僕たちは星空の夢をみる

美汐

文字の大きさ
8 / 64
Chapter.1 秋庭学園

7 校門前の並木道

しおりを挟む
 帰り道、三人並んで葉桜の続く校門前の並木道を歩いていた。歩く道には石畳が整然と敷かれ、美しい直線を作っていた。さわさわと葉と葉の擦れる音が、心地よかった。そんなさざめきを聞きながら、僕たちはゆっくりとした足取りで歩いていた。まるでその道のりを惜しむかのように。

「なんか気持ちのいい日だね」

 そういう沙耶ちゃんの表情には、朝に見たような陰りはもう見あたらなかった。僕はその表情を見てほっとした。

「本当だね。このまま帰るのがもったいないくらいだ」

 本心だった。できることなら、もっとこの時間が続いて欲しかった。

「同意だ。沙耶くんとこうしていられる時間は、なにより代え難い」

 沙耶ちゃんを挟んだ向こうから、美周が言った。ときどき美周のこうしたストレート過ぎる言動に面食らう。恥ずかしげもなく、こんなことを言ったりするのだ。それも沙耶ちゃんを目の前にして。しかし言われた当の本人は気づいていないのか、はたまた気にしていないのか、特別なんとも思っていないようなので安心する。

「お前って、よくそういうこと平気で言うよな」

「なにがだ」

「なにって……」

 こちらもなにも気にしていないようだ。天然という意味では、沙耶ちゃんも美周も似たもの同士のようである。

「そういえば小太郎ちゃん。部活決めたの?」

 沙耶ちゃんが、ふいにそんなことを言ってきた。

「ううん。まだだけど。沙耶ちゃんは?」

「わたしもまだ。……なんとなく気後れしちゃって」

「ああ。わかるよ。周りは持ちあがりで来てる人たちばかりだもんね。しかもほとんどがお金持ちだし。僕らってその中じゃ浮いた存在だろうしね」

「でも小太郎ちゃん、昔剣道やってたじゃない? 結構続けてたと思ったんだけど。やらないの?」

「いや。それはまあ、考えないでもないけど……」

 僕と沙耶ちゃんは、以前、家の近い幼なじみだった。小学校の五年生のときに沙耶ちゃんが引っ越してしまうまでは、よく一緒に帰ったりしたものだった。お互いを名前で呼び合っているのは、そのころからの習慣なのである。
 実のところ、高校生になってまで『ちゃん』付けで呼び合うのは、少々気恥ずかしさもある。しかし、沙耶ちゃんが今でも親しげにそう呼ぶのを、嬉しくも感じるのだった。
 二人揃って秋庭学園に入学することになろうとは、さすがに予想もしていなかったことだったが。

「剣道なら、僕もたしなむ程度ならやっていたぞ」そう口を挟んできたのは美周だった。

「えっ、そうなんだ! わあ、すごい。いいじゃない。二人の戦うとこ見たい!」

 沙耶ちゃんは美周の言葉を聞いた途端、はしゃいだ声を出した。

「え、駄目だよ。まだやるって決めたわけじゃないし」

「なんでー。小太郎ちゃんの剣道着姿見たかったのに」

「ここの道場もなかなかのものだぞ。体験入部くらいしてみたらどうだ」

「な、なんだよ。美周まで」

「そういえば、美周くんはこの学園長いからそういうのもくわしいんだよね。いいじゃない。小太郎ちゃんいろいろ教えてもらいなよ。剣道部じゃなくても、他にもいろんな部活あるんだし」

「えっ、こいつに?」

「なんだ。嫌なら僕は構わないぞ。沙耶くんだけに、懇切丁寧なレクチャーをしてあげよう」

 美周は僕や沙耶ちゃんとは違い、中等部からこの学園に通っている。だから、この学園のことにはかなり精通している。気にくわない相手だが、そういった意味ではかなり助けられていた。
 高等部から来た僕たちのような生徒は、この広大な学園の敷地ではまず迷う。そして普通の学校の仕組みとはかなり異なることもあって、始めのころは戸惑うことが多かった。そんなとき、美周がいろいろと教えてくれることがあって、実のところ助かっていたのだ。
 それが、沙耶ちゃんに近づくための親切だということはあからさまだったのだが。

「まあ、見るだけなら……」

「やった! じゃあさっそく見にいこ!」

「えっ、今から?」

「だって善は急げって言うじゃない。気の変わらないうちに!」

 沙耶ちゃんはそう言って、僕の手を引いた。思わず顔が紅潮する。沙耶ちゃんの手の柔らかさとぬくもりが、直に伝わってきた。走り出す沙耶ちゃんに引っ張られる形で、僕はそれに続いた。

「おい! 篠宮。その手を離せ!」

 美周の慌てた声が、後ろから聞こえていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...