53 / 59
マリーの実験
マイケルside再びの衝撃
しおりを挟む
久しぶりに見る妹マリーは青白い面差しのまま寂しげに微笑んで、王弟に失恋したのだと言った。
私たち家族は、誰一人言葉もなくマリーを見つめていた。というより、マリーの言う失恋の意味がよく分からなかった。王弟からの婚姻申込書は、あの社交界デビューの次の日には届いていた。そしてそれは撤回されてはいない。
一ヶ月前にマリーと王弟が会った後は、確かに二人は会っていない。けれども王弟は一ヶ月マリーに自由に考える時間を与えたいと私達にことづけて行ったくらい、マリーを大事にしているではないか。
なぜ、その王弟にマリーが失恋という事になるのだ?
「…マリー、王弟はマリーと結婚したいと思っている筈だよ?なぜ、失恋になるんだい?」
僕はマリーに尋ねた。マリーは僕を見上げて呟いた。
「…それは、王弟がわたくしに失望なさったからです。きっともう、私のことなどもう好きではないはずですわ…。」
マリーはそう言うともう話は終わりだとでも言う様に、踵を返してファミリールームから出て行ってしまった。僕たちは顔を見合わせるしかなかった。
父上が母上に何か聞いているかとお尋ねになったけれど、母上も寝耳に水だった様で動揺が隠せなかった。兄と父上は王弟へ連絡を取るために慌てて執事と出て行った。
僕はため息をつくと、用意されていたスイーツとお茶を一人分テラスに運ぶ様に頼んで、本を片手に先にテラスへ向かった。
テラスには先客がいた。陽射しの中で見るマリーは確かに面やつれしていて、僕を強張った表情で見た。僕はあの、人を困らせてばかりのマリーも大人になったのだなと妙な感心をした。
「マリー、ここに居たのかい?今、ティーセットを運んでもらっているから一緒に飲もう。」
そう言っている側から召使いがティーセットを運んできた。必ず予備の茶器があるのは知っていたので、僕は二人分淹れてもらうと、しばらく二人にしてほしいと皆を下がらせた。
「お前もこのひと月、随分考えたんだ。僕が言うことはないよ。真実は今ここに無いからね。さぁ、美味しいお茶を飲もう。お前の好きなオレンジケーキもあるんだ。今日はついてるだろう?」
僕がマリーに微笑むと、マリーは緊張を解いてにっこり微笑み返した。僕はこの静かで平和な時間を、適齢期のマリーと過ごせるのもそんなに残っていないのかもしれないと思った。
それは正に真実だった。残っていなかったのではなく、無かったのだから。
私たち家族は、誰一人言葉もなくマリーを見つめていた。というより、マリーの言う失恋の意味がよく分からなかった。王弟からの婚姻申込書は、あの社交界デビューの次の日には届いていた。そしてそれは撤回されてはいない。
一ヶ月前にマリーと王弟が会った後は、確かに二人は会っていない。けれども王弟は一ヶ月マリーに自由に考える時間を与えたいと私達にことづけて行ったくらい、マリーを大事にしているではないか。
なぜ、その王弟にマリーが失恋という事になるのだ?
「…マリー、王弟はマリーと結婚したいと思っている筈だよ?なぜ、失恋になるんだい?」
僕はマリーに尋ねた。マリーは僕を見上げて呟いた。
「…それは、王弟がわたくしに失望なさったからです。きっともう、私のことなどもう好きではないはずですわ…。」
マリーはそう言うともう話は終わりだとでも言う様に、踵を返してファミリールームから出て行ってしまった。僕たちは顔を見合わせるしかなかった。
父上が母上に何か聞いているかとお尋ねになったけれど、母上も寝耳に水だった様で動揺が隠せなかった。兄と父上は王弟へ連絡を取るために慌てて執事と出て行った。
僕はため息をつくと、用意されていたスイーツとお茶を一人分テラスに運ぶ様に頼んで、本を片手に先にテラスへ向かった。
テラスには先客がいた。陽射しの中で見るマリーは確かに面やつれしていて、僕を強張った表情で見た。僕はあの、人を困らせてばかりのマリーも大人になったのだなと妙な感心をした。
「マリー、ここに居たのかい?今、ティーセットを運んでもらっているから一緒に飲もう。」
そう言っている側から召使いがティーセットを運んできた。必ず予備の茶器があるのは知っていたので、僕は二人分淹れてもらうと、しばらく二人にしてほしいと皆を下がらせた。
「お前もこのひと月、随分考えたんだ。僕が言うことはないよ。真実は今ここに無いからね。さぁ、美味しいお茶を飲もう。お前の好きなオレンジケーキもあるんだ。今日はついてるだろう?」
僕がマリーに微笑むと、マリーは緊張を解いてにっこり微笑み返した。僕はこの静かで平和な時間を、適齢期のマリーと過ごせるのもそんなに残っていないのかもしれないと思った。
それは正に真実だった。残っていなかったのではなく、無かったのだから。
10
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる