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楽しさの極み、郊外演習二日目

内緒の夜遊び

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色の乱舞は次第に消えて行って、僕は今のは何だったのかとバートを見上げた。バートはにっこり笑って耳元に唇を寄せてささやいた。

「パトリックもやってごらん?あと2回ぐらいは光るはずだから。これは夜光虫だよ。ここら辺の山にしか居ない特別な虫なんだ。こんな山の中の小川に集まって、綺麗な光景を生み出すんだ。音に驚いて警戒の光を出すだけなんだけどね。」


僕は初めて見る光景に笑顔で頷くと、自分でもチラチラ瞬く夜光虫の群れに向かって手を叩いた。「パンッ」と言う音に反応して驚く虫たちが、明るい蛍光色の様な光の筋を引きながら入り乱れてとても綺麗だった。

「…はぁ。こんな綺麗な光景見た事ないよ。見せてくれてありがとう、バート。」

僕が微笑みながらそう言ってバートを見上げると、バートは僕をじっと見下ろしていた。

「俺、今日パトリックがケルビンと随分仲良くなった事に、凄いモヤモヤしちゃって…。」


僕はバートのいつものやつが出たのかと、クスッと笑って言った。

「ふふ。バートの甘え癖が出たの?ほら、おいでよ。」

そう言って僕が手を広げると、バートは僕を思ったより強く抱きしめた。昔からバートは僕が他の子と仲良くすると、こうやって甘えてくる。

最近はこれってどうなのかなって思わなくもないけれど、バートの苦しげな表情に僕は弱いんだ。それにバートにぎゅっとされると僕も気持ちいいしね。


「最近、バートが大きくなり過ぎて僕が抱っこしてあげるっていうより、バートに抱きしめられるって感じだよね。もう、子供っぽいことは終わりって事なのかな?」

僕がそう言うと、バートは僕の首筋に埋めた顔を更に擦り付けて僕の匂いを嗅いだ。

「…ちょ、そんな。あっ。」

僕は首が弱くて、そんな風に顔を押し付けられたら、背中がゾクゾクしてしまう。僕は自分でも聞いたことのない甘い声が出てしまって、ハッと口を手で押さえた。


「…エッチな声。」

バートが僕の耳元で低い声でそう囁くから、僕はバートを突き飛ばして睨みつけた。

「…バートのせいでしょ⁉︎」

バートはまるで、僕を食べてしまいたいというような表情をして呟いた。

「…パトリックが子供っぽい事は終わりだって言うなら、俺は本気出しても良いって事なのか?」


僕は今、目の前に居るのが僕の知っている子供の頃からの気弱なバートじゃなくて、すっかり一人前になった虎族の若い男なんだって初めて気がついたんだ。









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