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Chapter.8 夜の喧噪
4 膨大な宇宙の小さな一粒の光
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さっき先輩たちが走っていったほうへと向かう。目の前には合宿所の壁があり、窓が規則正しく並んでいた。その中の一階の窓のひとつが開いていて、そこから小さく誰かの頭が見えていた。
「沙耶ちゃん」
窓のそばに行き、声をかけると、俯いていた頭が持ちあがった。
「え……。小太郎……ちゃん?」
窓から少し離れたところには外灯があった。その外灯の光に照らされた沙耶ちゃんの顔には、一筋の涙のあとがあった。ずきりと、胸が痛む。こんなとき、なにを言えばいいのだろう。どうすれば、沙耶ちゃんの哀しみを癒せるのだろう。
「なんでここに?」
沙耶ちゃんは慌てて涙をぬぐっていた。
「佐々木先輩のあとをつけてきたんだ」
「そっか……」沙耶ちゃんはそうつぶやくと、再び俯いた。「やっぱり本当になっちゃったね。先輩たち、あんなに仲良さそうだったのに……」
「別に沙耶ちゃんのせいじゃないよ。これは起こるべくして起きたことなんだから、気にすることないよ」
「そう……だね」
駄目だ。こんなんじゃ駄目だ。もっとなにか気の利いたことを言わないと。乱れる心を落ち着かせようと、僕は天を仰ぎ見た。するとそこには、細かな宝石を散りばめたような美しい星空が、頭上いっぱいに広がっていた。
ああ、そうだ。僕はこんなとき、いつも空を見あげていた。なぜなのか、自分でもよくわからなかったけれど、今少しだけわかったような気がする。
「沙耶ちゃん。空見て。星がとてもきれいだよ」
沙耶ちゃんは僕がそう言うと、顔をあげた。その瞳には、宇宙が映し出されていた。きらめく星々の輝きが、その瞳の奥に宿っていく。
「きれいだね」
沙耶ちゃんがそうつぶやく。僕も再び頭上に広がる星空を見あげた。何度となく見あげてきた星空は、やはり今日も美しい。その光景に、目が染みる。
「ねえ、小太郎ちゃん。お願いがあるの」
なぜ沙耶ちゃんがそんなことを言い出したのか。そのときの僕にはわからなかった。
「わたしを置いてどこかへ行っちゃわないでね。遠いところへ、行ってしまわないでね」
沙耶ちゃんは星空を見あげたまま、少し哀しげにそう言った。それはどういう意味なのだろう。どうしてそんな、哀しそうな顔で言うのだろう。僕はなんだか切ないような気持ちになって、ただうんと小さく口にすることしかできなかった。
哀しみは、小さな光になって空へとのぼる。それは膨大な宇宙の小さなひと粒の光だ。それでもそれは、いつだってそこにあり、いつだって美しく瞬いている。
「本当にきれいだ」
僕は夜の星空を見あげると、いつも泣きそうになる。あまりにも広大で、あまりにも遠くて、あまりにも美しすぎて。自分もその一部なのだと思うと、ちっぽけな自分がとても馬鹿らしく、そして愛おしく思えた。
沙耶ちゃん。僕たちはこの宇宙の中で、こうしてここにいるんだ。だから、ひとりぼっちだなんて思わないで。どうか、哀しまないで。
沙耶ちゃんの顔を見ると、その横顔は、まっすぐに空を見あげていた。その表情は、なんだかとても神秘的で、きれいだった。こうして二人で星空を見あげていることが、とても不思議だった。この広い宇宙の中で、同じ場所で同じ星空を眺めている。
きっと今夜のこの星空を、僕は忘れることがないだろう。この美しさを忘れることはないだろう。
「沙耶ちゃん」
窓のそばに行き、声をかけると、俯いていた頭が持ちあがった。
「え……。小太郎……ちゃん?」
窓から少し離れたところには外灯があった。その外灯の光に照らされた沙耶ちゃんの顔には、一筋の涙のあとがあった。ずきりと、胸が痛む。こんなとき、なにを言えばいいのだろう。どうすれば、沙耶ちゃんの哀しみを癒せるのだろう。
「なんでここに?」
沙耶ちゃんは慌てて涙をぬぐっていた。
「佐々木先輩のあとをつけてきたんだ」
「そっか……」沙耶ちゃんはそうつぶやくと、再び俯いた。「やっぱり本当になっちゃったね。先輩たち、あんなに仲良さそうだったのに……」
「別に沙耶ちゃんのせいじゃないよ。これは起こるべくして起きたことなんだから、気にすることないよ」
「そう……だね」
駄目だ。こんなんじゃ駄目だ。もっとなにか気の利いたことを言わないと。乱れる心を落ち着かせようと、僕は天を仰ぎ見た。するとそこには、細かな宝石を散りばめたような美しい星空が、頭上いっぱいに広がっていた。
ああ、そうだ。僕はこんなとき、いつも空を見あげていた。なぜなのか、自分でもよくわからなかったけれど、今少しだけわかったような気がする。
「沙耶ちゃん。空見て。星がとてもきれいだよ」
沙耶ちゃんは僕がそう言うと、顔をあげた。その瞳には、宇宙が映し出されていた。きらめく星々の輝きが、その瞳の奥に宿っていく。
「きれいだね」
沙耶ちゃんがそうつぶやく。僕も再び頭上に広がる星空を見あげた。何度となく見あげてきた星空は、やはり今日も美しい。その光景に、目が染みる。
「ねえ、小太郎ちゃん。お願いがあるの」
なぜ沙耶ちゃんがそんなことを言い出したのか。そのときの僕にはわからなかった。
「わたしを置いてどこかへ行っちゃわないでね。遠いところへ、行ってしまわないでね」
沙耶ちゃんは星空を見あげたまま、少し哀しげにそう言った。それはどういう意味なのだろう。どうしてそんな、哀しそうな顔で言うのだろう。僕はなんだか切ないような気持ちになって、ただうんと小さく口にすることしかできなかった。
哀しみは、小さな光になって空へとのぼる。それは膨大な宇宙の小さなひと粒の光だ。それでもそれは、いつだってそこにあり、いつだって美しく瞬いている。
「本当にきれいだ」
僕は夜の星空を見あげると、いつも泣きそうになる。あまりにも広大で、あまりにも遠くて、あまりにも美しすぎて。自分もその一部なのだと思うと、ちっぽけな自分がとても馬鹿らしく、そして愛おしく思えた。
沙耶ちゃん。僕たちはこの宇宙の中で、こうしてここにいるんだ。だから、ひとりぼっちだなんて思わないで。どうか、哀しまないで。
沙耶ちゃんの顔を見ると、その横顔は、まっすぐに空を見あげていた。その表情は、なんだかとても神秘的で、きれいだった。こうして二人で星空を見あげていることが、とても不思議だった。この広い宇宙の中で、同じ場所で同じ星空を眺めている。
きっと今夜のこの星空を、僕は忘れることがないだろう。この美しさを忘れることはないだろう。
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