2 / 59
巻き込まれて
従姉妹のミナミ
しおりを挟む
私はハッとして男が差し出したカードを見つめた。そこにはルームシェアしている従姉妹が、ナンパした男に渡していると言っていたカードがあった。
「‥そのカード!…たぶん私の従姉妹、田辺美波のものです。」
その男は最初に会った時のように厳しい顔をすると、苦々しい顔をして言った。
「どうやら相手を誤解していたようだ。すまなかった。‥それで、その従姉妹はどこに居るんだ?」
私は、またもや窮地に陥った気がした。従姉妹のミナミは、いつも私に尻拭いさせてばかりだ。私はため息をつくと言った。
「彼女は一昨日、海外旅行へ行ってしまいました。…多分新しい彼氏と。」
私は目の前の男が、従姉妹をののしっているのを小さくなりながら、眺めていた。何だか随分なとばっちりだったけど、これで私も解放してもらえるだろうと思った。
あんな蕩けるようなキスをしたのは初めてだったけれど、いくらイケメンでもこんな交通事故のようなキスはノーカウントだ。そうしよう。私が一人そんな事を考えていると、目の前の男はいつの間にか黙って私を見つめていた。
「なぁ、君と従姉妹って似てるかい?写真とか無いかな?」
急に猫に餌をやるみたいに、優しい声を出す男を訝しく思いながら、私はスマホで旅行前に撮った写真を見せた。男は写真をまじまじと見つめながら、何かブツブツ呟いた後私を見つめて言った。
「…雰囲気は似てるな。どうしても弟に会ってもらいたいんだ。私の車で一緒に病院へ行ってくれないか。あいつがちょっとパニクってて、もうこれしか手がないんだ。それに私は怪しいものではない。橘 征一だ。」
そう言って渡された名刺には、日向コーポレーションの課長 橘征一とあった。日向コーポレーションはCMもしているような大きな会社だ。この見た目の若さで課長なら、きっと仕事も出来るんだろう。
とは言え、言いなりになるのは嫌だったし、初対面の男を信用するほど世間知らずでは無かった。…うっかりキスされたけど。
「…分かりました。弟さんを心配する心に免じて、私が従姉妹の代わりに病院へ伺っても良いです。でも貴方の車で行くのは嫌です。全部嘘かもしれないし、大体見も知らずの相手の車になんて乗れないです。
病院さえ教えてくれたら、用意でき次第自分で向かいます。それなら良いでしょう?」
目の前の男は、私を見つめると強情だなとかぶつぶつ言ってたけれど、高級そうな腕時計をチラッと見ると言った。
「わかった、じゃあ、車はそこら辺の駐車場に停めて来るから、一緒にタクシーで行こう。それなら良いだろ?じゃあ、10分後にマンションの下で。」
勝手に二人でタクシーに乗って病院へ行く事を決めてしまった橘という男は、そう言いたいことだけ言うと、さっさとドアから出て行ってしまった。
私はまたもや向こうのペースに巻き込まれた事に、半ば愕然としつつも慌てて着替えた。少しだけ従姉妹の美波に雰囲気を寄せて、メイクと髪型を直すとマンションの下へ降りて行った。
タクシーの前でイライラしながら立っていた橘は、私を見つけると一瞬目を見開いた後、ホッとしたように私をタクシーに誘導すると、有名な大学病院の名前を運転手に伝えた。
動き出した車中で私の方を見ると、感心したように言った。
「コスプレが趣味で良かった。おかげで、さっき見た写真の従姉妹によく似てる。そんなに雰囲気が変わるなんて驚きだ。まぁ、私はさっきの小悪魔の方が好きだけどね?」
私は前を向いたまま、ぶっきらぼうに言った。
「人の趣味の事をあれこれ言わないで欲しいです。それより弟さんの名前を教えて下さらないと、美波の代わりは出来ません。」
私は隣に座る男の張りのある太腿にピッタリ誂えてある、品の良い明るいブラウンのコットンパンツを眺めるともなしに見つめていた。ズボンの上に置かれた大きな手は節張っていて、何かスポーツでもやっているような手だと思った。
清潔感のある指先から辿って、紺色のピッタリしたVネックの綿ニットに目を移すと、やっぱり予想通り厚めの胸筋を感じさせた。Vネックから伸びるすんなりした首筋は綺麗で、私はそのまま視線をあげた。
「…目の保養になったかい?君のお眼鏡に叶うと良いんだが。ククク。」
私は目の前で面白そうに口を緩めて、片眉を上げている男の顔をまじまじと見た。面長の一見日本人離れした顔は、よく見ると切長の目元が涼しげだった。
見れば見るほどイケメンで、私は何だか悪口を言う部分が減っていくような気がしてムカついてきた。
「ふふ。弟の名前は橘 尚弥。26歳だ。…君は、いや、従姉妹のミナミ?は幾つだったんだ?」
私は橘の方を向かないように努力しながら、極力冷静な声を意識しながら言った。
「美波は24歳です。私とは同い年で、昔から仲が良くて一年前からルームシェアしてるんです。」
橘は相変わらず私の方を向いて言った。
「…案外見た目と中身は一致しないものかもしれないな。一見、清純そうな君の従姉妹は男にだらしなくて、経験豊富そうな君がウブだとか。まぁ、今の君は、さっきと違って随分お淑やかに見える。流石、コスプレ好きだね。」
私は決して褒められていないニュアンスを読み取って、顔を顰めて橘を睨みつけた。
「私、もう帰っていいですか?別に行きたくて行くわけじゃないんですけど。」
橘は参ったなと頭を掻きながら、弟の話をし始めた。
「私と弟は少し歳が離れていてね、そのせいかどうしても弟の我儘に付き合ってしまう。ちなみに私は今32歳で、未婚だ。」
そう言って、私と目を合わせた。私はなぜかその眼差しから目を逸らせなかった。
「‥そのカード!…たぶん私の従姉妹、田辺美波のものです。」
その男は最初に会った時のように厳しい顔をすると、苦々しい顔をして言った。
「どうやら相手を誤解していたようだ。すまなかった。‥それで、その従姉妹はどこに居るんだ?」
私は、またもや窮地に陥った気がした。従姉妹のミナミは、いつも私に尻拭いさせてばかりだ。私はため息をつくと言った。
「彼女は一昨日、海外旅行へ行ってしまいました。…多分新しい彼氏と。」
私は目の前の男が、従姉妹をののしっているのを小さくなりながら、眺めていた。何だか随分なとばっちりだったけど、これで私も解放してもらえるだろうと思った。
あんな蕩けるようなキスをしたのは初めてだったけれど、いくらイケメンでもこんな交通事故のようなキスはノーカウントだ。そうしよう。私が一人そんな事を考えていると、目の前の男はいつの間にか黙って私を見つめていた。
「なぁ、君と従姉妹って似てるかい?写真とか無いかな?」
急に猫に餌をやるみたいに、優しい声を出す男を訝しく思いながら、私はスマホで旅行前に撮った写真を見せた。男は写真をまじまじと見つめながら、何かブツブツ呟いた後私を見つめて言った。
「…雰囲気は似てるな。どうしても弟に会ってもらいたいんだ。私の車で一緒に病院へ行ってくれないか。あいつがちょっとパニクってて、もうこれしか手がないんだ。それに私は怪しいものではない。橘 征一だ。」
そう言って渡された名刺には、日向コーポレーションの課長 橘征一とあった。日向コーポレーションはCMもしているような大きな会社だ。この見た目の若さで課長なら、きっと仕事も出来るんだろう。
とは言え、言いなりになるのは嫌だったし、初対面の男を信用するほど世間知らずでは無かった。…うっかりキスされたけど。
「…分かりました。弟さんを心配する心に免じて、私が従姉妹の代わりに病院へ伺っても良いです。でも貴方の車で行くのは嫌です。全部嘘かもしれないし、大体見も知らずの相手の車になんて乗れないです。
病院さえ教えてくれたら、用意でき次第自分で向かいます。それなら良いでしょう?」
目の前の男は、私を見つめると強情だなとかぶつぶつ言ってたけれど、高級そうな腕時計をチラッと見ると言った。
「わかった、じゃあ、車はそこら辺の駐車場に停めて来るから、一緒にタクシーで行こう。それなら良いだろ?じゃあ、10分後にマンションの下で。」
勝手に二人でタクシーに乗って病院へ行く事を決めてしまった橘という男は、そう言いたいことだけ言うと、さっさとドアから出て行ってしまった。
私はまたもや向こうのペースに巻き込まれた事に、半ば愕然としつつも慌てて着替えた。少しだけ従姉妹の美波に雰囲気を寄せて、メイクと髪型を直すとマンションの下へ降りて行った。
タクシーの前でイライラしながら立っていた橘は、私を見つけると一瞬目を見開いた後、ホッとしたように私をタクシーに誘導すると、有名な大学病院の名前を運転手に伝えた。
動き出した車中で私の方を見ると、感心したように言った。
「コスプレが趣味で良かった。おかげで、さっき見た写真の従姉妹によく似てる。そんなに雰囲気が変わるなんて驚きだ。まぁ、私はさっきの小悪魔の方が好きだけどね?」
私は前を向いたまま、ぶっきらぼうに言った。
「人の趣味の事をあれこれ言わないで欲しいです。それより弟さんの名前を教えて下さらないと、美波の代わりは出来ません。」
私は隣に座る男の張りのある太腿にピッタリ誂えてある、品の良い明るいブラウンのコットンパンツを眺めるともなしに見つめていた。ズボンの上に置かれた大きな手は節張っていて、何かスポーツでもやっているような手だと思った。
清潔感のある指先から辿って、紺色のピッタリしたVネックの綿ニットに目を移すと、やっぱり予想通り厚めの胸筋を感じさせた。Vネックから伸びるすんなりした首筋は綺麗で、私はそのまま視線をあげた。
「…目の保養になったかい?君のお眼鏡に叶うと良いんだが。ククク。」
私は目の前で面白そうに口を緩めて、片眉を上げている男の顔をまじまじと見た。面長の一見日本人離れした顔は、よく見ると切長の目元が涼しげだった。
見れば見るほどイケメンで、私は何だか悪口を言う部分が減っていくような気がしてムカついてきた。
「ふふ。弟の名前は橘 尚弥。26歳だ。…君は、いや、従姉妹のミナミ?は幾つだったんだ?」
私は橘の方を向かないように努力しながら、極力冷静な声を意識しながら言った。
「美波は24歳です。私とは同い年で、昔から仲が良くて一年前からルームシェアしてるんです。」
橘は相変わらず私の方を向いて言った。
「…案外見た目と中身は一致しないものかもしれないな。一見、清純そうな君の従姉妹は男にだらしなくて、経験豊富そうな君がウブだとか。まぁ、今の君は、さっきと違って随分お淑やかに見える。流石、コスプレ好きだね。」
私は決して褒められていないニュアンスを読み取って、顔を顰めて橘を睨みつけた。
「私、もう帰っていいですか?別に行きたくて行くわけじゃないんですけど。」
橘は参ったなと頭を掻きながら、弟の話をし始めた。
「私と弟は少し歳が離れていてね、そのせいかどうしても弟の我儘に付き合ってしまう。ちなみに私は今32歳で、未婚だ。」
そう言って、私と目を合わせた。私はなぜかその眼差しから目を逸らせなかった。
1
あなたにおすすめの小説
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
お見合いから本気の恋をしてもいいですか
濘-NEI-
恋愛
元カレと破局して半年が経った頃、母から勧められたお見合いを受けることにした涼葉を待っていたのは、あの日出逢った彼でした。
高橋涼葉、28歳。
元カレとは彼の転勤を機に破局。
恋が苦手な涼葉は人恋しさから出逢いを求めてバーに来たものの、人生で初めてのナンパはやっぱり怖くて逃げ出したくなる。そんな危機から救ってくれたのはうっとりするようなイケメンだった。 優しい彼と意気投合して飲み直すことになったけれど、名前も知らない彼に惹かれてしまう気がするのにブレーキはかけられない。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる