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公私混同は禁止

征一との密会

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目の前でハハハと気楽に笑う征一に、私は呆れるやら憎たらしく思うやらで、思わず口が尖ってしまった。

「私が何て言われてるか知らないから、そんなに呑気に笑ってられるんです…。女子社員たちが私の事、裏で媚びてるだの、ビッチだの言いたい放題なんですよ。それもこれも、あんな風に貴方が絡んできたせいです。放っておいてくれたら良かったのに…。」


征一は私の方を向くと、俯いていた私の顎を掴んで自分の方に向けると真っ直ぐに見つめて言った。

「私だって、初対面のフリをしようとしたんだ。美那を巻き込みたくなかったからね。でも、美那を見る他の男性社員たちの目つきが気に入らなかった。私は美那の彼氏だからね。仮だけど…。美那は自分の事分かってないんだって、よく分かったんだ。放って置けないだろ?」

私は顔を逸らすことも許されないで、征一の言った言葉を噛み締めていた。あれってワザとやったっていうの?他の社員から牽制するために?私には分からなかった。他の社員がどんな眼差しを私に向けてるというのだろう。


真っ直ぐ見つめてくる征一の瞳に呑み込まれそうな気持ちがして、私はぱっと目を逸らした。

「…美那。」

私の名前を呼ぶ征一の声が妙に甘い気がして、私は急に心臓がドキドキと暴れ始めるのを感じた。私は目を逸らし続けながら征一に答えた。

「…何ですか。手を離してください。」


「嫌だと言ったら?」

私は、いつもなぜこんなに心揺さぶられるのかと腹が立ってきて、征一と目を合わせた。さっきまでの甘やかな眼差しは、今や猛々しい男の眼差しになっていて、私は頭の奥が痺れる様な、どうしようもない言いようの無い気持ちを持て余した。

「美那は無自覚に私を煽るから手に負えない。私のせいにして良いから逃げないで…。」


そう言うとゆっくり顔を寄せてきた。私はきっと逃げようと思えば逃げられたんだと思う。でもその瞬間は征一の細めた瞳に縫いとめられてしまって、ただ柔らかなその唇が重ねられるのを感じていた。

甘やかす様な、ついばむようなその唇は次第に忙しないものとなった。気づけば私はいつもの様に、征一の口づけに溺れてしまっていた。

私の口内を撫で回す分厚い舌が、ゾクゾクする様な、じっとしてられない様な甘い感覚をもたらして、私はどこか遠くで聞こえる甘やかなうめき声を聞いた。それが自分の声だと気づくのはずっと後の事だったけれど…。





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