらいは出来ないとねー」
「お前の父親として言うぞ。俺はお前にナイフの使い方なんて教えたこともないし、対人戦の訓練を付けたことも無いぞ」
「えーとねー、ルーちゃんにやってもらった~」
「ルーシー……はぁ。んで、なんだっけ? 魔法の実験台?」
「ああ! そうだよ、忘れるとこだった! まおー、ちょっと付き合って?」
「いいが、ちょっと待てよ」
そう言ってから【念話】をとある人物に繋げる。
「ルーシー、執務室に来てくれ」
『魔王様……了解しました』
そう伝えると直ぐに【転移】で俺の少し上前に現れた。
悪魔とは思えない銀色の髪と【暗部】所属を示す、黒を基調とした礼服にオーダーメイドの黒ゴススカートを靡かせて着地し、そのまま片膝を付いて顔を伏せる。
「急に呼び出してすまないな」
「いえ。本日は如何なさいましたか?」
「顔を上げろ」
「はっ」
……顔を上げろと言ったのに、少ししか上がらなかったのだが。
「そこの氷塊を捨てておけ。反逆者だ」
「御意」
ルーシーはそれを言うと早々に引き上げようとする。
「ちょっと待て」
「……」
「ルーシー、お前に対する制限を解除する。そう畏まられると俺がやり難い。エルフィと接する時と同じようにな」
そう言うと、ゆっくりと立ち上がり、その整った顔をこちらに向けて屈託のない笑顔でこう言うのであった。
「では! 他に何かようですか?」
「そうそう、そっちの方がやり易いんだよ。んで、その氷塊を捨て終わったら訓練場に来てくれないか? エルフィの実けn……ごほん。訓練相手になってほしいのだが」
おっと、危ない。本音を言いかけた。
「魔王様……いま、実験って言いかけませんでした?」
「気の所為だろ」
「気の所為じゃないです!」
物凄く頬が膨らんでいる。……悪魔の癖にこういう可愛いところがあるんだよな、こいつらって。
「はいはい気の所為じゃない気の所為じゃない。それよりも、早く仕事にかかれ」
「……はぁ。魔王様って、どこか使い魔遣いが荒いんですよね。元勇者とは思えないです!」
文句を言っているところ申し訳ないが、お前も現悪魔とは思えないぞ。
「そういうお前は使い魔らしくないけどな。まぁ、俺がそこまで縛っていないというのもあるんだろうが」
「そうですね。私が使役させてもらったどのヒトよりも制約が緩いですね~。ま、それも、私が何をしても対処出来るという自信の現れだと思いますが」
「まぁ、実際その通りだしな。ほら、行った行った」
「わかりました~」
ルーシーがぱたぱたと執務室から出ていく。
「まおー、着いてきて」
エルフィアの言葉に従って訓練場に向かう。
「んで、今度はなんの実験なんだ?」
「ふふん、聞いて驚くなかれ! 戦略級爆破魔法【炉心融解】だよ!」
「ぶふぅっ!!」
その名前を聞いて思わず吹き出してしまった。
え? なにこの子。しれっとなんてもん開発してくれちゃってんの??
メルトダウンってあれだよね。
原子力が負のボイドにシフトして、核燃料が溶けるってあれだよね。
「うへぇ……まおー、汚い……」
そんな事を考えているとエルフィが苦情を言ってきた。
その方向を見ると、背後に鬼のような何かが見える俺の唾がかかった……って、やべぇ! エルフィの機嫌が!
「《クリーンアップ》すまん、エルフィ。大丈夫か?」
一応、生活魔法に分類される【清浄】を使ってエルフィの身体と服を綺麗にする。が、機嫌は良くなっていなさそうだ。
「《我は稀代の大魔法師なり──》」
「ちょっ、やめっ!」
エルフィが戦略級魔法を唱えようとしたので全力でジャンピング土下座をする。……娘に頭を下げる魔王って、威厳なくね??
「ちょちょちょ、エルちゃん! なにやってるの!」
タイミング良くルーシーが戻ってきた。
「あ、ルーシー、エルフィの実験台になってくれ。このままじゃ俺が殺されそうだ」
あ、やべ。
「実験台! 今、確実に、か・く・じ・つ・に!! 実験台って言いましたよね!?」
「ぴ、ぴゅ~~」
明後日の方向を向きながら口笛を吹いて誤魔化す。
「そんなので私は誤魔化されませんよ!」
「《命令だ・エルフィの相手をしてこい》」
「ちょっ、せこい! せこいです魔王様!!」
割と弱めの【命令】を使うとルーシーは自らの意思に反して身体が動き始める。
「ルーちゃん、私のお相手になってくれるの? ありがとね。それじゃあ遠慮なく!《虚空に叫べ・此処に残響するは──》」
「わぁぁあぁぁあっ! ひ、ひ、ひ、《光の壁よォッ!!》」
「《──天空の咆哮》」
ルーシーが【リフレクター】を何重にも起動し、エルフィから逃げる。そして、そんなものは知らんとばかりに【炉心融解】の詠唱を完成させたエルフィ。
……これ、なんの魔法的防御もしていない俺が一番被害受けるんじゃね……?
「……《遍く総ての精霊よ・我を護り給え》」
……これで、あのキノコ雲を出すような魔法を防げたらいいなぁ……なんて。
「そんな都合のいいことある訳ないですよねぇっ!《風を纏いて駆け抜けよッ!!》」
瞬間、強い風が俺の身体を掻っ攫って、超高速で移動する。
うん。やっぱり、あの魔法防御だけでは足りなかったようだ。俺の服が少し破けてる。……エルフィの事だから、事前に最上級の魔法防御をしてからあれを放ったんだろうけど、ルーシーはなぁ……。召喚し直すか。
「《送還・ルーシー》《再召喚・ルーシー》」
それを唱え終えると俺の隣にルーシーが現れた。
「ふぁぁぁ~、助かりましたぁ~……。って、魔王様! 酷いですよっ!」
召喚したばかりのルーシーはそんなことを言ってきたのであった。
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代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
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