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私はチェルシー
周囲の喧騒
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「とても素敵ですわ、チェルシー様。」
侍女のマリーが私の手首を見てクスクス笑う。私は肩をすくめて湯浴みで汗ばんだ身体を冷ます間もなく、寝着を羽織った。
ゴードン様にブレスレットを外さない様にと言われたものの、当日に付ければ良いだろうと留金を外そうと試みたけれど、どう外して良いか分からなかった。
だから付けたまま湯浴みもする羽目になったのだけど、まるで私が肌身離さずそうしていたいみたいに見えたのだろう、マリーが楽しげに浮かれている。
「マリー、だから言ったでしょ?取れないのよ。明日学園に行くのにこれを付けていくのも嫌だから、やっぱり外してくれない?」
そう言って左手首を突き出したものの、マリーは顔を顰めて後ずさった。
「見たことの無い留金ですし、下手に壊したらゴードン様に顔向け出来ませんもの。私には無理ですわ、チェルシー様。」
うーん、確かにそう言われてしまっては、下手にいじって壊れたら困る。エスコートの時には必ず付けて行かないと何を言われるか分からないのだから。
かと言ってお兄様達に頼むのは、揶揄いの材料を与える事になりそうで気が進まない。もうブラウスの裾で隠しておくしかなさそうだ。
ベッドに潜って横になると、手首に嵌ったブレスレットが存在感を主張して目に飛び込んでくる。月の光が差し込んでブレスレットに当たると、雛菊のモチーフの中心の宝石がキラキラと反射してとても綺麗だった。
ゴードン様にもらった事を置いておいても、このブレスレット自体はとても素敵だわ。これを見て私をイメージしたと言っていたけれど、私の中身はこんなに可愛らしくはないと思うのに、それでも少し浮かれた気分になるのはしょうがないかもしれない。
「殿方に貰った初めての贈り物だもの。こんな気持ちになるのはしょうがないわ。」
そう声に出せば少し気が済んで、私はそっと右手でブレスレットに触れながら眼を閉じた。
目の前に12歳の姿のチェルシーが立っている。怒っているのかしら。何も聞こえないけれど、私の方を指さして地団駄を踏んでいるわ。私はチェルシーを宥めようと一歩前に出た。
けれどもチェルシーはなぜか後ろへ姿を移した。と言うより一定の距離以内には近づけないみたいだった。チェルシーが階段から落ちた原因になったゴードン様と私が接近するのが許せないのかもしれない。
ふと執拗に指差す方向を見れば、それは私のブレスレットだった。
…もしかしてチェルシーはこのブレスレットが欲しくて我儘を言っているのかしら。チェルシーはゴードン様が好きだったの?
私はこのブレスレットをチェルシーに渡すのが正解な気がして、手首からブレスレットを外そうとしたけれど、どうやっても外れなかった。するとチェルシーは悲しそうな表情で私とブレスレットを見ると霧の様に消えてしまった。
『チェルシー…。』
目が覚めると汗びっしょりで、私は気だるい気持ちで起き上がった。何か夢を見た気がするけれどほとんど覚えていない。微かに12歳の頃の自分の姿を見た気がしたけれど、何だったのだろう。
侍女のマリーが顔を見せて、私を見るなり眉を顰めた。
「お嬢様、どうかいたしましたか?少し顔色が悪いみたいですわ。汗も随分かいてらして。簡単に湯浴みなさるとよろしいですわね。準備でき次第お声掛けいたします。」
マリーの気遣いに甘える事にして、私はもう一度ベッドに横になった。昨日はさして遅かったわけじゃないのに、この寝足りない感じは何かしら。
ウトウトしていると、マリーに起こされて私は欠伸をひとつしてから湯浴みに向かった。温かいお湯でようやく目が覚めて来たみたいだわ。手首に揺れるブレスレットを見て、私は眉を顰めた。
何か思い出せそうな気がするけれど…。
「お嬢様、大丈夫ですか?やっぱり今日は学園の方はお休みなさいますか?」
マリーの気遣いに笑みを浮かべて、私はさっきよりも気分良く大丈夫だと返事を返した。休むほど、どこかが悪いわけじゃないもの。
「あーあ、チェルシーったら随分睨まれちゃって。」
他人事だと思ってレベッカが私を揶揄ってくる。顔合わせの終わるこの頃では、もうすっかりエスコート相手が誰なのかお互いに知るところとなっていた。
私も自分からは言わなかったけれど、何処からか秘密は漏れるものだ。やはりゴードン様がお相手だと言うのはバレてしまっていた。
お陰で私の顔をギロリと睨むのは、デビューたち同級生の令嬢ばかりではない。上級生のお姉様方からも鋭い視線を浴びる様になってしまった。これが続くと思うとやりきれない。
するとレベッカが突然私の手首を掴んだ。びっくりして眼を丸くしていると、マジマジとゴードン様から貰ったブレスレットを見つめている。隠していたのに袖から飛び出たみたいだった。
「チェルシー、一体どうしたのこれ。素敵ね!昨日はゴードン様と顔合わせとか言ってたわよね?…ははん、贈り物ね?」
エスコート相手が贈り物をするのは珍しくないが、大抵は記念の花籠やら、チョコレートもどきの洒落たお菓子が多い。凝ったところでは詩集などもあるかもしれない。
もっとも、あまり知らない相手から詩集をもらっても困るだけだけど。
「さすがに小さい頃からお兄様のご学友で伯爵家に出入りしていただけあるわね。贈り物も、こんなに奮発して!あら、これは…。ゴードン様もやるわね!」
一人でぶつぶつ言いながら顔を赤らめてクスクス笑うレベッカに、私は呆れて手を引っ張り戻した。
「ああ、もっと見せてくれたっていいじゃないの!」
私は袖の中にブレスレットを押し込んで口を尖らせた。
「留金が特殊で外せないの。そうでなかったら付けてこなかったわ。それに何がどうって言ってたの?わかる様に説明して?」
けれどもレベッカはクスクス笑うばかりで何も教えてくれなかった。まったく、気になる言い方はしないで欲しかったわ!
侍女のマリーが私の手首を見てクスクス笑う。私は肩をすくめて湯浴みで汗ばんだ身体を冷ます間もなく、寝着を羽織った。
ゴードン様にブレスレットを外さない様にと言われたものの、当日に付ければ良いだろうと留金を外そうと試みたけれど、どう外して良いか分からなかった。
だから付けたまま湯浴みもする羽目になったのだけど、まるで私が肌身離さずそうしていたいみたいに見えたのだろう、マリーが楽しげに浮かれている。
「マリー、だから言ったでしょ?取れないのよ。明日学園に行くのにこれを付けていくのも嫌だから、やっぱり外してくれない?」
そう言って左手首を突き出したものの、マリーは顔を顰めて後ずさった。
「見たことの無い留金ですし、下手に壊したらゴードン様に顔向け出来ませんもの。私には無理ですわ、チェルシー様。」
うーん、確かにそう言われてしまっては、下手にいじって壊れたら困る。エスコートの時には必ず付けて行かないと何を言われるか分からないのだから。
かと言ってお兄様達に頼むのは、揶揄いの材料を与える事になりそうで気が進まない。もうブラウスの裾で隠しておくしかなさそうだ。
ベッドに潜って横になると、手首に嵌ったブレスレットが存在感を主張して目に飛び込んでくる。月の光が差し込んでブレスレットに当たると、雛菊のモチーフの中心の宝石がキラキラと反射してとても綺麗だった。
ゴードン様にもらった事を置いておいても、このブレスレット自体はとても素敵だわ。これを見て私をイメージしたと言っていたけれど、私の中身はこんなに可愛らしくはないと思うのに、それでも少し浮かれた気分になるのはしょうがないかもしれない。
「殿方に貰った初めての贈り物だもの。こんな気持ちになるのはしょうがないわ。」
そう声に出せば少し気が済んで、私はそっと右手でブレスレットに触れながら眼を閉じた。
目の前に12歳の姿のチェルシーが立っている。怒っているのかしら。何も聞こえないけれど、私の方を指さして地団駄を踏んでいるわ。私はチェルシーを宥めようと一歩前に出た。
けれどもチェルシーはなぜか後ろへ姿を移した。と言うより一定の距離以内には近づけないみたいだった。チェルシーが階段から落ちた原因になったゴードン様と私が接近するのが許せないのかもしれない。
ふと執拗に指差す方向を見れば、それは私のブレスレットだった。
…もしかしてチェルシーはこのブレスレットが欲しくて我儘を言っているのかしら。チェルシーはゴードン様が好きだったの?
私はこのブレスレットをチェルシーに渡すのが正解な気がして、手首からブレスレットを外そうとしたけれど、どうやっても外れなかった。するとチェルシーは悲しそうな表情で私とブレスレットを見ると霧の様に消えてしまった。
『チェルシー…。』
目が覚めると汗びっしょりで、私は気だるい気持ちで起き上がった。何か夢を見た気がするけれどほとんど覚えていない。微かに12歳の頃の自分の姿を見た気がしたけれど、何だったのだろう。
侍女のマリーが顔を見せて、私を見るなり眉を顰めた。
「お嬢様、どうかいたしましたか?少し顔色が悪いみたいですわ。汗も随分かいてらして。簡単に湯浴みなさるとよろしいですわね。準備でき次第お声掛けいたします。」
マリーの気遣いに甘える事にして、私はもう一度ベッドに横になった。昨日はさして遅かったわけじゃないのに、この寝足りない感じは何かしら。
ウトウトしていると、マリーに起こされて私は欠伸をひとつしてから湯浴みに向かった。温かいお湯でようやく目が覚めて来たみたいだわ。手首に揺れるブレスレットを見て、私は眉を顰めた。
何か思い出せそうな気がするけれど…。
「お嬢様、大丈夫ですか?やっぱり今日は学園の方はお休みなさいますか?」
マリーの気遣いに笑みを浮かべて、私はさっきよりも気分良く大丈夫だと返事を返した。休むほど、どこかが悪いわけじゃないもの。
「あーあ、チェルシーったら随分睨まれちゃって。」
他人事だと思ってレベッカが私を揶揄ってくる。顔合わせの終わるこの頃では、もうすっかりエスコート相手が誰なのかお互いに知るところとなっていた。
私も自分からは言わなかったけれど、何処からか秘密は漏れるものだ。やはりゴードン様がお相手だと言うのはバレてしまっていた。
お陰で私の顔をギロリと睨むのは、デビューたち同級生の令嬢ばかりではない。上級生のお姉様方からも鋭い視線を浴びる様になってしまった。これが続くと思うとやりきれない。
するとレベッカが突然私の手首を掴んだ。びっくりして眼を丸くしていると、マジマジとゴードン様から貰ったブレスレットを見つめている。隠していたのに袖から飛び出たみたいだった。
「チェルシー、一体どうしたのこれ。素敵ね!昨日はゴードン様と顔合わせとか言ってたわよね?…ははん、贈り物ね?」
エスコート相手が贈り物をするのは珍しくないが、大抵は記念の花籠やら、チョコレートもどきの洒落たお菓子が多い。凝ったところでは詩集などもあるかもしれない。
もっとも、あまり知らない相手から詩集をもらっても困るだけだけど。
「さすがに小さい頃からお兄様のご学友で伯爵家に出入りしていただけあるわね。贈り物も、こんなに奮発して!あら、これは…。ゴードン様もやるわね!」
一人でぶつぶつ言いながら顔を赤らめてクスクス笑うレベッカに、私は呆れて手を引っ張り戻した。
「ああ、もっと見せてくれたっていいじゃないの!」
私は袖の中にブレスレットを押し込んで口を尖らせた。
「留金が特殊で外せないの。そうでなかったら付けてこなかったわ。それに何がどうって言ってたの?わかる様に説明して?」
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