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僕は幼児
パーカスside拾い子
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たまに来る王都からの書簡を数通ため息と共に書類箱へ放り込むと、ひと仕事しようと立ち上がった。ここは最果ての地と言うに相応しい場所だ。騎士団参謀長として長年勤め上げてきた日々も、ここに居ればまるで現実とは思えない。
他には誰も居ないこの場所に、終の住処として誰にも悟られずに時間を掛けて家を建てたのは、まだ現役の頃だった。他国との終わりのない争いに良い加減ウンザリしていた私は、番が病気で亡くなったのを機会に、世捨て竜人として生きようと密かに画策していたのだった。
私が置き手紙ひとつで消えた時はひと騒動あった様だったが、居なければ誰かが後継者になる世の摂理、私はしてやったりとこの平穏な日々を楽しんでいた。時々はふた山越えた小さな街に立ち寄って必要な物を手に入れるくらいで、ほとんど他者と親しく交流しなかったおかげで、私は隠者と呼ばれる様になっていた。
獣人ばかりの小さな街では目立つこの姿はさすがに記憶に残るらしく、しばらくすると王都から私宛の私書が、え街の行きつけの店に届く様になった。頑なに無視するのは悪手だと、簡単な返事を託して私は公然と隠居生活を手にしたのだった。
今日も王都の騎士団からの相談という名の王都への一時帰還の要請と、娘の結婚300周年の夜会への招待状にため息をついた。隠居生活でもしがらみからは逃れられないのだろうかと、玄関の扉を開けて大きく深呼吸した。
最近気に入っている薬草茶を煎じようと、いつもの野原へ薬草を採りに出掛けたのはほんの気晴らしだった。だからまさか幼な子を拾ってしまう事になるとは考えもしなかった。そしてその瞬間、独りの平穏な日々が終わりを告げた。
遠目でも、何かがそこに存在するのは直ぐに分かった。だが、近づくにつれてそれが素っ裸の見たことのない幼い人型の様な存在だとは思いもしなかった。慌てて駆け寄ると、ソレはスヤスヤと安らかな顔をして眠っていた。獣人の子供が人型を取れるのはせいぜい5~6才で、その頃には十分に外敵から逃げたり自立できる頃合いだ。
だが目の前のそれは明らかに人型ではあるけれど、自立などとても無理な頼りなげな様子だった。こんな幼い人型を目にするのは初めてで、私はその触れたら壊れてしまいそうな柔らかなモノを慌ててそっと抱き上げると、懐の服の中へ抱え込んだ。裸だった割に体温は高い様だ。
「…やはり獣人の子かの?」
流石の私も動揺していたのだろう、いつもしない独り言を呟くと急ぎ家に戻った。家にある一番柔らかな布地に包むと、ベッドの上にそっと置いた。時々柔らかな唇をモゴモゴと動かしながらぐっすりと眠る姿は、ずっと見ていても飽きないものだった。
だからソレが目覚めてからたどたどしく喋り始め、ヨチヨチと好き勝手に、でも一人前に部屋の中を歩くのを眺めていると、馬鹿みたいに庇護欲が湧くのは、人型のこのサイズのものを見た事が無いからだろう。
ソレは亡き番のスカーフを、急遽結んでしつらえた服のまま突然尻餅をつくと、足を投げ出して動かなくなった。まるで人形の様な可愛さに目を細めると、ゆっくりと近づいて腹が減ったのかと尋ねてみた。
するとソレは私に手を伸ばして、抱っこして欲しいかの様に甘えるので、私は妙にウキウキした気持ちで抱き上げると食堂へと向かった。すっかりこの可愛らしい生き物に魅入られてしまった私は、食べられそうなものをテーブルに並べると、ソレは果物や、骨付き肉、搾りたての果実汁を指さして食べたがった。
結局骨付き肉は小さく切っても中々噛みきれない様子で、私は魔法の保存箱から柔らかい魔鳥の肉を焼いて出してやった。椅子の上に箱を置いて上底した即席イスに座りながら、ソレは口の周りをベタつかせて、おぼつかない手つきで夢中で食べ始めた。
しかしこの人型は一体何の生き物なのか。私は可愛らしくお喋りするソレが理解できることを願いながら尋ねてみた。
「お前は一体何者じゃな?竜人や獣人ではそんなに幼い人型にはならないのだ。獣人でも早い種族でせいぜい5~6才からという所じゃ。まして竜人は50年は人型を取るのは無理だ。人型になるとしてもやはり十分に走り回れるだろう。お前は何歳だね?」
すると目の前の艶のある黒髪とぱっちりしたきらめく緑色の瞳の幼な子は、しばらく私の言葉に考え込んでいる様に見えたが、ついと指を三本突き出した。
「さんちゃい。」
三才の人型とは、ここまで頼りないものなのかと私は突き出された短い指先を見つめながら、もう一つ尋ねた。
「お前は何処から来たのじゃ?何の種族かな?獣人ならその特性があるのが普通だが、見た感じお前は竜人に近い種族の気がするが。聞いている事は分かるかの?」
すると幼な子は、急に顔を顰めて難しい表情で呟いた。
「わかんにゃい。ちゅじょく?わかんにゃい。…これ、おいちーね?」
大人の様な表情で舌たらずなのもそうだが、口に入れた森の果実がいたく気に入った様で、ニコニコと表情を緩ませる幼な子はとても可愛らしい。
名前を聞くと悲しげに首を振るので、私が名付けてやろうかと尋ねると楽しげに頷いた。私がテディはどうかと聞くと、口の中でモゴモゴと自分の名前を何度か口ずさむと嬉しげに頷いた。そして自分を指差してテディと言ってから、私を指差して首を傾げた。
私は目の前のテディが見た目よりもずっと賢い事に喜んで、にっこりほほえんではっきり聞こえる様に答えた。
「私か?私はパーカス、竜人のパーカスだ。」
すると、テディは一瞬の間の後、満足げに頷いて言った。
「ぱーかちゅ?…よろちくおねがいちまちゅ。」
他には誰も居ないこの場所に、終の住処として誰にも悟られずに時間を掛けて家を建てたのは、まだ現役の頃だった。他国との終わりのない争いに良い加減ウンザリしていた私は、番が病気で亡くなったのを機会に、世捨て竜人として生きようと密かに画策していたのだった。
私が置き手紙ひとつで消えた時はひと騒動あった様だったが、居なければ誰かが後継者になる世の摂理、私はしてやったりとこの平穏な日々を楽しんでいた。時々はふた山越えた小さな街に立ち寄って必要な物を手に入れるくらいで、ほとんど他者と親しく交流しなかったおかげで、私は隠者と呼ばれる様になっていた。
獣人ばかりの小さな街では目立つこの姿はさすがに記憶に残るらしく、しばらくすると王都から私宛の私書が、え街の行きつけの店に届く様になった。頑なに無視するのは悪手だと、簡単な返事を託して私は公然と隠居生活を手にしたのだった。
今日も王都の騎士団からの相談という名の王都への一時帰還の要請と、娘の結婚300周年の夜会への招待状にため息をついた。隠居生活でもしがらみからは逃れられないのだろうかと、玄関の扉を開けて大きく深呼吸した。
最近気に入っている薬草茶を煎じようと、いつもの野原へ薬草を採りに出掛けたのはほんの気晴らしだった。だからまさか幼な子を拾ってしまう事になるとは考えもしなかった。そしてその瞬間、独りの平穏な日々が終わりを告げた。
遠目でも、何かがそこに存在するのは直ぐに分かった。だが、近づくにつれてそれが素っ裸の見たことのない幼い人型の様な存在だとは思いもしなかった。慌てて駆け寄ると、ソレはスヤスヤと安らかな顔をして眠っていた。獣人の子供が人型を取れるのはせいぜい5~6才で、その頃には十分に外敵から逃げたり自立できる頃合いだ。
だが目の前のそれは明らかに人型ではあるけれど、自立などとても無理な頼りなげな様子だった。こんな幼い人型を目にするのは初めてで、私はその触れたら壊れてしまいそうな柔らかなモノを慌ててそっと抱き上げると、懐の服の中へ抱え込んだ。裸だった割に体温は高い様だ。
「…やはり獣人の子かの?」
流石の私も動揺していたのだろう、いつもしない独り言を呟くと急ぎ家に戻った。家にある一番柔らかな布地に包むと、ベッドの上にそっと置いた。時々柔らかな唇をモゴモゴと動かしながらぐっすりと眠る姿は、ずっと見ていても飽きないものだった。
だからソレが目覚めてからたどたどしく喋り始め、ヨチヨチと好き勝手に、でも一人前に部屋の中を歩くのを眺めていると、馬鹿みたいに庇護欲が湧くのは、人型のこのサイズのものを見た事が無いからだろう。
ソレは亡き番のスカーフを、急遽結んでしつらえた服のまま突然尻餅をつくと、足を投げ出して動かなくなった。まるで人形の様な可愛さに目を細めると、ゆっくりと近づいて腹が減ったのかと尋ねてみた。
するとソレは私に手を伸ばして、抱っこして欲しいかの様に甘えるので、私は妙にウキウキした気持ちで抱き上げると食堂へと向かった。すっかりこの可愛らしい生き物に魅入られてしまった私は、食べられそうなものをテーブルに並べると、ソレは果物や、骨付き肉、搾りたての果実汁を指さして食べたがった。
結局骨付き肉は小さく切っても中々噛みきれない様子で、私は魔法の保存箱から柔らかい魔鳥の肉を焼いて出してやった。椅子の上に箱を置いて上底した即席イスに座りながら、ソレは口の周りをベタつかせて、おぼつかない手つきで夢中で食べ始めた。
しかしこの人型は一体何の生き物なのか。私は可愛らしくお喋りするソレが理解できることを願いながら尋ねてみた。
「お前は一体何者じゃな?竜人や獣人ではそんなに幼い人型にはならないのだ。獣人でも早い種族でせいぜい5~6才からという所じゃ。まして竜人は50年は人型を取るのは無理だ。人型になるとしてもやはり十分に走り回れるだろう。お前は何歳だね?」
すると目の前の艶のある黒髪とぱっちりしたきらめく緑色の瞳の幼な子は、しばらく私の言葉に考え込んでいる様に見えたが、ついと指を三本突き出した。
「さんちゃい。」
三才の人型とは、ここまで頼りないものなのかと私は突き出された短い指先を見つめながら、もう一つ尋ねた。
「お前は何処から来たのじゃ?何の種族かな?獣人ならその特性があるのが普通だが、見た感じお前は竜人に近い種族の気がするが。聞いている事は分かるかの?」
すると幼な子は、急に顔を顰めて難しい表情で呟いた。
「わかんにゃい。ちゅじょく?わかんにゃい。…これ、おいちーね?」
大人の様な表情で舌たらずなのもそうだが、口に入れた森の果実がいたく気に入った様で、ニコニコと表情を緩ませる幼な子はとても可愛らしい。
名前を聞くと悲しげに首を振るので、私が名付けてやろうかと尋ねると楽しげに頷いた。私がテディはどうかと聞くと、口の中でモゴモゴと自分の名前を何度か口ずさむと嬉しげに頷いた。そして自分を指差してテディと言ってから、私を指差して首を傾げた。
私は目の前のテディが見た目よりもずっと賢い事に喜んで、にっこりほほえんではっきり聞こえる様に答えた。
「私か?私はパーカス、竜人のパーカスだ。」
すると、テディは一瞬の間の後、満足げに頷いて言った。
「ぱーかちゅ?…よろちくおねがいちまちゅ。」
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