【梅雨が招いた雲の下の花鈴】

充ちる

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仲直り。

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途切れ途切れ、鼻をすすったり、花鈴はほとんど聞いてないんじゃないかってくらい泣いてしまっていた。

「そんなことがあったんですね」

僕はそんなことしか言えなかった。

辛かったですね。とかそんなこと、言わなくてもわかるだろう。

「二つ、いいですか?」

泣き腫らした目をこちらに向けて浅海さんはコクン。と頷いた。

「花鈴がここにいること、どこで知ったんですか?そしてなぜ、今更取り返しに来たんですか?」

浅海さんは少し戸惑いながら言葉を発した。

「2週間ほど前…買い物をしていたらこのアパートから貴方が出てきたところを見たの。その後ろで笑顔で行ってらっしゃいと言っている花鈴も一緒に……」

朝、僕が仕事に出かける時だろう。

「2人とも幸せそうで、その時は、私が入る隙なんてなくて、花鈴が幸せならって……その時は声をかけることさえも出来なかったの」

僕は浅海さんの背中をゆっくり撫でた。

「花鈴は、私がいないところでも幸せに暮らせているんだと……そう思って、あの時は身を引きました」

浅海さんの声色が変わる。

「でも昨日、この近所の方々がお話してる所に鉢合わせてしまって、話を聞いたら、いきなり幼い子供を連れて、いかがわしいことをしてるんじゃないかとか、虐待まがいなことをしてるんじゃないかとかそういう話をしてて、いてもたってもいられなくて……」

(つまりめちゃめちゃ誤解してたんだな)

「そんなことされてない」

かりんが口を開いた。

「私そんなことされてない。蒼太いい人だもん。ご飯も食べさせてくれるし、お風呂も入らせてくれる。寝るとこも用意してくれたし、欲しいものも買ってくれる」

かりんは熱弁してくれた。

ありがたいけどちょっと恥ずかしいな……。

「まぁ、そういうことです」

僕は浅海さんに苦笑いを向けた。

「浅海さん、泣いて疲れたでしょ。かりんも。ご飯食べる?今からだと……コンビニになるけど」

「そんな……申し訳ないわ私は一旦帰ります」

「お腹空いた……」

「ふふっ…ほんとかりんは食いしん坊だな」

僕はかりんの頭を撫でた。

「じゃあ待っててください。すぐ買ってきますから」

一一一一一一

浅海さんは少し不服といった感じながらも、飯を食べてこれからどうするかの話をした。

「私は、一人で生きていきます。花鈴も幸せな場所を見つけられたんですもの。あの人達はもう花鈴を諦めてるはずよ」

「なんでそんなこと分かるんですか?」

「メール。和之…花鈴のお父さんからメールがきたの」

そのメールの内容を見せてもらった。

『浅海、悪かった。
もう花鈴のことは諦める。
2人で幸せになるよ。
迷惑かけてごめんな。
離婚、承諾してくれてありがとう。』

短文で、簡単に伝えられたメッセージ。

本当かどうかは分からないが、少なくとも僕なんかよりもこの人のことを知っている浅海さんが言うんだ。信じてみよう。

「なら、送っていきます」

「……ありがとうございます」

「3人で行こっか」

かりんの方を見て問いかけると嬉しそうに頷き、3人で家を出た。

電車に乗って3駅で着いてしまった。

(いや近いな)

少しボロいアパートの前で浅海さんが止まった。

「ここですので……ありがとうございました」

「いえ、いつでも会いに来てくださいね」

深深と頭を下げ、かりんに微笑みアパートの一部屋に入っていった。

「じゃあ、帰るか」

かりんは僕の方をじっと見たあとにコクン。と頷き、歩き出した僕の隣をちょこちょこと着いてきた。
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