裏切られた勇者

月夜桜

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第一章

第2話 怪しい動き

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「よし、ルーシー、俺の手を掴め。【転移】で城下町の平民街に避難するぞ」
「この貸しは大きいですよ!」

 そう言いつつもルーシーは俺の手を握ってくる。可愛い奴め。

「《テレポート》」

 が、俺は一つの間違いを犯した。それは〝慣性〟を消さずに【転移】したことであった。つまり、どういうことかと言うと──

「よっとぉあわぁ!?」

 ──先程まで飛んでいた慣性をそのまま持ってきてしまった為に、【転移】が終了したと同時に壁に叩き付けられた。

「いってぇ……」

 そんな様子を見ていた男が「魔王様、大丈夫ですかい……?」と声を掛けてきた。

「あ、ああ。すまん。ちょっと慌てて【転移】したのでな……。〝慣性〟を消すのを忘れていた……」
「魔王様が逃げ出すってぇとぉ、またエルフィア嬢の実験ですかい? さっき、かなり大きな音がしてたが……」
「あ、ああ。また、戦略級の魔法を作り出したのでな。何故か知らんが、実験台にされていた」

 男の顔が引き攣っている。

「そ、それは大変でしたね……。では、私は仕事があるのでこれで」

 そう言って去っていった。

「さて、ルーシー、大丈夫か?」
「いてて……魔王様、こういう所ありますよね……」
「お前も似たようなもんだがな。さて、魔王城の方は──」

 目を向けると、明らかにヤバそうなキノコ雲が立ち上っている。

「……あれ、大丈夫だよな?」
「エルちゃんが大丈夫かって話なら大丈夫だと思いますよ? ……訓練場がって意味なら、絶対に大丈夫じゃないです。あれ、どう考えても、魔王様の防郭魔法を貫通してるじゃないですか」
「だよなぁ……。後始末、一体誰がやるんだ?」
「そりゃ、魔王様じゃないんですか? 一応、エルちゃんの父親なんですし」

 立ちのぼるキノコ雲を、遠い目で眺めながら、そんな事を言い始めるルーシー。
 ……いや、俺、あの惨状を修復するのは嫌だぞ?

「いや……仮にもあいつは第一魔導師団の団長だぞ? そんなやつが後始末を親に任せるってのは……」
「でも、エルちゃんは、細かい作業は苦手ですよ? 多分、更に爆砕して被害が大きくなるだけですよ?」

 ……大魔法が使えるようになってから、細かい作業を嫌がるようになったんだよな。出来ないわけじゃないだろうが、面倒臭がって……まぁ、爆砕☆になるわけだ。……進んでやっているようにしか見えないけどな。

「……あの、魔王様。物凄い速度で魔力反応が近付いてくるんですけど……」

 あー、確かに。何かが近付いて……うわ、エルフィの超長距離狙撃魔法だ……。

「おほん。ルーシー」
「なんですか?」
「【リフレクター】を複数枚重ねて広域展開。俺は魔法そのものを撃ち落とす。魔法が相剋しないように、魔力波長を合わせろよ」
「分かってますよっ!《光の壁よッ!》」

 複数枚の六角形の〝光の壁〟がルーシーの上前方に展開される。
 ……いや、流石に三十枚・・・は展開しすぎだろ。え? エルフィの狙撃魔法の貫通力は洒落にならない? ……確かに。
 さて、それじゃあ、俺も狙撃魔法で迎撃するか。

「《閃雷よ・我が鉾と成りて・刺し穿て》」

 圧縮凍結してあった魔杖スタッフを解凍し、上前方に構える。
 そして、詠唱と同時に起動式を展開せずに、直接魔法式を展開する。
 呪文を唱え終えると、魔法式が起動し、一閃の槍の様なものが、上空の僅かに光る目標に向かって飛翔し始めた。
 あー、あれは当たるな。魔法式が壊れる限界まで魔力を注ぎ込んだし、威力で負けることはないだろう。
 ……お、当たった当たった。
 遠くの方で爆発が見える。

「おおー! エルちゃんの狙撃魔法も大概ですけど、魔王様も凄いですねぇー」
「いや、俺はこの魔杖がないと精密狙撃は出来ないぞ。というか、お前もやれば出来る癖に、何を他人事みたいに言っているんだ?」
「それこそ心外ですよ~。私、あそこまで精密な狙撃は出来ませんよ~。出来ても、動かない的へ一ミリのズレもなく攻撃するぐらいですって」

 そこへ、先程の狙撃魔法を放ってきた張本人が降ってきた。
 彼女は、薄桃色のツインテールをゆらゆらと揺らして宣う。

「よいしょっと。ちょっとルーちゃん! 避けるなんてひどいよ!」
「あ、あんなもの、私が受けたら木っ端微塵どころか跡形すら残らないよ!! 魔王様が再召喚しなかったら、どうなってたか……思い出しただけでも震えが止まらないっ!」

 自分の身を抱き、震える仕草(?)をするルーシー。
 ……悪魔って、こんな可愛いものだったか?
 ……あの、ルーシーさん。何故に俺の方を見るのですか。

「魔王様! 今、失礼な事を考えましたね!?」

 何故バレたし。

「【契約コントラクト】を通して、感情がダダ漏れですっ!」

 うげ……そう言えば、制御するのを忘れてたな。

「悪魔に対して〝可愛い〟ってなんですか! 悪魔を馬鹿にしてるんですか!? もうっ!」

 もうって……そういう所だぞ、お前が可愛いって言われる原因は。
 っと、そんな事よりも──

「こら、エルフィ」

 そう言って、エルフィの頭にコツンと拳を落とす。

「いたいっ……なにするの、まおー!」
「何するの、じゃない。町に向かって魔法を撃つなって、この前も言ったよな? 間違って人に当たったらどうするんだ?」
「うぅっ」

 エルフィが俺から目を逸らす。

「目を見ろ、目を。百歩、いや、千歩譲って、訓練場を破壊するのは許そう。俺が修理すれば良いだけだからな。だがな、この国の人間は掛け替えの無い──換えの効かない大切な財産なんだ。そんな人達が日常を営んでいる町に向かって魔法を撃つとは、一体どんな神経をしているんだ?」
「……ご、ごめんなさぃ……」

 泣きそうになりながら紡がれたエルフィの言葉。そんな言葉の語尾が小さくなる。

「謝るのは俺じゃないだろ? ほら」

 心配そうに様子を見守る市民達に向き直る。
 それに続いて、エルフィが一歩前に出てこう言った。

「め、迷惑を掛けて、ごめんなさい……」

 腰を九十度に曲げて謝罪をする。
 ま、俺もちょっと言い過ぎたし、後で何か買ってやるか。

「皆、そういう訳だ。許してやってくれないか? あぁ、あと、俺も町中に突然転移した事と町中で狙撃魔法を使った事を謝罪する。前者は、流石に死を実感したのでな……」

 ……自分で言っといてなんだが、一回死んでる奴が死を実感するってどんな魔法なんだよ、あれ。
 これは、制限を付けるか。
 クイクイと、袖を引かれる。
 なんだい、エルフィ。
 え? 皆許してくれたって? ふふ、良かったじゃないか。

「ああ、そうだ。エルフィ、【炉心融解メルトダウン】を禁呪に指定する。戦争以外で使わないように。加え、これに関する一切の実験は【異界】で行うように」
「えぇーっ!!」
「えー、じゃない。それと、今後、これに関する実験については、俺とルーシーは関与しない。まだ死にたくねぇし」
「私もまだ死にたくないですぅ!」

 エルフィに向かってビシィッと指を指して言うルーシー。
 だから、なんで挙動がいちいち可愛らしいんだよ。

「エルフィ、ルーシー。久しぶりに、一緒に買い物に行くか」
「──!! うんっ!」「──!? はいっ!」

 うん、元気がいいのはいい事だ。

「まおー、まおー! 前から行きたかった魔道具屋があるのっ」
「魔王様! 私も、前から行きたかったお店があるんです!」

 二人が袖をぐいぐいと引っ張って、各々行きたい店へと行こうとする。

「二人とも、俺は一人しか居ないから、順番に行くぞ? まずは、エルフィからだ」
「うんっ!」

 こうして、俺達は仕事をほっぽり出して買い物に行くのであった。

 ☆★☆★☆

 各々、欲しいものが手に入り、満面の笑みで帰宅……帰城?中。
 俺の前では、エルフィとルーシーが

「いやぁ、思わないところで、欲しかった物が手に入ったねぇ~」
「そうだねっ」

 と、談笑している。

 エルフィには、新しい魔法理論が書かれているらしい魔導書を。
 ルーシーには、何の付与効果エンチャントも付いていない新緑色のブローチを買った。
 ……かなり痛い出費だったが、まぁ、二人が喜んでいるなら、それでいいだろう。

 そんな事を考えていると、何時の間にか、俺の隣に一人の男の悪魔が歩いていた。

「魔王様、それに団長。こんな所に居たのですか」
「……アレンか。どうした?」
「西方の国境に派遣中の諜報部より報せあり。我、王国軍と思しきを見ゆ。注意されたし。領土侵犯は確認出来ず。との事です」

 そう、告げたのであった。
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