僕たちは星空の夢をみる

美汐

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Chapter.10 行くべきところ

3 星空の夢

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 父さんと家に帰り、父さんは着替えるために寝室へと向かっていった。僕は居間に残り、少しの間佇んでいた。続きの和室に足を踏み入れると、ずっと閉じたままだった仏壇の扉が開けてあり、その下の台の上には、伏せてあったはずの写真立てが立て直されて置いてあった。父さんが直しておいてくれたのだろう。

「ごめんね、母さん」

 僕がそう言うと、母さんが横に来てくれた。

「長い間引き留めてしまったね。でも、僕はもう大丈夫だから」

 母さんは優しく微笑んでくれた。大好きなその笑顔を胸の奥に刻みつけておく。

「だからもう、母さんは母さんの行くべきところへ行ってもいいよ。今まで、本当にありがとう」

 僕はそう言うと、写真の中の母さんに向き直り、その前で目を閉じ、手を合わせた。
 これが僕にとっての、本当の母さんとの最期の別れだ。母さんはもういなくなるけれど、母さんの記憶は僕の胸に生き続ける。

 再び目を開くと、もうそこに母さんの姿はいなくなっていた。切ないような苦しさが喉の奥にこみあげてきて、我慢していた嗚咽が漏れた。
 母さんは、最期の最期に僕の耳元に声を残していった。

 ――愛してる、と。





 その夜、夢を見た。
 星空の中を、僕は漂っていた。
 それはとても気持ちがよくて、まるで母親の胎内にいるような心地だった。
 周りには無数の星たちが、それぞれの色合いで光輝いていた。強く、弱く。眩しく、柔らかく。
 たゆたっていく僕の頭上の遙か彼方に、それは見えた。その星は始めはとても儚げに思えた。けれど、だんだんそれは力強くなり、強烈な美しさを放つようになっていった。

 ああ。あれはきっと、沙耶ちゃんだ。
 なぜか僕はそんなふうに思い、その光の先へと手を伸ばした。
 届いたか届かなかったかわからない。そこで夢から覚めた。

 しばらくそのまま動かずに、僕は天井をじっと見つめていた。それからゆっくりとベッドから起きあがって、部屋のカーテンを開けに行った。
 なんだろうこの感じ。胸に広がるのは、なんとも言えない心地よさ。
 これは、さっき見た夢のせいか。

 朝の光を見つめながら、僕はそんなふうに思った。
 小鳥の鳴き声と明るい日差し。遠くへ突き抜けるような青い空。窓の外を眺めながら、世界がいつになく美しいと感じた。
 僕は空の彼方に思いを馳せる。沙耶ちゃんと、会えたかもしれない夢の出来事に思いを馳せる。

 不思議な夢だ。だけど、なんだかとても幸せな夢だった。夢を見て、こんなふうに思うことは初めての経験だった。
 思わず僕は願った。もう一度、そんな夢を見てみたい。もう一度、あの星空の海に身を浮かべてみたい。

 沙耶ちゃんも、夢を見てこんなふうに思ったことはあるのだろうか。
 そうだったらいい。夢を見て、幸せだと感じていてほしい。目が覚めて、幸せな気分で朝が迎えられるといい。そんな経験が、ひとつでもあれば、夢を見ることなんか怖くはない。
 もう一度、空の彼方に願いを送る。

 どうか沙耶ちゃんにもあの夢を。
 あの、幸せな星空の夢を。
 青空の向こうに広がる星空に、僕はそう願った。

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