【梅雨が招いた雲の下の花鈴】

充ちる

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実感。

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病院につき、受付でかりんのことを聞く。

「かりん、近藤 花鈴……」

僕の言葉でない言葉に看護師さんは察しずいてくれ、手術室の前まで案内してくれた。

「ここでお待ちください。今は手術中ですので……」

看護師さんは頭を下げその場から立ち去って行った。

浅海さんと目を合わせ、無事であることを祈る。

数十分後……。

手術中の灯りが消え、扉が開いた。

僕よりも先に浅海さんが立ち上がり、医者らしき人に迫って行った。

「花鈴は……花鈴はどうなったんですか!」

「………………」

医者は静かに首を横に振った。

「手は尽くしましたが……」

とても冷静に、辛そうにそう告げた医者を責めることなんて誰にもできなかった。

浅海さんは崩れ落ちそのまま泣きわめいてしまった。

僕は状況の把握が追いつかず泣くことも悲しむこともできなかった。

ただ、泣いている浅海さんの背中をさすることしか……。

一一一一一一

医者から病院に運ばれてきた時のかりんの状態をどこか上の空で聞いていた。

もう運ばれて来た時点でほぼ可能性はなかったこと。

刺された場所が悪すぎたこと。

運が悪かったとしか言えないと言われたこと。

どれも真実味がなく、僕も浅海さんも抜け殻状態になってしまっていた。

「とりあえず、お母様は残っていただいて、水嶋さんは一度お帰り願います」

「……はい」

その後のことはほとんど何も覚えていない。

なぜこうなった?

僕は何を間違えた?

先にいけと言うかりんの言葉を無視して一緒に出かければよかったのか?

それとも、そもそも出かけること自体が間違いだったのか?

考えても考えても僕は何をすればよかったのかが分からない。

傘もささずにびしょ濡れになりながら家に向かって歩く。

家に帰り、静かで暗い部屋に「ただいま」を言う。

いつもみたいに「おかえりなさい」が帰ってこない……。

僕はようやく、彼女が……かりんが死んだことを理解した。

もう戻ってこない。

(少し鼻にかかる声も、優しい笑顔も、困った顔も、泣いてぐちゃぐちゃになった顔も、優しく僕を撫でてくれたあの手も、僕の手が好きだと言ってくれたあの照れた顔も……全部……戻ってこない……)

僕は泣いた……泣いて泣いて……泣き疲れて寝て、起きて、かりんがいないことをまた理解し泣いて……。

次の日、病院から電話がかかってきた。

(出たくない……出たらまた現実が……でも……!)

指が勝手に着信に応じた。

携帯を耳に当てる。

「…………はい」

泣き続けた所為で枯れてしまった喉から発せられる声は本当に情けない声だった。

「水嶋 蒼太さんですか?私、○○病院の藤井と申します」

声の主は、あの日僕達を手術室まで案内してくれた看護師さんだった。

「そうです何かありましたか?」

冷静を装い、質問をする。

「近藤 花鈴さんのお母様が水嶋様の連絡先を聞きたいと仰っていまして。お教えしても宜しいかと」

(そういえば教えてなかったな……。

自分で聞きに来ればいいのに。

顔、合わせずらかったのかな……)

「いいですよ」

僕は一言そう告げて、看護師さんが何か言うのをさえぎり電話を切った。

2日も泣いたんだ、もう涙は出ない。

僕は横になり、仕事をズル休みしてることを思い出した。

(一応、メール……)

僕は同期の中津にメールを送った。

『連絡なしに休んでごめん。
知り合いが死んだんだ、もう少しだけ休ませて欲しい。
会社に伝えておいてくれないか……。』

もっと上の地位の人に送らなければいけないことはわかっていたが、そんな気力はもうない。

携帯を投げ捨て、天井を見る。

(かりんの……処分しなきゃなのかな……浅海さんに渡すのは……ダメか。さすがに荷が重いだろ)

僕はそんなことを考えながらあれから飯を食ってないことに気がついた。

「飯、食うか……」

足早にコンビニへ行き、適当に買って家に戻った。

机に飯を広げ自分が何をしたのか、また後悔をして涙が出た。

「2人分の飯なんか食えるわけないじゃん……」

もう枯れたと思っていた涙がまた頬を濡らす。

それでも食べないと死んでしまうから食べるしかなくて、否めない気持ちになった。

食べ終わってしばらく放心状態になっていた。

携帯から聞き慣れた着信音が聞こえた。

名前を見ると番号だけ。

誰かわからないがとりあえず出る。

『もしもし……』

浅海さんだ。

「はい」

『ごめんなさい。なにかしてましたか?』

「いや、なにも」

『そう……』

「どうしたんですか?」

『……あ、あのね、お葬式できるようなお金もってないの……私』

(何を言ってるんだ?)

『でも、ちゃんと仏壇は置いてあげたくて……』

「それで……?」

『私、ちゃんと仏壇置くから、置いたらお線香あげてあげてくれませんか……?』

「……はい。分かりました。僕なんかでよければ」

『ありがとうございます』

そういってどちらかともなく電話を切った。

(話が進んでる……。

本当に……)
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