僕が獣人？いいえ、人間です。内緒ですけど。

変化する僕ら

侍女side謎の令嬢

何となく王宮の空気がいつもと違うと感じるのは気のせいなのでしょうか。私たちが姫さまとこの王宮に来て以来、私たちは丁重に扱われています。それは皇太子の姫さまへのお気持ちだと、私たちは折に触れ姫さまに伝えておりました。

しかし私は気づいていました。やはりこれは政略結婚なのだと。もちろん王族ですから、政略結婚は普通のことです。しかし姫さまは以前から、いえ、子供の頃からアスラン皇太子に恋をしていました。


魔法に特化した自国には居ない、武に秀でているのにも関わらず、スマートな物腰の皇太子に惹かれる理由は分かります。けれどもこの王宮で日々を積み重ねていくほどに、皇太子の熱量も距離感も、何ひとつ変化がありません。

姫さま自身は憧れの存在が夫となり舞い上がっているので気づいていない様ですが、殿下は姫さまが他の男と目の前でキスをしていたとしても、穏やかな笑顔を浮かべて見ているのではないでしょうか。


私にはそんな風に思えて、それはいずれ大人の女性として成長した姫さまが、その残酷な目の前の現実を知る様になるのではと危惧しているのです。それは政略結婚なのだからしょうがないと、その一言で片づけられるのかもしれませんが。

そんな風に内心ではモヤモヤとしていた私ですが、つい一週間前に皇太子が側妃を娶る事が決まって、ますます心中穏やかでは無かったのです。


勿論姫さまはその話を聞いても、元より殿下はハーレムを作ると承知して嫁いで来たのだからと強がりを仰ってましたが、手はしっかりと握られておりましたから、動揺はなさっていたのです。

そんな矢先、私が一人所用で王宮を歩いていた際、酷く注目を浴びた御令嬢が次々と貴族たちに声を掛けられながら、急足でこちらへとやって参りました。


その御令嬢と一緒にいた執事は私の顔を見ると少し慌てた様子で、第三側妃の宮の扉を騎士に開けさせておりました。私は執事の慌てぶりに何故か引っかかって、御令嬢の横顔を思い出そうと、その場で立ち止まって扉を見つめました。

確か、珍しい黒い瞳と、ベールに隠されてましたが黒い髪だったに違いありません。私はふと自国にいた頃聞いた噂を思い出していました。


この国には黒真珠の君が居て、皇太子がご執心のようだと言うそのゴシップです。結局その真偽は不明でしたが、黒い瞳と黒い髪の獣人の話は時折忘れた頃に消えずに浮かび上がって来ていました。

私は何故か嫌な予感を感じながら、姫さまのためにその黒い色を持った獣人の噂を集めて見なければならないと心に決めたのでした。