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第六章 Repeat the last day
1 10月24日 AM7:08 茜
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けたたましい音がいつもの時間に鳴っていた。
規則正しく、決められた時間に働く機械のけなげなほどの従順さが、今日ばかりは少しばかり恨めしく思える。
ゆっくりと気怠い体を起こし、目覚まし時計のアラームを止める。カーテンから漏れる光をじっと眺め、朝日が顔を出したことを実感する。
朝がやってきた。爽涼に過ぎるほどの空気を孕んで。芯から眠れたとはお世辞にも言えない夜を越え、私はついにその日を迎えていた。
今日で世界が終わる。
嘘みたいな話。でも、一度体験した私には、それを笑い飛ばすだけの自信がなかった。
「10月24日、月曜日……」
部屋に貼られたカレンダーに目をやる。前回も経験したはずの日付をまた繰り返すことの不条理さに、この数日で少しは慣れるかと思ったけれど、まったく慣れることはなかった。それどころか、日を重ねるごとにこの世界にいることの違和感は大きくなっていくばかりだった。
「今日で世界が終わる」
口に出して言ってみた。
まるきり現実感のない言葉。とってつけた台詞のよう。
けれど、時間を遡ったこの世界でも、再び前回のことが繰り返されるとしたら、それは嘘ではなく本当のこととなる。
考えれば考えるほどに恐ろしくなり、思考はつまらないループにはまり込んだように、悪いことばかりに満たされそうになっていた。
そして、どうしようもなくあの二人に会いたい気持ちになった。
朔。京。
彼らだけがこの不安な気持ちをわかってくれる理解者だった。
一緒に世界の終わりを体験し、そして同じ時を遡った。
早く会いたい。
私は焦る心を抱えたまま、できる限りいつもの朝を演じることに専念した。
両親との朝の会話は、平静を装ってはいたものの、気を抜いたら泣いてしまいそうだった。
今日で世界が終わるんだよ。今まで育ててくれてありがとう。
そんなふうに口に出せたら、どんなにか楽だろうと思った。
けれど、どうせなにを馬鹿なことを言っているんだと一笑に付されるのがオチ。運が悪ければ、頭がおかしくなったかと病院に連れていかれるかもしれない。
さすがにそんなわけにはいかなかったので、私はいつものように朝食を食べ、歯磨きや身支度を済ませると、笑顔で家を出た。
「行ってきます」
そう明るく添えて。
いつものバス停には、すでに京が立っていた。私が近づいていくと、京は眼鏡を人差し指でひょいとあげる仕草をしながらこちらを見た。
「おはよう」
「おはよう」
自然と浮かぶ笑顔は安堵からだろうか。京もまた、今日が世界の終わりだというのが嘘のような笑顔をこちらに向けている。
「今回は目覚まし鳴ったみたいだな」
「まあね。前回あやうくバス乗り損ねそうになっちゃったから、しっかり電池まで確かめてセットしておいたから」
「すごいな。タイムリープがそんなところで役立つとは」
「こんな些細なことくらいしか、今回のことを役立てる知識がないのが悲しいところだけど」
私たちがそんな他愛もないことで笑い合っていると、やがて私たちの乗るバスが目の前に到着した。
学校に着くと、前回と同じように下駄箱で真由と出会った。
「おはよー。茜。水沢くん。相変わらず仲いいねー」
前も聞いた台詞とともにシャッター音が鳴り響く。私と京はそんな状況に、思わず顔を見合わせて含み笑いを堪えていた。
教室に入ってしばらくすると、朔が前回と同じように「あー、朝練疲れたー!」と言いながら現れた。
「朔、今日も部活行ってきたんだ?」
「おうよ。どんな状況でも部活はさぼらないのが俺のモットーなんだ」
「うん。いいことだよそれは。そんな朔にはご褒美のフリスクをあげよう」
そうして私は後ろの席にいる朔に、フリスクをケースごと渡した。どうせ全部食べられるのだ。今回は前もって渡すことにする。
「おお。サンキュー」
さっそくザラザラと口に大量のフリスクを入れる朔。ボリボリと咀嚼する姿は前回と同じだった。
「でもやっぱりフリスクじゃお腹は膨れねーな。他になんかない?」
「ないよ!」
「相変わらずいじきたないな」
京もまた聞き覚えのある台詞を口にした。
前回と同じ時の流れのなかにいる。私はなぜかそのことを強く感じながら、しかしなにかが確実に違っているような、そんな気がしてならなかった。
規則正しく、決められた時間に働く機械のけなげなほどの従順さが、今日ばかりは少しばかり恨めしく思える。
ゆっくりと気怠い体を起こし、目覚まし時計のアラームを止める。カーテンから漏れる光をじっと眺め、朝日が顔を出したことを実感する。
朝がやってきた。爽涼に過ぎるほどの空気を孕んで。芯から眠れたとはお世辞にも言えない夜を越え、私はついにその日を迎えていた。
今日で世界が終わる。
嘘みたいな話。でも、一度体験した私には、それを笑い飛ばすだけの自信がなかった。
「10月24日、月曜日……」
部屋に貼られたカレンダーに目をやる。前回も経験したはずの日付をまた繰り返すことの不条理さに、この数日で少しは慣れるかと思ったけれど、まったく慣れることはなかった。それどころか、日を重ねるごとにこの世界にいることの違和感は大きくなっていくばかりだった。
「今日で世界が終わる」
口に出して言ってみた。
まるきり現実感のない言葉。とってつけた台詞のよう。
けれど、時間を遡ったこの世界でも、再び前回のことが繰り返されるとしたら、それは嘘ではなく本当のこととなる。
考えれば考えるほどに恐ろしくなり、思考はつまらないループにはまり込んだように、悪いことばかりに満たされそうになっていた。
そして、どうしようもなくあの二人に会いたい気持ちになった。
朔。京。
彼らだけがこの不安な気持ちをわかってくれる理解者だった。
一緒に世界の終わりを体験し、そして同じ時を遡った。
早く会いたい。
私は焦る心を抱えたまま、できる限りいつもの朝を演じることに専念した。
両親との朝の会話は、平静を装ってはいたものの、気を抜いたら泣いてしまいそうだった。
今日で世界が終わるんだよ。今まで育ててくれてありがとう。
そんなふうに口に出せたら、どんなにか楽だろうと思った。
けれど、どうせなにを馬鹿なことを言っているんだと一笑に付されるのがオチ。運が悪ければ、頭がおかしくなったかと病院に連れていかれるかもしれない。
さすがにそんなわけにはいかなかったので、私はいつものように朝食を食べ、歯磨きや身支度を済ませると、笑顔で家を出た。
「行ってきます」
そう明るく添えて。
いつものバス停には、すでに京が立っていた。私が近づいていくと、京は眼鏡を人差し指でひょいとあげる仕草をしながらこちらを見た。
「おはよう」
「おはよう」
自然と浮かぶ笑顔は安堵からだろうか。京もまた、今日が世界の終わりだというのが嘘のような笑顔をこちらに向けている。
「今回は目覚まし鳴ったみたいだな」
「まあね。前回あやうくバス乗り損ねそうになっちゃったから、しっかり電池まで確かめてセットしておいたから」
「すごいな。タイムリープがそんなところで役立つとは」
「こんな些細なことくらいしか、今回のことを役立てる知識がないのが悲しいところだけど」
私たちがそんな他愛もないことで笑い合っていると、やがて私たちの乗るバスが目の前に到着した。
学校に着くと、前回と同じように下駄箱で真由と出会った。
「おはよー。茜。水沢くん。相変わらず仲いいねー」
前も聞いた台詞とともにシャッター音が鳴り響く。私と京はそんな状況に、思わず顔を見合わせて含み笑いを堪えていた。
教室に入ってしばらくすると、朔が前回と同じように「あー、朝練疲れたー!」と言いながら現れた。
「朔、今日も部活行ってきたんだ?」
「おうよ。どんな状況でも部活はさぼらないのが俺のモットーなんだ」
「うん。いいことだよそれは。そんな朔にはご褒美のフリスクをあげよう」
そうして私は後ろの席にいる朔に、フリスクをケースごと渡した。どうせ全部食べられるのだ。今回は前もって渡すことにする。
「おお。サンキュー」
さっそくザラザラと口に大量のフリスクを入れる朔。ボリボリと咀嚼する姿は前回と同じだった。
「でもやっぱりフリスクじゃお腹は膨れねーな。他になんかない?」
「ないよ!」
「相変わらずいじきたないな」
京もまた聞き覚えのある台詞を口にした。
前回と同じ時の流れのなかにいる。私はなぜかそのことを強く感じながら、しかしなにかが確実に違っているような、そんな気がしてならなかった。
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