裏切られた勇者

月夜桜

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第一章

第3話 入学式

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「なんだと?」

 アレンから紡がれた言葉を聞き返す。
 王国は何をするつもりだ?

「賊に加え、王国内で勇者召喚が行われたという噂が流れております。市井に流れている物なので眉唾物ですが」

 ……火のないところに煙は立たぬ、か。早急に手を打つ必要がありそうだな。

「アレン、王国内に派遣している【諜報部】の交代を送れ。西方の国境もだ。【暗部】から選抜しても構わん」
「御意」

 俺の言葉を聞くと、すっと消えてしまった。
 これから忙しくなりそうだ。ま、一先ずは、魔法学校の入学式を見に行くことから始めようか。

 ☆★☆★☆

 王立魔法学校。
 それは、我が魔王国領に於いて難関校に分類される魔法を扱う初等の学び舎。
 これと並列した存在として、王立騎士学校があるが、こちらの場合は難関という程ではなく、ある程度の学問が出来ていれば入学することが出来る。
 確かに、魔法学校は、学生にしては精鋭揃いなんだが……なんだ今年の入学生は。
 二、三人、魔力容量キャパシティが桁違いなんだが?

 首席のアリス=フィーリア。
 あの水色の髪は先天性──恐らくだが、先祖返りだろう。
 ……俺が勇者だった頃に、あいつの親族を殺してしまっている。
 フィーリア侯爵家の御令嬢だ。

 次席のエミリー=ティターニア。
 その名の通り、妖精種の血が流れているそうだ。
 今は、燃えるような赤髪を靡かせて──自分を綺麗に魅せているのか?
 風の魔法をそんなことに使うんじゃありませんっ!
 ……人の事を言えないがな。

 最後に、第三席のルイス。
 彼は、平民の出だ。だが、見たところは他の二人と遜色無いレベルの魔力容量を持っている。
 日本ではよく見かけられた彼の様な黒髪は、この辺りではあまり見ないな。

『それでは、魔王陛下より祝辞を賜りたいと思います』

 おっと、俺の番か。

「まず初めに、本魔法学校へ入学出来た新入生諸君。本当に、おめでとう。総勢五千人に及ぶ受験者の中から見事その地位を手に入れる事が出来た四百名の諸君らは正しく秀才であろう。なれど、上には上がいる。
 俺の娘のエルフィアは、ここにいる誰よりも遥かに強い。……首席、次席、第三席のアリス=フィーリア、エミリー=ティターニア、そしてルイスが束になったとしても殺す事は難しいであろう。それ程に──実力が離れている。
 俺達が欲するのは力持つ者──そして、自分で物事を考えられる者だ。そこに貴賎は問わない。努力すれば、この国の王となることも出来る。まぁ、俺を倒せれば、だがな?
 ……我が国では、国民皆兵制を導入しているが、本校に入学した学生は、本日を以て予備集団となる事を努努忘れるな。これは、戦争が始まれば、首都決戦になる前に戦場へ赴く可能性があるという事だ。戦場では簡単に死ぬ。だからこそ、日頃の努力を怠るな。常に万全の体制を整えるようにしろ。だが、無理は禁物だ。
 ……保護者の皆、今日は生徒らの晴れ舞台へ足を運んで頂き感謝する。彼ら彼女らが一生徒である以前に、皆の大切な子だと言うことを念頭に、指導に務めていく。何卒、よろしく頼む。
 少し長くなってしまったが、これで祝辞とさせていただく」

 ふぅ、緊張した。
 向こうの世界では、生徒会長とかもやったりしていたが、それでもこれには慣れない。

『続きまして、本学生徒会長、エルフィア=ヴァインウルトより歓迎の挨拶を賜ります』

 風の魔法──【拡声】でそう伝えられる。
 ……心配だ。実に、心配だ。あの子はちゃんと生徒会長をやれているのだろうか?
 だってあの子だよ? なんの脈絡も無しに【炉心融解メルトダウン】なんて魔法を作っちゃう子だよ?
 え? 親バカ? お前も娘を授かってみろ、多分こうなるぞ。

『皆、私がエルフィアだ。皆の本学への入学、我ら在校生一同、快く歓迎する。さて、皆にひとつ教えておかなければいけないことがある。それは、この学園では、皆の家の権力など無意味に等しいということだ。……昔、私も入学したての時に権力をふりかざそうとしてお父様に殺気をぶつけられてほんと怖かった……初めて、お父様を怖いと思ったもん』

 おいおい、失礼な。あれは殺気じゃなくて威圧だ。可愛い娘にそんな事をするはずないだろう?
 それと、エルフィ、キャラがブレてるぞ!

『こほん。とにかく、この学園では皆の貴賤は関係ない。全ては実力が物を言う世界だ。故に、強くなれ。……私やお父様を倒せる程に、ね♪』

 エルフィのやつ、最後の最後に無邪気さをばら撒いて行ったぞ……。
 あーあ、あの笑顔に騙されてる男子生徒が一杯居る……。
 これで、男子生徒の殆どはエルフィに楯突くことが出来なくなるっていう寸法か。
 我が娘ながら、なんてやつなんだ、あいつ……。

『保護者の皆様、本日は本校の入学式へ……御子息御令嬢の晴れ舞台へとお越し頂き、誠にありがとうございます。本校在校生を代表して厚く御礼申し上げます。私は、本学を……より生徒が過ごし易いようにと改革を進めています。これは、貴族も平民も含め、皆が互いに切磋琢磨し、各々の能力を引き伸ばせる環境を整えたいということです』

 ん? まだ終わってなかったか。

『確かに、在校生の中には残念ながら貴賎意識のあるものが居ます。〝自分は生まれつき平民より優れている。だから、努力をしなくても大丈夫〟などという、馬鹿げた思考を持つものさえ存在する始末です。……そういった行き過ぎた思想の持ち主は、私が身体もプライドもズタボロに叩き潰して二度と魔法を使えなくしていますが、それでも減ることはありません。……本当に、嘆かわしい。そこで、皆様にお願いがございます』

 うん、ちょっと待とうか、エルフィアちゃん?
 お父さん、君がそんな事をしてるなんて知らなかったんだけど?? いや、確かに、昔、貴賎意識の強過ぎるやつなんてこの国には要らんって言ったけどさ? それでも、二度と魔法を使えなくって……。

『例えば──《穿て》』

 エルフィが魔杖スタッフを持たずに詠唱すると、ルイスの周りに十個程の魔法陣が……って!? おい、あいつは何をやってるんだ!!

「《水の精霊よ・彼の者を護りt──》」

 俺が詠唱を完成させる前に、ルイスが腕を一振する。
 すると、彼の周りを囲んでいた〝消滅〟した。

「……は? エルフィの魔法が……消滅……?」

 俺が驚愕していると、エルフィはこの結果が分かっていたかのように話し始める。

『と、このように、平民である第三席のルイス君は、私が気まぐれで発動させた【フレイム】の制御を奪い取って消滅させました。……本気で殺そうとしていなかったとはいえ、こうも簡単に制御を乗っ取られると流石に自信を無くしますね……私ももっと頑張らないと……。こほん。兎に角、平民でもこのような使い手はいるのです。お願いというのは、皆様の御子息御令嬢に改めて、この学園では貴賎の差は関係ないと言うことをお伝えして欲しいのです。貴賎意識自体は問題としていません。強過ぎる貴賎意識が問題なのです。今の制度上、軍の指揮は基本的に貴族が行います。その時に貴賎意識が強い場合、貴族は平民の部下に無理難題を押し付け、平民は貴族の無理難題に反発する事が出来ずに結果として、作戦は失敗。つまりは、部隊の破滅を齎します。強過ぎる貴賎意識は、互いにとってあまり良いものではないのです。と言っても、あまりにも馴れ馴れしすぎるのもよくありませんが。おっと、副会長に〝話長すぎ。早く切って〟って催促されてしまいました。少し長くなってしまいましたが、これにて私からの歓迎の挨拶とさせていただきます』

 そう言って、壇上から降りようとするエルフィ。
 しかし、何かを思い出したかのように再びマイクの前にやってきた。

『ルイス君、突然魔法を嗾けた無礼、お許しください。対抗してくる様子が無かったら途中で解除するつもりでしたが、些か危険でしたね。謝礼の代わりと言ってはなんですが、正式な模擬戦、貴方ならお受け致しますよ。ああ、勿論、その周囲にいた首席、次席の方も危険はありましたので、同じく、正式に模擬戦を申し込んで来るのであれば、お受けする所存です。では』

 そう言ってツインテールを揺らしながら降壇するのであった。
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