僕たちは星空の夢をみる

美汐

文字の大きさ
23 / 64
Chapter.4 下見とハイキング

6 バスケットの中身

しおりを挟む
 合宿所まで戻ると、沙耶ちゃんが玄関の端っこに置いておいたバスケットを持ってきて言った。

「せっかくだから、どこかでお弁当食べよう。みんなのぶんも作ってきたから」

 そうではないかと薄々思ってはいたが、あのバスケットの中身は弁当だったのだ。しかも僕たちのぶんまであるとは。沙耶ちゃんの手作り弁当が食べられるとは、それだけでもここまで来た甲斐があったというものだ。

「沙耶くんのお弁当か! それは楽しみだ。じゃあ、そうだな。ちょっとまた歩くことになるが、展望台のあるところまで行ってみようか」

 美周も、これにはかなり嬉しそうだった。
 というわけで、僕たちは美周の案内のもと、展望台のあるところまで歩いていくことになった。距離としては、一時間もかからないくらいらしい。ちょうど着くころには昼食を食べるのにいい時間になっているはずだ。沙耶ちゃんのバスケットをいち早く僕が手にし、展望台まで持って歩くことになった。
 この辺りはハイキングコースとしても割と有名なところらしく、ゴールデンウィーク中ということもあって、旅行で来ているらしい人たちも多く見かけられた。確かに、歩くのにはとても気持ちがいい場所だった。遠くには山を臨み、歩く道の脇には高原の野草たちが可憐な花を咲かせている。

「ハイキング楽しいねー」

 沙耶ちゃんは、先程の川でのことが嘘のように楽しそうだった。足取りも軽やかで、今にもスキップをしそうなくらいだ。そんな様子を見て、とても安心した。予知夢のことばかり気にして、不安な気持ちばかり抱えて過ごす沙耶ちゃんを見たくはなかった。だが、この様子ならそんな心配は必要ないのかもしれない。
 展望台に到着すると、その美しい眺望に思わずため息が出た。見晴らしがよく、遠くの山々が折り重なるように稜線を重ねている様は、圧巻だった。

「景色いいね」

「うん。来た甲斐あったね」

 遠くの山々にはまだ残雪が白く残っていて、荘厳な美しさに心が打たれた。僕たちはしばらくその景色に見とれていた。
 そのうち、相田がからかうように言った。

「沙耶、やっほーとか叫んだら?」

 すると沙耶ちゃんは少し迷って、本当に「やっほー」と叫んだ。

「……こだましないね」

 沙耶ちゃんのその行動に、僕たちは笑いを押さえきれなかった。美周でさえも、くすくすと笑っている。

「な、なにみんなして笑ってるのっ」

「いや、ごめん。そんなつもりじゃないんだけど」

「沙耶ごめん。本当にやるとは思わなかった。てゆーか、あんた素直すぎ」

「沙耶くんは本当に可愛いな」

 そんなふうに言いながらも、みななおもくすくすと笑っていた。

「もうっ。みんなしてひどいよ!」

 沙耶ちゃんと美しい景色に癒されたひとときだった。
 相田は背負っていたリュックサックの中からレジャーシートを取り出し、適当な場所に広げた。なんとも用意のいいことだ。
 それから僕たちはその上に座り、いよいよ沙耶ちゃんの作ったお弁当をいただくことになった。

「そんな期待するほどのものじゃないからね」

 沙耶ちゃんはバスケットの蓋を開け、中から風呂敷の包みを取りだした。風呂敷を広げ、そこに入っていた二段になっているお重の蓋を開ける。

「わあ、おいしそうだね」

「おお、これは素晴らしい」

 中には唐揚げや卵焼きやおにぎりがぎっしりと詰まっていた。いろどりよくプチトマトやブロッコリーなんかも入っている。

「ホント普通でしょ。なんか恥ずかしいなー」

「いや、そんなことないよ。全然おいしそうだから」

「そうだな。むしろ、こういうのこそがいいんだ」

「そうそう。男子なんて見た目よりも、がっつり感があったほうが喜ぶもんなんだから」

 相田がそう言うと、沙耶ちゃんは照れたように笑った。

「そうかな。喜んでもらえたかな」

「もちろん!」

「もちろんだとも」

 僕と美周は口を揃えて言った。
 沙耶ちゃんの弁当はとてもおいしかった。唐揚げの味付けもしっかりしているし、卵焼きの焼き加減も絶妙だった。なかでもおにぎりは、沙耶ちゃんが一所懸命握ったものだと思うと、それだけで胸がいっぱいになってしまった。

「おいしいよー。沙耶」

「沙耶くんは天才だ」

「えへへ。朝四時に起きて頑張った甲斐あったよ」

「朝四時に起きてたの?」

「うん。だから結構寝不足気味だったりして」

 言いながら、沙耶ちゃんは自分の目元を擦った。そこまでして弁当を作ってくれていたことに、また感動した。これはしっかり味わっておかないと。

「また、どうせ夜も興奮して寝られなかったんでしょ」

「ん……うん。よくわかるね」

「ってあんたは小学生か!」

 相田は沙耶ちゃんをからかうのが楽しいらしい。確かにこの天然ぶりはたまらないものがある。
 そんなふうに楽しい昼食タイムを過ごした。自然に囲まれた中で味わう沙耶ちゃんの弁当は格別で、忘れられない思い出になりそうだった。
 食後、近くを散策し、それからまた合宿所まで戻っていった。

「さて、そろそろ帰ることにしようか」

 美周がそう言った。時間を見ると、そろそろ午後四時になろうとしている。次のバスがもうすぐ来るころだ。

「バスに乗り遅れると、次また一時間待つことになるからな」

 そう言うと、沙耶ちゃんが残念そうな顔をした。

「えー。もう帰る時間なんだ」

「帰りもまだ長いからね。早めに行かないと遅くなっちゃうよ」

「仕方ないね。もうちょっと遊びたかったけど」

 沙耶ちゃんは名残惜しそうに言った。行くと決まったときはどうかと思ったけれど、沙耶ちゃんにとって、この旅はなかなか楽しいものだったようだ。
 バス停に着き、しばらくするとバスがやってきた。僕たちがバスに乗り込むと、バスはすぐに動き出した。車窓から見える木々がどんどん後ろへと去っていく。それを見ると、やはり名残惜しさを感じた。
 楽しい旅の時間は終わり、現実の世界へと戻っていくのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...