吾輩は猫であったが、今世はヒューマンと言うらしい。

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第一章 誕生、転生

賞金稼ぎと新しい主人

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オヤジがある日、吾輩を椅子に座らせると
「お前を預ける場所が確保できた。俺の古い知り合いだが信用できる男だ。独り立ちするまでそこで自分のしたいことでも決めな!」
と唐突に話し出すと、説明も半端に1通の手紙を差し出し
「この手紙を持って隣町の冒険者ギルドに向かい、ギルド長のアイオンにこれを渡せ。」
と言うと、幾ばくかの銭の入った小袋と真新しいずた袋を手渡された。

どうやらオヤジは、吾輩の将来を考えて信のおける人物に吾輩を預けたいようだ。
かれこれ半年ほどオヤジに寝床と食事を賄ってもらった吾輩に、嫌と言う気持ちはない。
「これまでお世話になりました。」
とヒューマン的なお礼を言うと吾輩は、その日のうちに隣町へ向かう馬車に乗り込むのだった。



馬車なるものはどうしてこうも乗り心地が悪いのであろうか?人の膝の上なれば、少々な揺れなどものの数でもなかったものを。
ヒューマンの身体に生まれ変わった吾輩にとってこればかりは、いかぬ。
そうこう思い悩んでいた吾輩であったが、街を出て一刻ほどの場所に差し掛かったところで、不穏な気配を感じるようになった。

どうやら世間で言うところの「盗賊」の登場のようだ。
どの世界にも真面目に働かず、人の金銭を横取りして生きて行こうと考える者がいるもののようだ。
オヤジの話では、この世界のヒューマンの命はとても軽いらしい。
特に貴族という階級と平民や奴隷では、その差は天と地ほどの差があるという。
前世で考えるならば、華族と言われた上流階級と農耕労働者ぐらいの差であろうか?
その中で元の主人や書生と言われる者が、どの程度の階級にあったかは定かではないが、生き物の価値としてはあまり高くはなかったと吾輩は考えていた。

昔のことを思い出しながら考察していると、男たちの怒号が馬車の中まで聞こえ始めた。
馬車は始めこそスピードを上げて逃げに徹していたが、どうやら別働隊がいて進路を塞がれた様子で、突然急停車してしまった。
吾輩は、このままでいる事が将来的に身に危険を及ぼす事が明らかであったことから、いくつかの選択肢を選ぶ必要性を感じていた。

一つは、このまま流れに身を任せて、運のままにこの荒波を乗り越える。
一つは、荒らしくも勇敢に馬車を降りて、敵を殲滅する。
一つは、ひっそりと身を隠し隙を見て危険を回避、逃走すること。
一つは、馬車を引く馬と共に単騎で逃げること。

実は、吾輩この世界の動物と会話ができるのである。
元々猫であった吾輩が、昔のように身近な動物と言われる生き物と会話をする事は、別段驚きに値することではない。
今少し時間があるようなので、小声でメロンと呼ばれていた馬車馬に声をかけてみると。

「・・・面白いやつだな。しかしこの状況はあまりよろしくないぞ。俺たちの間の噂では、女子供は奴隷に売り飛ばし、男や年寄りはその場で殺すらしい。当然俺たち馬は、アイツらの下に置かれるか売り飛ばされる運命だ。」
そう言いながらメロンは、
「だからと言ってお前を乗せて逃げ出したところで、隣町までは逃げ切れんだろうな。」
と自分の痩せた馬体を見ながら語った。

こうなると吾輩の取りうる選択は・・・。
スキルを使い身を隠して・・、の一択になるようだ。


  スキルの奴が凄すぎて。


吾輩は、馬車内で隠匿のスキルを発動しながら、後部の小窓からそっと身体を馬車の外に出す。
その後は馬車の底部に張り付くようにしがみ付き、盗賊らの様子を盗み見る。

盗賊らは、手際よく役割を割り振ると客や荷物を選り分け始める。
「お前とお前はこっちだ!お前は動くんじゃねえ!」
「荷物は馬車ごと棲家に運べ!」
盗賊の中に親玉のような者がいた。

相変わらずその体毛は、毛繕いがなされていないのか小汚いが、顔はヤカンというよりも土鍋のような髭面だった。

拿捕された馬車は、2台。
乗客は、吾輩を除いて12人。
女子供が4人で後は、年寄りか男だ。
少し離れた場所に連れて行かれた男たちが、断末魔の悲鳴と共に姿を消す。
その声を聞いた女子供らは、ガタガタと震えてこれからの未来を見ているようだ。

盗賊は20人、馬に乗った男が10人、歩きが10人だ。
程よく肥った盗賊を見るに、この家業が上手くいっていることがわかる。

吾輩は、女子供が乗せられた馬車の底部に張り付きながら盗賊らの棲家へと移動していた。
吾輩が隙を見て逃げもせずに馬車に張り付いているかというと、盗賊らの脅威度がそれほどでもなかったからだ。
これなら、盗賊らを殲滅して溜め込んでいる銭でも行き立ちの駄賃として貰い受けようと考えたのだ。


  盗賊退治


四半刻(30分)程移動すると、盗賊の棲家に着いたようで岩山の洞窟に辿り着いた。

ここがコイツらの棲家か。

入り口は、移植された樹樹で隠され、頭上には見張り台のような岩が張り出している。
馬車から荷物や女子供らが降ろされ、洞窟に連れて行かれた。
外に居るのは、見張り役2人と馬車を片付けるための男3人の5人だ。
武器は、錆びた剣と弓のようで爪や牙は見当たらない。

吾輩は、素早く馬車底から出ると、見張り役の2人の喉笛を掻き切り、無音で近くの藪じらに押し込む。
その後は、馬車に乗り込む男2人と馬車跡を消す作業の男を順番に沈めていく。
馬車馬には小声で
「裏手に向かい暫く待っておいて。」
と言い聞かせ、見張り台の男を仕留めに岩肌を登っていく。

岩の上には3人の男らがいたが、油断しているのか酒を飲んでいた。
吾輩は、岩棚に躍り出ると男らが立ち上がるよりも早く、その喉笛を切り裂いて静かにさせる。
この時、前世の悪い習性が出て、1人をなますに刻んだのは仕方のないことだろう。
いくら常識と知性を持つ吾輩と言えど、前世の習性は簡単には消せやしないのである。

洞窟の入り口に戻り吾輩は、夜目の効く瞳をもって侵入に成功する。
当然隠密的な行動で、無音移動であり且つ壁走りを駆使して、早くも最奥に達していた。
洞窟では、敵は皆外から襲ってくるものと考えるもの。
最奥から襲えば、盗賊など敵味方がわからず混乱するのは目に見えるほど分かりやすい。

最奥に近い場所に押し込まれていた、女子供らの縛っていた紐を切り、
「呼ぶまで此処でジッとしておけ。」
と念を押して、吾輩は奥にあった剣を2振り両手に持って出口へと進む。

今日の稼ぎを自慢しながら酒を飲む盗賊らを静かに沈めながら進んでいくと。
「おい、ガレン!・・・どこ行きやがった。」
と言いながらあの指示役の親玉風盗賊が姿を見せた。
「ん!お前ら何でこんな所で寝て・・・ん!・・お」
大声をあげそうだった男の喉笛を剣で切り裂き、胸にもう一本の剣を差し込んだ。
男は驚いた顔で吾輩を見つめていたが、その目は次第に色を無くし木石と化した。

その後も淡々と盗賊らを沈め、最後に周囲を確認して戻ってきた残党5人を沈めた所で、盗賊らは全てあの世というところに旅立った。

その後吾輩は、女子供を洞窟の外に出して盗賊らの宝を持ち出し、控えさせていた馬車と馬車馬を呼び戻して、隣町へと走り出したのだった。

女子供らは、身内が殺されたことを今更ながら嘆いていたが、この世界はそんな世界ということか、盗賊のため込んでいた宝から金貨を10枚ずつ手渡すと。
新しい明日を思ってか女は上を向いていた。

夕暮れの頃には馬車は、隣町のギャラクシーの門前に辿り着いた。
門兵は、御者が居ないのに真っ直ぐ門に走り寄る馬車に驚いていたが、吾輩がことの顛末を馬車から降りて語ると、兵士を盗賊の棲家に走らせた後、吾輩らを別室に呼んで聞き取りを始めた。

どうやら盗賊らは、この辺りで幅を利かせていたようで、報奨金が出ると聞かされ吾輩は冒険者ギルドに連れて行かされた。

討伐依頼が冒険者ギルドから出ていたのがその理由で、目的のギルド長アイオンに会えたのは運がいい。
これから吾輩が主人として支える人物との出会いだった。
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