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第二章 成人貴族の日常
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ーー 第二章
ーー 領主編。
感慨深い卒業式も終わり、卒業生はそれぞれの迎えに来た家族と自領に戻っていく。
「エストニア伯爵様、学園の間本当にありがとうございました。これからは王国に仕える貴族として、共に努力してゆ行きましょう。」
「ありがとう、僕もクロニアル伯爵には改めてお礼を言うよ。学園に来て1番の親友ができた、これから同じ夢に向かって生きる仲間もできた。これからもよろしく。」
とクロニアル伯爵と改まった挨拶をしてクロニアル伯爵は、父親のサンドール侯爵と自領に戻って行った。
「エスト、あなたも大きく立派に成りました。これから私たちの手を完全に離れて1人の領主として、この王国で生きてゆく貴方に幾つかの餞別を準備しています、一度公爵領に向かいますよ。」
と姉にしか見えない姿のお母様が声をかけた。
こうして僕らメンバーはそれぞれの家族と、自領や自宅に向かい学園を去ったのだった。
マッケンジー=セルグナ伯爵 side
セガール王国の騎士団長を務めるセルグナ伯爵は、息子である三男マッケンジーが実力で自分と同じ伯爵位と領地を拝領したことに、大きな誇りを持っていた。
さらに一族の者を旧イーリッヒ侯爵地方の新たな一領主として、推薦し了承を得たことに一族を代表して感謝していた。
「マッケンジー伯爵よ、今宵はわしと祝いの酒を飲み明かそうではないか。」
と機嫌の良い父親を見ながらマッケンジー伯爵は、その背中を夢中で追いかけていた幼いことを思い出しながら、感慨深い気持ちで
「兄達も一緒にエストニア伯爵から頂いた希少な酒を飲みましょう。」
と答えたた。
ミリア=センドー子爵 side
センドー男爵が自分より位の高くなった娘を見ながら
「ミリア子爵様、今宵はセンドー男爵邸で母達とゆっくり話をしておくれ。そしてマッケンジー伯爵様との婚儀の話を早めに決めてくれると、親としても準備がしやすい。」
と機嫌の良い父親に
「はい、お父様。今宵は娘ミリアとしてお父様達と過ごしたいと思います。」
と答えて馬車に乗り込んだ。
セリーナ=コールマン子爵 side
セリーナの親族コールマン準男爵一族は、セリーナを下にも置かない態度で迎えに来た。
今までかなりの仕送りをしていたので、コールマン準男爵の屋敷や馬車もりっぱな物に変わっていたが、準男爵としての節度は守っていたのだ。
「セリーナ子爵様、今宵は一族が集まる日。今後のことと新しい人材の選抜をしてはくれぬか?」
とセリーナの従兄弟の紹介をしたいと伝える父に
「お父様、しばらくは娘として家に滞在しますから、その間に皆で相談しましょうね。」
と答えてエストニア伯爵から貰った酒を渡した。
レリーナ=トータル子爵 side
騎士爵の家の娘が子爵位にまで成り上がったのだ、一族の自慢の娘である。
しかもレリーナは、早いうちから殆どの収入を実家に仕送りしており、屋敷や持ち物を娘の格に合うものにと、買い替えていた両親に少なからず感謝をしていた。
「お父様、お母様。今まで私を育てていただき本当にありがとうございました。家に送ったお金も殆どは私の将来のためにと使っていただき、私はとても幸せ者です。今度は私がお父様やお母様を幸せにいたします。」
と答えると両親とも、
「お前には十分幸せをもらっている、今度はお前が婿をもらって幸せになっておくれ。」
と答えながら馬車はケンドール公爵領へ向かった。
ーー 黄に季節、成人貴族としての日常の始まり。
私は成人貴族としてこれから生きていくために、言葉や態度行動をそれらしく変えなければならない。
貴族というものは、人の粗を探すところが少なからずあるもの。
相手より自分を上に置きたいと思うプライドが、こじれたものと言える。
ただこのプライドこそが貴族の基本とも言えるので、無視するわけもいかないところが痛いところだ。
ぼく・・私は、合理を持って計画実施を行うため、相手との交渉や面会でも思い立ったら、というのが基本だった。
しかし貴族社会ではそれは通じない、「先触れ」や「約束」を事前に取るなことや根回しをしてから話をすることが求められるのだ。
これを上手くやっていかなければ、無駄な手間や妨害を受けることにつながるのだ。
力押しという手段もあるかもしれないが、それでは身勝手で長続きできないのだ。
当然社交という場も同じような目的を持つ、よって社交の得意で力を持つ女性を娶る事も大切と言えるのだ。
貴族とは意外と難しいものだ。
暫くは妹であるクレアリーナに手伝ってもらおう。
今私が早急に決めなければいけないのは、領主代行をしていたエリス男爵を旧イーリッヒ侯爵地方の一領主に推薦した事で、伯爵領のまとめ役がいなくなった事だ、その後釜を探しているのだ。
人材は豊富にいる、しかしものになるにはそれ相当の時間と経験が必要となる。
暫くはミカエル騎士爵先輩に代わりをしてもらおう。
「ミカエル騎士爵を男爵に叙爵し、私のいない時の領主代行を任せる。」
と爵位を上げる任命式をしたら、物凄く感謝された。
「エストニア伯爵様、私は貧乏男爵の三男で平民か良いところで騎士になれればと、学園に入学しました。
それがケンドール公爵との縁を結び、エストニア伯爵の元に騎士爵で迎えられる幸運を喜んでおりました。
まさか領主代行を仰せつかり男爵になれるなど、夢のようです。
これで胸を張って妻を迎えられます、ありがとうございました。」
と頭を下げた。
「妻を娶る・・相手がいるのですね。今度私に紹介を兼ねて屋敷に連れてきてくださいね。」
と言い渡して、その日の式は終わった。
ミカエル=クロエ男爵 side
先日私は、男爵へと叙爵されました。
男爵の三男坊がここまでなれるなど、ごく稀にしか聞いたことはありませんし、私自身信じられません。
エストニア伯爵様とは、学園の寮長と新入生ぐらいの関係だったのに、ここまで私を引き上げてくださったこと、一生忘れるものではありません。
そして本日、私は妻となる女性。
ウエスト男爵家三女のメスティーナを連れて、領主邸にきている。
「エストニア伯爵様、紹介いたします。こちらが私の許嫁であるメスティーナです。学園ではエストニア伯爵様の一つ上の学年でした。」
と紹介すると。
「覚えていますよ。これからはミカエル男爵を支えてこの領地のために力を貸してくださいね。」
と言われると、あの贈り物を彼女に渡して下さりました。
そうミスリルのアクセサリーと若返りの効果のある美容液入り化粧水です。
「ありがとう存じます。これで私もケンドール公爵夫人の派閥として、夫のために力を振うことができます。」
と答えてくれた。
『夫!もうミカエル先輩は尻に轢かれそうな気がするのは気のせいかな。』と思いつつも、先輩にもお酒に詰め合わせを渡しておいた。
そに日の夕刻。
私はメスティーナの実家に彼女を送って行った際。
「お母様、私もケンドール公爵夫人の派閥に迎え入れられたようです。」
とアクセサリーを見せる娘に羨望の眼差しの男爵夫人、しかしその後
「これも頂きましたが、わたしにはまだ早い物、どうぞお母様お使いくださいませ。」
とあの若返りの化粧水を渡していた。すると
「貴方を産んでよかったと今日ほど思ったことはないわ。これで我がウエスト男爵家も安泰だわ。」
と大喜びの様子であった。
ケンドール公爵地方において、公爵夫人の派閥と言い切れるかどうかが、これからの未来を決めるようだとその時初めて知った。
女性社会の力の先端を垣間見た気がして寒気を覚えた瞬間だった。
ーー 白の休み
新しい年を迎える季節が到来してきた。
この頃四季の区別がハッキリとしてきたこの世界において、白の季節はこの王国の人にとって馴染みが薄い季節でもあった。
私は防寒着をさらに改良し、白の季節でも積極的に森で魔物を狩るようにしていた。
これは、以前旧イーリッヒ侯爵地方で起こった魔物のスタンピード対策とも言える。
ここまで雪が積もるようになれば、狩るをしてくれる冒険者や兵士も活動が鈍る、だからと言って青の季節にこれまで以上の狩りができるかといえば、それは無理だと分かる。
だからこそ、白の季節でも十分に狩りができる装備と訓練が必要だと思っているのだ。
伯爵領の兵士とケンドール公爵領の兵士を森に向かわせて、魔物を狩る行軍訓練を恒例の行事とした。
当然装備はその度に改良を行い、精強な兵の育成に腐心した。
この結果、数年後にはとても頼もしい兵士になってくれた。
ーー 白の季節。
私も数えで15歳になり本格的に社交に精を出し始めた。
メンバーのそれぞれも社交の場でよく顔を合わせるようになった。
マッケンジー君とミリア嬢は間もなく結婚という話で、特に活発に動いているようだ。
レリーナ嬢達は、まだ婿をもらう気持ちはないようで、顔を出す程度のようだ。
クロニアル伯爵は、彼のお母様が乗り気でただいま嫁候補募集中のようで、色々な社交に連れて行かれているそうで疲れた顔を見せていた。
そう言えば私のお母様は何も言わないよな?なんでだろう。
◇
王家主催のパーティーが催されると招待状が届いたのは、白の季節も終わりの頃。
パーティーは基本、ペアで参加するものである。
そこで私の場合は、お母様か妹のどちらかに同行してもらうのであるが、今回は妹がお相手として向かうことになった。
今回のパーティーには、新しく領主となった15家が参加することが伝えられており、社交の場で派閥がハッキリする場でもある。
「そう言えばエリス男爵は誰をパートナーに連れてくるんだろう?」
と呟いていたら、妹が
「エストお兄様、ご存知でなかったのですか?エリス男爵の御相手は、お母様が紹介した子爵家のお嬢様ですよ。」
と教えてくれた。
「そうだったのか、さすがお母様手回しが早い。」
と独り言を言いながら、会場入りした私達。
会場では、新領主の方々が緊張した様子で縁のある家の者と挨拶を交わしていたが、私の登場に多くの新領主が挨拶に押しかけてきた。
その中でもミスリルのアクセサリーを身に付けているパートナーを連れた領主は、とても落ち着いているように見えたのは気のせいなのであろうか。
パーティーの主催者である王家の人々が姿を表す。
「今宵のパーティーは、先の新領主決定を皆にお披露目する目的もある。
新しい領主達は先達の教えを受けると共に、新しき試みにも大いに挑戦してもらいたい。」
と国王が挨拶をして、パーティーは始まった。
3公(候)の周りに新しい領主が挨拶に並ぶ、ここで今の力具合が見える。
半分ほどがケンドール公爵の元に並んでいる、残りを半分ずつに分かれて並んでいるようだ。
女性はと言うと、王妃に3割ケンドール公爵夫人に5割、そして残りはサンドール侯爵夫人のようだ。
セガール公爵夫人の方には、ほとんで挨拶の女性はいない。
女性の世界の方が厳しいのだと感じる場面だ。
エリス男爵がわたぢに挨拶に来た。
「エストニア伯爵様の元で過ごした経験は、とても役に立っております。特に良い領地を与えてくださったようで、感謝にたえません。」
と言う男爵にパートナーを紹介して欲しいと言えば
「忘れておりました。サンドール侯爵家の傍系の子爵家の娘シャイニンです、ケンドール公爵夫人の派閥にてお世話になっております。」
と紹介してくれた、胸にはミスリルのアクセサリーが光っている。
確かにお母様の派閥のようだ。
軽く会話をして別れる。
その後は次々に新領主が挨拶に、更にはサンドール侯爵地方の貴族までが。
「どういうことだ?」
と不思議がると妹が
「エストお兄様はご自分の力を理解していらっしゃらないのです。この王国で最も力を持つのは、お兄様ではないですか。」
と諭すように言われ、そうなのかと自問していた。
その後は王家の人々に挨拶を行い。
幾つかのお土産を渡すと私は、メンバーの元に向かった。
「パーティーも疲れるもんだね。」
と漏らす私に、クロニアル伯爵が
「エストニア伯爵はまだいいよ、僕なんか・・。」
とため息を吐くと言葉を濁す。
「みんなそれぞれあるみたいだね。また学園の時のように集まれると面白いのにね。」
と言う言葉でその日のパーティーは終わった。
ーー 領主編。
感慨深い卒業式も終わり、卒業生はそれぞれの迎えに来た家族と自領に戻っていく。
「エストニア伯爵様、学園の間本当にありがとうございました。これからは王国に仕える貴族として、共に努力してゆ行きましょう。」
「ありがとう、僕もクロニアル伯爵には改めてお礼を言うよ。学園に来て1番の親友ができた、これから同じ夢に向かって生きる仲間もできた。これからもよろしく。」
とクロニアル伯爵と改まった挨拶をしてクロニアル伯爵は、父親のサンドール侯爵と自領に戻って行った。
「エスト、あなたも大きく立派に成りました。これから私たちの手を完全に離れて1人の領主として、この王国で生きてゆく貴方に幾つかの餞別を準備しています、一度公爵領に向かいますよ。」
と姉にしか見えない姿のお母様が声をかけた。
こうして僕らメンバーはそれぞれの家族と、自領や自宅に向かい学園を去ったのだった。
マッケンジー=セルグナ伯爵 side
セガール王国の騎士団長を務めるセルグナ伯爵は、息子である三男マッケンジーが実力で自分と同じ伯爵位と領地を拝領したことに、大きな誇りを持っていた。
さらに一族の者を旧イーリッヒ侯爵地方の新たな一領主として、推薦し了承を得たことに一族を代表して感謝していた。
「マッケンジー伯爵よ、今宵はわしと祝いの酒を飲み明かそうではないか。」
と機嫌の良い父親を見ながらマッケンジー伯爵は、その背中を夢中で追いかけていた幼いことを思い出しながら、感慨深い気持ちで
「兄達も一緒にエストニア伯爵から頂いた希少な酒を飲みましょう。」
と答えたた。
ミリア=センドー子爵 side
センドー男爵が自分より位の高くなった娘を見ながら
「ミリア子爵様、今宵はセンドー男爵邸で母達とゆっくり話をしておくれ。そしてマッケンジー伯爵様との婚儀の話を早めに決めてくれると、親としても準備がしやすい。」
と機嫌の良い父親に
「はい、お父様。今宵は娘ミリアとしてお父様達と過ごしたいと思います。」
と答えて馬車に乗り込んだ。
セリーナ=コールマン子爵 side
セリーナの親族コールマン準男爵一族は、セリーナを下にも置かない態度で迎えに来た。
今までかなりの仕送りをしていたので、コールマン準男爵の屋敷や馬車もりっぱな物に変わっていたが、準男爵としての節度は守っていたのだ。
「セリーナ子爵様、今宵は一族が集まる日。今後のことと新しい人材の選抜をしてはくれぬか?」
とセリーナの従兄弟の紹介をしたいと伝える父に
「お父様、しばらくは娘として家に滞在しますから、その間に皆で相談しましょうね。」
と答えてエストニア伯爵から貰った酒を渡した。
レリーナ=トータル子爵 side
騎士爵の家の娘が子爵位にまで成り上がったのだ、一族の自慢の娘である。
しかもレリーナは、早いうちから殆どの収入を実家に仕送りしており、屋敷や持ち物を娘の格に合うものにと、買い替えていた両親に少なからず感謝をしていた。
「お父様、お母様。今まで私を育てていただき本当にありがとうございました。家に送ったお金も殆どは私の将来のためにと使っていただき、私はとても幸せ者です。今度は私がお父様やお母様を幸せにいたします。」
と答えると両親とも、
「お前には十分幸せをもらっている、今度はお前が婿をもらって幸せになっておくれ。」
と答えながら馬車はケンドール公爵領へ向かった。
ーー 黄に季節、成人貴族としての日常の始まり。
私は成人貴族としてこれから生きていくために、言葉や態度行動をそれらしく変えなければならない。
貴族というものは、人の粗を探すところが少なからずあるもの。
相手より自分を上に置きたいと思うプライドが、こじれたものと言える。
ただこのプライドこそが貴族の基本とも言えるので、無視するわけもいかないところが痛いところだ。
ぼく・・私は、合理を持って計画実施を行うため、相手との交渉や面会でも思い立ったら、というのが基本だった。
しかし貴族社会ではそれは通じない、「先触れ」や「約束」を事前に取るなことや根回しをしてから話をすることが求められるのだ。
これを上手くやっていかなければ、無駄な手間や妨害を受けることにつながるのだ。
力押しという手段もあるかもしれないが、それでは身勝手で長続きできないのだ。
当然社交という場も同じような目的を持つ、よって社交の得意で力を持つ女性を娶る事も大切と言えるのだ。
貴族とは意外と難しいものだ。
暫くは妹であるクレアリーナに手伝ってもらおう。
今私が早急に決めなければいけないのは、領主代行をしていたエリス男爵を旧イーリッヒ侯爵地方の一領主に推薦した事で、伯爵領のまとめ役がいなくなった事だ、その後釜を探しているのだ。
人材は豊富にいる、しかしものになるにはそれ相当の時間と経験が必要となる。
暫くはミカエル騎士爵先輩に代わりをしてもらおう。
「ミカエル騎士爵を男爵に叙爵し、私のいない時の領主代行を任せる。」
と爵位を上げる任命式をしたら、物凄く感謝された。
「エストニア伯爵様、私は貧乏男爵の三男で平民か良いところで騎士になれればと、学園に入学しました。
それがケンドール公爵との縁を結び、エストニア伯爵の元に騎士爵で迎えられる幸運を喜んでおりました。
まさか領主代行を仰せつかり男爵になれるなど、夢のようです。
これで胸を張って妻を迎えられます、ありがとうございました。」
と頭を下げた。
「妻を娶る・・相手がいるのですね。今度私に紹介を兼ねて屋敷に連れてきてくださいね。」
と言い渡して、その日の式は終わった。
ミカエル=クロエ男爵 side
先日私は、男爵へと叙爵されました。
男爵の三男坊がここまでなれるなど、ごく稀にしか聞いたことはありませんし、私自身信じられません。
エストニア伯爵様とは、学園の寮長と新入生ぐらいの関係だったのに、ここまで私を引き上げてくださったこと、一生忘れるものではありません。
そして本日、私は妻となる女性。
ウエスト男爵家三女のメスティーナを連れて、領主邸にきている。
「エストニア伯爵様、紹介いたします。こちらが私の許嫁であるメスティーナです。学園ではエストニア伯爵様の一つ上の学年でした。」
と紹介すると。
「覚えていますよ。これからはミカエル男爵を支えてこの領地のために力を貸してくださいね。」
と言われると、あの贈り物を彼女に渡して下さりました。
そうミスリルのアクセサリーと若返りの効果のある美容液入り化粧水です。
「ありがとう存じます。これで私もケンドール公爵夫人の派閥として、夫のために力を振うことができます。」
と答えてくれた。
『夫!もうミカエル先輩は尻に轢かれそうな気がするのは気のせいかな。』と思いつつも、先輩にもお酒に詰め合わせを渡しておいた。
そに日の夕刻。
私はメスティーナの実家に彼女を送って行った際。
「お母様、私もケンドール公爵夫人の派閥に迎え入れられたようです。」
とアクセサリーを見せる娘に羨望の眼差しの男爵夫人、しかしその後
「これも頂きましたが、わたしにはまだ早い物、どうぞお母様お使いくださいませ。」
とあの若返りの化粧水を渡していた。すると
「貴方を産んでよかったと今日ほど思ったことはないわ。これで我がウエスト男爵家も安泰だわ。」
と大喜びの様子であった。
ケンドール公爵地方において、公爵夫人の派閥と言い切れるかどうかが、これからの未来を決めるようだとその時初めて知った。
女性社会の力の先端を垣間見た気がして寒気を覚えた瞬間だった。
ーー 白の休み
新しい年を迎える季節が到来してきた。
この頃四季の区別がハッキリとしてきたこの世界において、白の季節はこの王国の人にとって馴染みが薄い季節でもあった。
私は防寒着をさらに改良し、白の季節でも積極的に森で魔物を狩るようにしていた。
これは、以前旧イーリッヒ侯爵地方で起こった魔物のスタンピード対策とも言える。
ここまで雪が積もるようになれば、狩るをしてくれる冒険者や兵士も活動が鈍る、だからと言って青の季節にこれまで以上の狩りができるかといえば、それは無理だと分かる。
だからこそ、白の季節でも十分に狩りができる装備と訓練が必要だと思っているのだ。
伯爵領の兵士とケンドール公爵領の兵士を森に向かわせて、魔物を狩る行軍訓練を恒例の行事とした。
当然装備はその度に改良を行い、精強な兵の育成に腐心した。
この結果、数年後にはとても頼もしい兵士になってくれた。
ーー 白の季節。
私も数えで15歳になり本格的に社交に精を出し始めた。
メンバーのそれぞれも社交の場でよく顔を合わせるようになった。
マッケンジー君とミリア嬢は間もなく結婚という話で、特に活発に動いているようだ。
レリーナ嬢達は、まだ婿をもらう気持ちはないようで、顔を出す程度のようだ。
クロニアル伯爵は、彼のお母様が乗り気でただいま嫁候補募集中のようで、色々な社交に連れて行かれているそうで疲れた顔を見せていた。
そう言えば私のお母様は何も言わないよな?なんでだろう。
◇
王家主催のパーティーが催されると招待状が届いたのは、白の季節も終わりの頃。
パーティーは基本、ペアで参加するものである。
そこで私の場合は、お母様か妹のどちらかに同行してもらうのであるが、今回は妹がお相手として向かうことになった。
今回のパーティーには、新しく領主となった15家が参加することが伝えられており、社交の場で派閥がハッキリする場でもある。
「そう言えばエリス男爵は誰をパートナーに連れてくるんだろう?」
と呟いていたら、妹が
「エストお兄様、ご存知でなかったのですか?エリス男爵の御相手は、お母様が紹介した子爵家のお嬢様ですよ。」
と教えてくれた。
「そうだったのか、さすがお母様手回しが早い。」
と独り言を言いながら、会場入りした私達。
会場では、新領主の方々が緊張した様子で縁のある家の者と挨拶を交わしていたが、私の登場に多くの新領主が挨拶に押しかけてきた。
その中でもミスリルのアクセサリーを身に付けているパートナーを連れた領主は、とても落ち着いているように見えたのは気のせいなのであろうか。
パーティーの主催者である王家の人々が姿を表す。
「今宵のパーティーは、先の新領主決定を皆にお披露目する目的もある。
新しい領主達は先達の教えを受けると共に、新しき試みにも大いに挑戦してもらいたい。」
と国王が挨拶をして、パーティーは始まった。
3公(候)の周りに新しい領主が挨拶に並ぶ、ここで今の力具合が見える。
半分ほどがケンドール公爵の元に並んでいる、残りを半分ずつに分かれて並んでいるようだ。
女性はと言うと、王妃に3割ケンドール公爵夫人に5割、そして残りはサンドール侯爵夫人のようだ。
セガール公爵夫人の方には、ほとんで挨拶の女性はいない。
女性の世界の方が厳しいのだと感じる場面だ。
エリス男爵がわたぢに挨拶に来た。
「エストニア伯爵様の元で過ごした経験は、とても役に立っております。特に良い領地を与えてくださったようで、感謝にたえません。」
と言う男爵にパートナーを紹介して欲しいと言えば
「忘れておりました。サンドール侯爵家の傍系の子爵家の娘シャイニンです、ケンドール公爵夫人の派閥にてお世話になっております。」
と紹介してくれた、胸にはミスリルのアクセサリーが光っている。
確かにお母様の派閥のようだ。
軽く会話をして別れる。
その後は次々に新領主が挨拶に、更にはサンドール侯爵地方の貴族までが。
「どういうことだ?」
と不思議がると妹が
「エストお兄様はご自分の力を理解していらっしゃらないのです。この王国で最も力を持つのは、お兄様ではないですか。」
と諭すように言われ、そうなのかと自問していた。
その後は王家の人々に挨拶を行い。
幾つかのお土産を渡すと私は、メンバーの元に向かった。
「パーティーも疲れるもんだね。」
と漏らす私に、クロニアル伯爵が
「エストニア伯爵はまだいいよ、僕なんか・・。」
とため息を吐くと言葉を濁す。
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