【梅雨が招いた雲の下の花鈴】

充ちる

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お母さん。

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翌日やそのまた翌日もこの生活は続き、気づけば1ヶ月が経っていた。

梅雨の季節も終わり、夏真っ只中。その日僕は休日で2人でお昼ご飯を作っていた時、インターホンが鳴った。

特に心当たりがなかったので、不思議に思いながら玄関の扉を開けた。

「はーい」

そこには、雲ひとつない空には似つかわしくない肉のついていない今にも折れそうな華奢な身体の髪の長い女性が立っていた。

「娘を…どうか娘を返してください」

女性は震えた掠れ声で「娘を…娘を…」と何かに怯えているように、縋るようにぶつぶつと訴えてきた。

「娘って…かりんのこと……」

僕はキッチンで僕のことを待っているであろうかりんの方を振り返った。

「かりんって言いました?やっぱりいるんですね!ねぇ!かりん!かりん!帰ってきて!お願いよぉ!かりん!」

女性は僕の肩を掴んで邪魔だと言わんばかりに押しのけて部屋に入ろうとしてきた。

「ちょ、あんたなにしてんだ!そもそも誰なんだよ!」

男にしてはひ弱ではあるが、こんなに不健康な女性の力にはさすがに勝てた。

僕は女性の肩を掴んで部屋への侵入を阻止した。

「ふぅ…ちょっと待っててください」

女性を落ち着かせて後ろの玄関の扉を閉めた。

(近所にこんなとこ見られたら誘拐犯だと思われる……)

僕はキッチンへ行き、かりんをリビングのソファーに座らせた。

「ちょっとここで待ってて。ご飯はもうちょっと待ってな」

「うん」

コクン。と小さく頷いて上目遣いで僕の方を見てくる。

(その目やめて…可愛い…)

玄関に行き、かりんのお母さんと名乗る人をリビングへ招いた。

瞬間、かりんと女性の目が合い、2人が固まった。

「…かりん。この人知ってる?」

かりんは頷くこともなく、ずっと女性を見ていた。

女性を見ると、目から涙が1粒零れ落ちていた。

「…………かりん」

女性は掠れた声でかりんの名前を呼んで、膝から崩れ落ちた。

「お母…………さん……」

怯えた声で、小さく発せられたその言葉は僕と、そして、「お母さん」にもしっかりと届いたらしい。

「……かりん!」

「お母さん」は切羽詰まった声を出し、かりんを抱きしめた。

「……おか……さ………」

抱きしめられたかりんは涙を流し、抱きしめる「お母さん」を受け入れた。

何十分経ったんだろうか、2人は静かにずっと泣いていた。

ひとしきり泣いて涙が収まった頃、2人は顔を見合せた。

「ごめんなさい。私…あなたにあんなこと言ったのに……」

「あんなこと」とは、あの日かりんが話してくれた「もういらない」という言葉だろう。

 「あの日、お父さんに会いに行ったのよ」

「お母さん」は淡々と話し始めた。
その日、何があったのか…………。
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