吾輩は猫であったが、今世はヒューマンと言うらしい。

モンド

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第一章 誕生、転生

吾輩は名前を付けられた。

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吾輩に名前が付けられた!

「名前がないのか?それならお前の名は・・・トリオン、それで良いだろう。どうだ?」
家に来た3日後、名前を聞かれ名前がないことを伝えると、オヤジは、トリオンと言う名前をくれた。

前世では家に遊びに来た書生達の中に、「ミケ」と呼ぶものもいたが、これはこれで良い気がする。
初めての名前に吾輩は気分が上がった。
これは、吾輩の存在がこの世界に受け入れられたと言う事なのであろう。
前世の記憶では、よく書生らや主人が
ハイカラとかインテレクチュアリズムとか下女や注文取りの丁稚が知らない言葉を多用して、上から目線で現実逃避をしているのがよく見られていた。しかしながら真の教育者を目指すものであれば、ヤカン顔に貧そなガイザル髭を得意げに触りながら、自分の無知を棚に上げて他人を誹る行為など決してしないであろうと、吾輩はよく思っていた事は、ここでは言うまい。
何故なら、異世界というこの世界にも同じような輩が存在するのを吾輩は、見かけていたからである。

その後は、オヤジに付いていきながら出店の仕事と、商業ギルドの知識を得た。
知識欲のある吾輩にとって、この世界の知識は非常に面白いと言えた。


「トリオン、商業ギルドで次の1年間の営業許可申請の用紙をもらってきてくれ。」
とある日、オヤジに言いつけられた吾輩は、1人商業ギルドに向かった。

商業ギルでは、この街「エルドラド」の中心付近にある3階建ての大きな建物で、その横にさらに大きな冒険者ギルドという建物がある。
その容貌で人を威圧すような建物だなと感心しながら扉を押し開ける。

商業ギルドに入ると、顔馴染みになった受付のアリス嬢が、ニコリとして
「トリオン君、今日は用事があってきたのかな?」
と声をかけてくれたので、オヤジの言いつけを伝えると。
アリス嬢は、書類を準備し始めた。

その間吾輩は、ギルド内の様子を仔細に観察し始めた。
カウンターの横には、書類などを整理する棚やハンコのような小道具を収納した棚に、分厚い本が数冊如何にも出来そうだと言わんばかりに置かれている。
それを見て吾輩は、前世で「見た目を繕うこともその人物を貴らしめる手段である」と主人のもとに訪れた誰かがのたまっていたことを思い出した。

「これがその書類よ、無くさないようにね。」
と言いながらアリス嬢が封筒を渡してくれた。
「ありがとう」とお礼を言いながら吾輩は、ギルドを後にした。
お礼の言葉は、猫社会でも重要なルールであったので、吾輩は今世でも多用するように心がている。
だからと言って初めての人物の尻に、鼻を押し当てるなどの行為はこの世界でも猫にしか通じない事であるから、耳を動かす程度で済ませているのは吾輩がかなり成長している証であると思う。

ギルドを出た俺は、隣の冒険者ギルドに出入りする冒険者を見ながら、オヤジの出店に歩き始めたが。
「ドン」
と言う衝撃と共に、吾輩は道に転がった。
何があったと思い起き上がりながら周りを見ると、冒険者と思われる厳つい男らが3人ニヤニヤしながら俺を見ていた。
「おい、小僧!ぶつかっておいて何もなしか?」
1人の男が吾輩に向かって脅すように声をかけてきた。
吾輩は、こいつら何を言っているんだと思いながら、無視して歩き出そうとすると。

無頼漢の残り2人が俺の行手を塞ぐように立ちはだかった。
「逃げんじゃねーよ。」
さっきの男がそう言いながら毛むくじゃらな腕を伸ばして、吾輩を捕まえようとしてきた。
猫の毛なれば毎日毛繕いをしているので嫌悪感はないが、この男らの体毛は身の毛もよだつような汚らしさを醸し出していた。
吾輩はその手を最小限度の接触で払いのけながら、立ち塞がる男らの頭上ポンと跳んで超えると、
「わざとぶつかるお前らに謝る筋合いはない。」
と捨て台詞を残して歩き始めると。

「「生意気な!」」
と言う複数の声が聞こえた後、無頼漢らが剣を抜いて追いかける気配を感じた。
「馬鹿な奴らだ。」と思いながら吾輩は、1人2人とその攻撃を交わしながら、弛んだ腹に蹴りを喰らわして最後の男の頭に猫パンチを喰らわした。
男らはその場にうめきながら蹲ったまま動けないようなので、
「人通りの邪魔だよ。」
と言いながら吾輩は、道の端に蹴り転がして、その場を後にしたのだった。

その様子を道端から見ていた数人が、冒険者ギルドに駆け込んだり、拍手をしたりとしていた。
やっぱり奴ら嫌われ者だったようだ。
ちょっとしたヒーロー気取りで吾輩は、足取りも軽く歩き始める。


店に戻り封筒を手渡しながら吾輩は、オヤジにさっきの出来事を話した。
「アイツらだな。良い薬になっただろ、次は骨の一本でも折っとけ。」
と言われたので「分かった」と答えて仕事の手伝いを続けた。
どうやら、無頼漢にはそこそこな対応で問題ないようだ。




  ある国の諜報機関に所属する凄腕の男、オヤジ。

俺は、ある国の諜報機関に所属し、他国の情報を商人として得ながら報告をする任務をここ15年ほど続けている。
人は俺を見た目からオヤジと呼ぶ。しかし俺はまだ29だ!
14歳で組織は俺をこの国やよその国へ、情報集めのために商人の弟子として派遣した。
孤児だった俺は、恩義もあって頑張ってきたさ。

今じゃ、本物の商人より儲けている気がしている。
俺の仕事は、ただの情報集めじゃねえ。
親しくなった兵士やギルド職員からの情報や、たまには王都の貴族の屋敷に忍び込んで機密を持ち出したりもしている。
それもこれも俺のスキルあっての話だ。
隠匿、影移り、聞き耳、複写のスキルが俺を出来る密偵に登り詰めさせたんだ。

そんな俺が、同じような境遇のガキを見つけて何を考えたと思う。
決して俺みたいにはしたくないと考えたさ。
しかもコイツは、俺以上の素質を持っていた。
初めて会った時は、ただの孤児か捨て子と思ったが、話をするとかなり頭がいいのが分かったが、その分名前すらないことに驚いた。
組織の奴らに知られるわけにはいかねえ、早いとこアイツに任せよう。
アイツならコイツを守って上手く育てるだろうからな。

オヤジことブラックは、そう呟いて手紙を出した。

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