上 下
14 / 27

食欲のない俺

しおりを挟む
大学のカフェテリアで、人の三倍は食べる光一をうんざりした気持ちで眺めながら、俺は進まない箸でBランチを食べていた。食欲が無いのは自分でも理由に思い当たる節はあるけれど、さすがにそれを他人に言えるはずもなかった。原因になった光一を恨めしく思いながら、俺は多分睨んでいたんだろう。光一がふと箸を止めて俺に尋ねた。

「一誠、俺何かしちゃったか?怒ってるみたいだけど…。」

俺は鈍感なこいつが気づくほどだから、よっぽど顔に出ていたんだろうと少々反省した。俺はため息を吐くと光一に言った。


「…なんでもない。いや、ちょっと怒ってるかも。お前が不用意に変なバイト引き受けるせいで、俺がとばっちり受けたから。はぁ。」

光一はじっと俺を見ると声をひそめて言った。

「もしかしてこの間、俺に取り憑いた変なの祓ってくれた従兄弟くん、関係ある?何かさ、お前と従兄弟くん変な感じだったから。従兄弟くんてどこに住んでるんの?しょっちゅう会ってるのか?」

俺は事実を取り混ぜた嘘をついた。


「…あー、実は一緒に住んでる。上京してきちゃってさ。従兄弟って言っても、本当は従兄弟みたいなもので、爺さんの知り合いなんだ。だからちょっと気を使うって言うか。急にシェアハウスみたいになって、疲れるよ。あんまり帰りたくないな…。」

爺さんの知り合いってのは本当だし、疲れるのも理由は違ったけど本当だ。俺が護り手じゃなかったら、こんな苦労はしなくて済んだのにな。俺がボーッと付け合わせのキャベツを突っついてると、心配そうな声で光一が言った。

「もし良かったら、うちに泊まりにくるか?たまには気を使う相手と離れたら良いんじゃないか?寝袋で良かったらあるけど。他にも誰か呼んでも良いし。」
 
俺はハッと顔を上げて、光一を見上げた。なんだか後光が差してる気がする。俺は急に機嫌を良くして頷いた。


「マジで⁉︎あー、ちょっと離れたら気分転換になるかもしれない。ありがとな、光一。」

俺は急に食欲も戻ってきて、あっという間にランチを片付けるとスマホで真己に連絡を入れた。俺の脳内をかき混ぜたあの時に、色々な情報を取り込んだらしくて、上京してからすっかり環境に慣れていて、真己は鬼とは思えない振る舞いで生活しているんだ。

なんと近くの高校にまで通い始めた。人間に触れるだけで情報を得られるから、高校生に擬態するのも簡単らしい。鬼って便利な能力を持ってるよな。

その時、テーブルで俺のスマホが震えた時に、嫌な予感がしたのは何でだろう。


しおりを挟む

処理中です...