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デビュタント
誘い
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「…ゴードン様。ようこそおいで下さいました。」
王宮から帰宅早々、長兄のケルビンお兄様に呼ばれて兄弟用の談話室に向かうと、そこには何故かゴードン様が手持ち無沙汰に座っていた。私の姿を見て立ち上がったゴードン様は薄く微笑むと、礼をとる私に近づいてエスコートしようとでもいうのか手を差し伸べた。
相変わらず妙な鼓動の騒めきを感じながら、私は大きな手にエスコートされるがままにソファへと座った。
「チェルシー、帰宅早々呼びつけて悪かったね。丁度お前のエスコート相手のゴードンが遊びに来ていたのでね、お前もデビューの晩餐会のお礼が言いたいのではないかと思ったんだ。
あれからしばらく日が空いてしまったが、中々ゴードンも忙しくて顔を見せてくれなかったんだ。…今日は随分とおめかししているね。」
私はケルビンお兄様がご存じの筈なのに妙な言い方をすると思って眉を顰めた。
「…今日は王宮へ行って来ましたの。約束を果たして来ただけですわ。」
するとケルビンお兄様は、大袈裟に目を見開いてゴードン様を見て言った。
「ああ、そうだった!今日チェルシーは殿下に呼ばれてお茶会に行ってたんだっけ。私達兄を差し置いて、お茶会に呼ばれたチェルシーにどんな様子だったか報告を聞きたいね。ゴードンも興味があるだろう?」
…もしかしてお兄様はこの話がしたくてわざわざ私を呼んだのかしら。私は黙りこくったゴードン様までが話の続きを待っている気がして、気まずくなって侍女の運んで来たお茶をひと口飲んだ。
「…特にどうって事ありませんわ。と言うか普通がどんな様子なのか存じませんし。思ったよりも人数は少ない気がしました。殿下と宰相のご子息のアラン様、そしてアラン様の婚約者のローズマリー様…。」
そう言えば少ないどころか、今思えばあれは何ともこじんまりしたものだった。
「ローズマリー様は上位伯爵家のご出身で、私より幾つか年上でしたけど、とてもお優しくて私すっかりローズマリー様が大好きになってしまいましたの。宰相のご子息の婚約者ともなれば、気位ばかり高い方ではないかと身構えてましたもの。
お陰でとても楽しいを過ごす事が出来ました。」
私がそう言って微笑むと、ゴードン様がボソリと呟いた。
「殿下は随分と内うちのお茶会に君を招待した様だな。あの方にしては珍しい。基本令嬢達の取り巻きを何重にもしている様な方だからね。」
私は昼間のお茶会を思い出して思わずクスクス笑ってしまった。
「約束通り殿下は私とボードゲームをして一度負けましたの。そうしたらムキになってしまって、それから二度も対戦させられましたわ。手加減したら処罰すると脅すものですから、私も本気でやらせてもらいました。
結局二対一で殿下の面目は保たれましたけど、しばらく一度目は油断したのだと言い訳ばかりで私達は笑いが止まらなかったんですわ。
お兄様方が殿下の扱いに困ってるのが想像できて、笑いを堪えるのが本当に大変でした。」
ゴードン様とお兄様は私の話を聞いて意味深に顔を見合わせた。それから急にお兄様がスクッと立つと、申し訳なさそうに私達に言った。
「急用を思い出した。せっかくゴードンに来てもらったのに申し訳ない。そうだ、チェルシーお前がゴードンのお相手をしてくれないか?一緒に庭の散策をしたらどうだい?今日のお前はおめかしして、いつもより一段と美しいからね。
殿下に見せただけでは勿体無い。じゃあ、私は行くよ。悪いね。」
そう言って慌ただしく談話室を出ていくケルビンお兄様の後ろ姿を私は呆然と見送っていた。いきなりゴードン様を押し付けられて心の準備もなかった私は、どうして良いかわからずにチラッとゴードン様を盗み見た。
ゴードン様は立ち上がると、私に手を差し出して言った。
「ここで子供の頃を懐かしんでボードゲームをしても良いが、チェルシーはお腹いっぱいだろうし、確かに美しく着飾った君を見せびらかすのも一興かもしれない。
今話題のあの歌劇にはもう行ったかい?もしチェルシーさえ良ければ、一緒に観に行こう。」
私は差し出されたゴードン様の大きな手のひらをじっと見つめて呟いた。
「…ゴードン様は私の顔の前に餌を吊るすのが得意なのかしら。歌劇のお誘いを絶対断らない事をご存じなんでしょう?」
頭の上でクスッと小さく笑う声が聞こえて、私はチラリとゴードン様を見上げて差し出された手に自分の手を置いた。思いの外強い力で引っ張り上げられて、私は少したたらを踏んでゴードン様の腕の中に飛び込んでしまった。
慌てて直ぐに離れると、ゴードン様は灰色の瞳を細めて言った。
「さぁ侍女と軽く支度をしておいで。一緒に屋敷に寄って私が着替えるのを待っててくれるだろう?…チェルシーはそのままで十分綺麗だ。」
真っ直ぐにそんな事を言われて、私はどう反応して良いのか分からなかった。ゴードン様って、こんな風に人の事を褒めたりする人だったかしら?
それに胸がドキドキするのも、いつまでもゴードン様が握った手を離さないからだわ。まったく!
王宮から帰宅早々、長兄のケルビンお兄様に呼ばれて兄弟用の談話室に向かうと、そこには何故かゴードン様が手持ち無沙汰に座っていた。私の姿を見て立ち上がったゴードン様は薄く微笑むと、礼をとる私に近づいてエスコートしようとでもいうのか手を差し伸べた。
相変わらず妙な鼓動の騒めきを感じながら、私は大きな手にエスコートされるがままにソファへと座った。
「チェルシー、帰宅早々呼びつけて悪かったね。丁度お前のエスコート相手のゴードンが遊びに来ていたのでね、お前もデビューの晩餐会のお礼が言いたいのではないかと思ったんだ。
あれからしばらく日が空いてしまったが、中々ゴードンも忙しくて顔を見せてくれなかったんだ。…今日は随分とおめかししているね。」
私はケルビンお兄様がご存じの筈なのに妙な言い方をすると思って眉を顰めた。
「…今日は王宮へ行って来ましたの。約束を果たして来ただけですわ。」
するとケルビンお兄様は、大袈裟に目を見開いてゴードン様を見て言った。
「ああ、そうだった!今日チェルシーは殿下に呼ばれてお茶会に行ってたんだっけ。私達兄を差し置いて、お茶会に呼ばれたチェルシーにどんな様子だったか報告を聞きたいね。ゴードンも興味があるだろう?」
…もしかしてお兄様はこの話がしたくてわざわざ私を呼んだのかしら。私は黙りこくったゴードン様までが話の続きを待っている気がして、気まずくなって侍女の運んで来たお茶をひと口飲んだ。
「…特にどうって事ありませんわ。と言うか普通がどんな様子なのか存じませんし。思ったよりも人数は少ない気がしました。殿下と宰相のご子息のアラン様、そしてアラン様の婚約者のローズマリー様…。」
そう言えば少ないどころか、今思えばあれは何ともこじんまりしたものだった。
「ローズマリー様は上位伯爵家のご出身で、私より幾つか年上でしたけど、とてもお優しくて私すっかりローズマリー様が大好きになってしまいましたの。宰相のご子息の婚約者ともなれば、気位ばかり高い方ではないかと身構えてましたもの。
お陰でとても楽しいを過ごす事が出来ました。」
私がそう言って微笑むと、ゴードン様がボソリと呟いた。
「殿下は随分と内うちのお茶会に君を招待した様だな。あの方にしては珍しい。基本令嬢達の取り巻きを何重にもしている様な方だからね。」
私は昼間のお茶会を思い出して思わずクスクス笑ってしまった。
「約束通り殿下は私とボードゲームをして一度負けましたの。そうしたらムキになってしまって、それから二度も対戦させられましたわ。手加減したら処罰すると脅すものですから、私も本気でやらせてもらいました。
結局二対一で殿下の面目は保たれましたけど、しばらく一度目は油断したのだと言い訳ばかりで私達は笑いが止まらなかったんですわ。
お兄様方が殿下の扱いに困ってるのが想像できて、笑いを堪えるのが本当に大変でした。」
ゴードン様とお兄様は私の話を聞いて意味深に顔を見合わせた。それから急にお兄様がスクッと立つと、申し訳なさそうに私達に言った。
「急用を思い出した。せっかくゴードンに来てもらったのに申し訳ない。そうだ、チェルシーお前がゴードンのお相手をしてくれないか?一緒に庭の散策をしたらどうだい?今日のお前はおめかしして、いつもより一段と美しいからね。
殿下に見せただけでは勿体無い。じゃあ、私は行くよ。悪いね。」
そう言って慌ただしく談話室を出ていくケルビンお兄様の後ろ姿を私は呆然と見送っていた。いきなりゴードン様を押し付けられて心の準備もなかった私は、どうして良いかわからずにチラッとゴードン様を盗み見た。
ゴードン様は立ち上がると、私に手を差し出して言った。
「ここで子供の頃を懐かしんでボードゲームをしても良いが、チェルシーはお腹いっぱいだろうし、確かに美しく着飾った君を見せびらかすのも一興かもしれない。
今話題のあの歌劇にはもう行ったかい?もしチェルシーさえ良ければ、一緒に観に行こう。」
私は差し出されたゴードン様の大きな手のひらをじっと見つめて呟いた。
「…ゴードン様は私の顔の前に餌を吊るすのが得意なのかしら。歌劇のお誘いを絶対断らない事をご存じなんでしょう?」
頭の上でクスッと小さく笑う声が聞こえて、私はチラリとゴードン様を見上げて差し出された手に自分の手を置いた。思いの外強い力で引っ張り上げられて、私は少したたらを踏んでゴードン様の腕の中に飛び込んでしまった。
慌てて直ぐに離れると、ゴードン様は灰色の瞳を細めて言った。
「さぁ侍女と軽く支度をしておいで。一緒に屋敷に寄って私が着替えるのを待っててくれるだろう?…チェルシーはそのままで十分綺麗だ。」
真っ直ぐにそんな事を言われて、私はどう反応して良いのか分からなかった。ゴードン様って、こんな風に人の事を褒めたりする人だったかしら?
それに胸がドキドキするのも、いつまでもゴードン様が握った手を離さないからだわ。まったく!
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