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Chapter.7 夏合宿
7 先輩たちとの会話
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「あれ? 篠宮くんと、そっちは葉月さん? こんなところでなにしてるの?」
声をかけてきたのは、神谷先輩のほうだった。その後ろで佐々木先輩も立っている。
「あ、いや。喉が渇いたので、ちょっとジュースでも飲もうかと……」
僕の座っているベンチの後ろには、飲み物の自動販売機が二台並んでいた。言い訳としては穏当なものだろう。
「そう。わたしたちもちょっとなにか飲もうと思っていたところなの」
神谷先輩は、そう言って後ろの佐々木先輩に目配せをするようにした。佐々木先輩は、ちょっと照れくさそうに頷いている。ああ、これはもう、間違いなくこの二人はつきあっている。
「ちょっと恥ずかしいとこ見られちゃったかな」
神谷先輩は、もうばれていることを承知しているようだった。今更隠しても仕方ないと思っているのだろう。
「あのぅ。お二人はやっぱりそういうご関係で?」
相田がいきなりストレートに訊いた。
「あ、ええと、あなたは葉月さんと同室の子だったわよね」
「あ、不躾ですみません。相田ゆかりと言います。この二人とはクラスメイトで仲良くさせてもらってるんで」
相田は、にかりと歯を出して笑った。神谷先輩はそれを見ると、困ったように笑った。
「そう。わたしのことは知ってるかもしれないけど、この二人のいる剣道部の先輩。あなたの推察どおり、この佐々木くんとはおつきあいしてる仲なの」
なんと、本人からの決定的な告白。これでもう、二人が恋人同士であることは裏付けられた。
神谷先輩と佐々木先輩は、照れくさそうに顔を見合っていた。なんだかとてもお似合いじゃないか。すごく羨ましい。
「篠宮。お前先生には言うなよ。他のやつらはまあ、知っているだろうからあれだけど」
佐々木先輩は、部活中では見たこともないような表情をしていた。顔を赤くして、焦ったように額の汗を手でぬぐっている。
佐々木先輩は、剣道部では主将として、いつも厳しい顔をして稽古をしている。その姿は毅然として、強さと誇り高さを兼ね備えていた。
その先輩が、今はなんというかでれでれのふにゃふにゃなのだ。
あまりのそのギャップに、見てはいけないものを見てしまったような気持ちになって、僕は先輩に返事をすると視線を下に向けた。
「素敵ですね。先輩たちお似合いだと思います」
沙耶ちゃんは、無邪気にそう言った。そんなふうに気の利いた一言を僕も本当は言うべきなのだろうが、なぜかなにも浮かんではこなかった。
「ありがとう」
神谷先輩はそう言うと、自販機の前に立った。それに続くように、佐々木先輩も隣に立つ。やはり、そんな二人の姿はとても仲睦まじく見えた。とてもこのあと、修羅場を演じるようには思えなかった。
先輩たち二人は、自販機で買ったジュースを手にすると、正面のベンチに僕たちと向かい合うような形で座った。神谷先輩は、ジュースのプルタブを開けると、僕たちに話しかけてきた。
「どう? 調子は」
「はい。いいと思います」
「僕も……まあ、はい」
僕と沙耶ちゃんがそんなふうに答えると、神谷先輩はくすくすと笑った。
「ごめんごめん。言い方が大雑把すぎよね。たまには後輩とこんなふうにゆっくり話すのもいいかなとか思って。もうちょっと質問の仕方を変えてみるか。そうだな。剣道部入ってみてどう?」
「あ、はい! 楽しいです。先輩たちも優しいし」
沙耶ちゃんは、ぱっと笑顔になって言った。
「ありがとう。葉月さんは飲み込みも早いし、教えやすいわよ。まあ、これからもっと稽古していかないといけないけどね。新人戦に向けて頑張らないと。篠宮くんのほうはどんな感じ? まあ、どちらかというと女子は稽古の相手をしてもらってるって感じになってるかもしれないけど」
「いや、そんなことないですよ」
僕がそう言うと、佐々木先輩が口を挟むように言ってきた。
「こいつ、能ある鷹は爪を隠すを気取ってるんだよ」
「そうなの?」
「実力はあるのに、なかなかそれを見せないというか。肝心なところであっさり負けちゃったりするんだよな」
「えー。なんで?」
やはり佐々木先輩にはお見通しのようである。でも、決してわざと負けているとかそういうつもりはないのだ。
「もしかして、先輩相手に勝っちゃいけないとか思ってるわけじゃないよな? そうだったら本気で怒るぞ」
「いやその、そんなつもりは全然ないんですけど。なんかプレッシャーに弱いみたいで」
「そうか。まあ、新人戦までにその辺りは直しておかないとな。それよりも、だ。目下の最重要問題は、今のままじゃ団体戦に出られないってことだ」
佐々木先輩はそう言うと、うーんと唸りながら腕を組んだ。そうなのだ。三年の先輩たちが引退してしまった今、剣道部の部員は男子が四名、女子が三名。団体戦は五人で戦うのが普通なので、男子部はあと一人足りないことになる。女子部員もあと二人欲しいところだが、女子はここ何年も団体戦は出ないのが当たり前のようになっているようで、男子部ほど団体戦にこだわってはいないようである。
「誰か心当たりとかないか? 剣道部に入ってくれそうな人材」
「いやぁ。ちょっとわからないですけど」
僕が愛想笑いを浮かべながらそう話していると、突然沙耶ちゃんが、「あっ」と声を出した。
「ね。小太郎ちゃん。そういえば美周くんもちょっとだけ剣道やってたって言ってたよね」
「え? ああ……」
まさかここで美周の名前が出てくるとは思わなかった。
「ん? 誰か心当たりでもあるのか?」
「え? いえ、でも美周は……」
「僕がどうかしたか?」
横からぬっと影が現れ、心臓が飛び出そうに驚いた。なんと噂をすれば、美周本人の登場である。その後ろには、幸彦の姿もあった。
声をかけてきたのは、神谷先輩のほうだった。その後ろで佐々木先輩も立っている。
「あ、いや。喉が渇いたので、ちょっとジュースでも飲もうかと……」
僕の座っているベンチの後ろには、飲み物の自動販売機が二台並んでいた。言い訳としては穏当なものだろう。
「そう。わたしたちもちょっとなにか飲もうと思っていたところなの」
神谷先輩は、そう言って後ろの佐々木先輩に目配せをするようにした。佐々木先輩は、ちょっと照れくさそうに頷いている。ああ、これはもう、間違いなくこの二人はつきあっている。
「ちょっと恥ずかしいとこ見られちゃったかな」
神谷先輩は、もうばれていることを承知しているようだった。今更隠しても仕方ないと思っているのだろう。
「あのぅ。お二人はやっぱりそういうご関係で?」
相田がいきなりストレートに訊いた。
「あ、ええと、あなたは葉月さんと同室の子だったわよね」
「あ、不躾ですみません。相田ゆかりと言います。この二人とはクラスメイトで仲良くさせてもらってるんで」
相田は、にかりと歯を出して笑った。神谷先輩はそれを見ると、困ったように笑った。
「そう。わたしのことは知ってるかもしれないけど、この二人のいる剣道部の先輩。あなたの推察どおり、この佐々木くんとはおつきあいしてる仲なの」
なんと、本人からの決定的な告白。これでもう、二人が恋人同士であることは裏付けられた。
神谷先輩と佐々木先輩は、照れくさそうに顔を見合っていた。なんだかとてもお似合いじゃないか。すごく羨ましい。
「篠宮。お前先生には言うなよ。他のやつらはまあ、知っているだろうからあれだけど」
佐々木先輩は、部活中では見たこともないような表情をしていた。顔を赤くして、焦ったように額の汗を手でぬぐっている。
佐々木先輩は、剣道部では主将として、いつも厳しい顔をして稽古をしている。その姿は毅然として、強さと誇り高さを兼ね備えていた。
その先輩が、今はなんというかでれでれのふにゃふにゃなのだ。
あまりのそのギャップに、見てはいけないものを見てしまったような気持ちになって、僕は先輩に返事をすると視線を下に向けた。
「素敵ですね。先輩たちお似合いだと思います」
沙耶ちゃんは、無邪気にそう言った。そんなふうに気の利いた一言を僕も本当は言うべきなのだろうが、なぜかなにも浮かんではこなかった。
「ありがとう」
神谷先輩はそう言うと、自販機の前に立った。それに続くように、佐々木先輩も隣に立つ。やはり、そんな二人の姿はとても仲睦まじく見えた。とてもこのあと、修羅場を演じるようには思えなかった。
先輩たち二人は、自販機で買ったジュースを手にすると、正面のベンチに僕たちと向かい合うような形で座った。神谷先輩は、ジュースのプルタブを開けると、僕たちに話しかけてきた。
「どう? 調子は」
「はい。いいと思います」
「僕も……まあ、はい」
僕と沙耶ちゃんがそんなふうに答えると、神谷先輩はくすくすと笑った。
「ごめんごめん。言い方が大雑把すぎよね。たまには後輩とこんなふうにゆっくり話すのもいいかなとか思って。もうちょっと質問の仕方を変えてみるか。そうだな。剣道部入ってみてどう?」
「あ、はい! 楽しいです。先輩たちも優しいし」
沙耶ちゃんは、ぱっと笑顔になって言った。
「ありがとう。葉月さんは飲み込みも早いし、教えやすいわよ。まあ、これからもっと稽古していかないといけないけどね。新人戦に向けて頑張らないと。篠宮くんのほうはどんな感じ? まあ、どちらかというと女子は稽古の相手をしてもらってるって感じになってるかもしれないけど」
「いや、そんなことないですよ」
僕がそう言うと、佐々木先輩が口を挟むように言ってきた。
「こいつ、能ある鷹は爪を隠すを気取ってるんだよ」
「そうなの?」
「実力はあるのに、なかなかそれを見せないというか。肝心なところであっさり負けちゃったりするんだよな」
「えー。なんで?」
やはり佐々木先輩にはお見通しのようである。でも、決してわざと負けているとかそういうつもりはないのだ。
「もしかして、先輩相手に勝っちゃいけないとか思ってるわけじゃないよな? そうだったら本気で怒るぞ」
「いやその、そんなつもりは全然ないんですけど。なんかプレッシャーに弱いみたいで」
「そうか。まあ、新人戦までにその辺りは直しておかないとな。それよりも、だ。目下の最重要問題は、今のままじゃ団体戦に出られないってことだ」
佐々木先輩はそう言うと、うーんと唸りながら腕を組んだ。そうなのだ。三年の先輩たちが引退してしまった今、剣道部の部員は男子が四名、女子が三名。団体戦は五人で戦うのが普通なので、男子部はあと一人足りないことになる。女子部員もあと二人欲しいところだが、女子はここ何年も団体戦は出ないのが当たり前のようになっているようで、男子部ほど団体戦にこだわってはいないようである。
「誰か心当たりとかないか? 剣道部に入ってくれそうな人材」
「いやぁ。ちょっとわからないですけど」
僕が愛想笑いを浮かべながらそう話していると、突然沙耶ちゃんが、「あっ」と声を出した。
「ね。小太郎ちゃん。そういえば美周くんもちょっとだけ剣道やってたって言ってたよね」
「え? ああ……」
まさかここで美周の名前が出てくるとは思わなかった。
「ん? 誰か心当たりでもあるのか?」
「え? いえ、でも美周は……」
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