3 / 69
戸惑い
不本意な上京
しおりを挟む
地元から王都への馬車の旅は、セスことセデアス デザイアにとっては中々辛いものになった。17歳という年齢から考えると、一人で上京するには過不足ない年頃だ。
けれども辺境の田舎で育った内気なセスにとって、人が多いというだけで心理的負担は大きかった。
それにこんな思いまでしながら王都の名門学園に急遽転入しなければならない納得出来る理由も、セスには見つからない。
確かに地元の上級学校でセスがまともな扱いを受けていたと考えるのは間違っているだろう。腕っぷしがものを言う校内では、セスの様に虚弱で頭でっかちな学生は鬱憤のターゲットにされがちだった。
祖父から命令に近い形での聖アリステ学園への転入は、セスにとっては場所が変わるだけで、状況が良くなると安易に希望を持つものでは無かった。
それどころか全寮制という事で、以前の様に家に逃げ帰る様な事も出来ない。しかも地元の上級学校では周囲が妙に色めきたっているのを感じて、そんな年頃だとしてもあまり人と関わるのが不得意なセスにとっては閉口する状況だった。
「…僕はどうしてこんなんなんだろう。」
周囲との明らかな違いに、クヨクヨと後ろ向きなことばかり考えがちのセスは、もう少しこの年頃らしい根拠の無い自信が欲しかった。皆が無邪気にもそれを持っているのを見ると、やはり自分の生い立ちのせいかと考える事がある。
女の様に筋肉がつかないその身体に眉を顰めていた下級学校時代、祖父母は改まった口調で僕に出生の秘密を話した。
『良いかセス、落ち着いて聞きなさい。セスの産みの母親であるセリアンヌは純血の人間だ。そして母親に良く似たセスが、人間の純血よりだと考えるのは正しいと思う。』
僕は突然の祖父の話に言葉を失った。そして震える声で自分でも縋る気持ちで呟いていた。
『…でも僕は父さんの子供でもあるでしょう?僕は、僕は!街の人達が先祖返りと称賛した人虎族の父さんの子供でもある!だから純血そのものという事はないよ。ね?』
父に似たところなど、家の中を飾る肖像画を見てもひとつも見つからなかった。そのせいで最近はその絵を目にするのも嫌になっていたのに、自分が純血の人間だなんて聞かされるより父親に似たところを永遠に探す方がずっとマシだった。
けれどその恐怖は祖父の口から決定的な事実として僕にもたらされた。
『…残念だが、お前の父親が誰かは分からないのじゃよ。息子のオビアスは、はっきりとセリアンヌのお腹の子が自分の子供では無いと言った。二人が出会った時、セリアンヌは既に身重だった様じゃ。
ただ、二人は愛し合っていたし、身重なセリアンヌをオビアスが攫ってくるほど彼女の状況は酷いものだったようだ。それについては二人とも決して話そうとはしなかったから詳しい事は分からん。
だがオビアスはハッキリと言った。セリアンヌも赤ん坊も純血だと。』
ここが人いきれの雑踏の中だというのに、セスはあの時の衝撃を思い返すだけで体の中が冷えていくような心持ちになってしまう。思いもしない自分の出生の秘密、そして愛する祖父母と血が繋がっていないという事実に、セスはいまだに打ちのめされ続けている。
どうして自分は他の子供らと違うのか、どうして祖父母に似ていないのか、今までずっと不安を感じていた全ての答えがもたらされて、不安で固められた足元が崩れてしまった。
一方で、血が繋がっていない自分を赤ん坊の頃から愛情を持って育ててくれた祖父母に、感謝と尊敬を感じた。だからこそ病気が発覚した祖母の元を離れる気になれず、亡くなるまで側で看病をしたのだ。
けれど祖父の決心は硬く、結局セスはこうして上京する事になってしまった。亡き父の遺言だというその話が本当ならば、故郷よりましな上級学校生活が送れることをセスは祈るばかりだった。
けれども辺境の田舎で育った内気なセスにとって、人が多いというだけで心理的負担は大きかった。
それにこんな思いまでしながら王都の名門学園に急遽転入しなければならない納得出来る理由も、セスには見つからない。
確かに地元の上級学校でセスがまともな扱いを受けていたと考えるのは間違っているだろう。腕っぷしがものを言う校内では、セスの様に虚弱で頭でっかちな学生は鬱憤のターゲットにされがちだった。
祖父から命令に近い形での聖アリステ学園への転入は、セスにとっては場所が変わるだけで、状況が良くなると安易に希望を持つものでは無かった。
それどころか全寮制という事で、以前の様に家に逃げ帰る様な事も出来ない。しかも地元の上級学校では周囲が妙に色めきたっているのを感じて、そんな年頃だとしてもあまり人と関わるのが不得意なセスにとっては閉口する状況だった。
「…僕はどうしてこんなんなんだろう。」
周囲との明らかな違いに、クヨクヨと後ろ向きなことばかり考えがちのセスは、もう少しこの年頃らしい根拠の無い自信が欲しかった。皆が無邪気にもそれを持っているのを見ると、やはり自分の生い立ちのせいかと考える事がある。
女の様に筋肉がつかないその身体に眉を顰めていた下級学校時代、祖父母は改まった口調で僕に出生の秘密を話した。
『良いかセス、落ち着いて聞きなさい。セスの産みの母親であるセリアンヌは純血の人間だ。そして母親に良く似たセスが、人間の純血よりだと考えるのは正しいと思う。』
僕は突然の祖父の話に言葉を失った。そして震える声で自分でも縋る気持ちで呟いていた。
『…でも僕は父さんの子供でもあるでしょう?僕は、僕は!街の人達が先祖返りと称賛した人虎族の父さんの子供でもある!だから純血そのものという事はないよ。ね?』
父に似たところなど、家の中を飾る肖像画を見てもひとつも見つからなかった。そのせいで最近はその絵を目にするのも嫌になっていたのに、自分が純血の人間だなんて聞かされるより父親に似たところを永遠に探す方がずっとマシだった。
けれどその恐怖は祖父の口から決定的な事実として僕にもたらされた。
『…残念だが、お前の父親が誰かは分からないのじゃよ。息子のオビアスは、はっきりとセリアンヌのお腹の子が自分の子供では無いと言った。二人が出会った時、セリアンヌは既に身重だった様じゃ。
ただ、二人は愛し合っていたし、身重なセリアンヌをオビアスが攫ってくるほど彼女の状況は酷いものだったようだ。それについては二人とも決して話そうとはしなかったから詳しい事は分からん。
だがオビアスはハッキリと言った。セリアンヌも赤ん坊も純血だと。』
ここが人いきれの雑踏の中だというのに、セスはあの時の衝撃を思い返すだけで体の中が冷えていくような心持ちになってしまう。思いもしない自分の出生の秘密、そして愛する祖父母と血が繋がっていないという事実に、セスはいまだに打ちのめされ続けている。
どうして自分は他の子供らと違うのか、どうして祖父母に似ていないのか、今までずっと不安を感じていた全ての答えがもたらされて、不安で固められた足元が崩れてしまった。
一方で、血が繋がっていない自分を赤ん坊の頃から愛情を持って育ててくれた祖父母に、感謝と尊敬を感じた。だからこそ病気が発覚した祖母の元を離れる気になれず、亡くなるまで側で看病をしたのだ。
けれど祖父の決心は硬く、結局セスはこうして上京する事になってしまった。亡き父の遺言だというその話が本当ならば、故郷よりましな上級学校生活が送れることをセスは祈るばかりだった。
258
あなたにおすすめの小説
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる