王立魔導研究所は今日も平和です❤︎

一花カナウ

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私と室長

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 第五研究室は王宮内にある植物園の隣に建てられている。他の研究室と比べたら王立魔導研究所の宿舎からは距離があるのだが、私はこの通勤を楽しんでいる。なぜなら、ただの伯爵令嬢の立場では見ることができない植物をこの目で見ることができるからだ。小さい頃に書物で見ていたものが現実にあるのを知れるのはとても嬉しい。季節が変われば目に映る植物も変化するので、全く飽きることがなかった。
 研究室の部屋の鍵を開けて中に入った私は、真っ先に彼の姿を探す。
 アナスタージウス室長はこの研究室で寝起きしている。私が助手になってから一度も帰宅したところを見ていない。
 他の人の話だと、宿舎に室長用の部屋はあるそうだが、中は本で埋め尽くされて生活できるような場所ではないとのこと。また、アナスタージウス室長は公爵家の人であり、帰れる家も王都内にはあるとの話だが、最近は寄ってもいないらしかった。

「ああ、フィルギニア君、おはよう。よく眠れているかい?」

 部屋の奥にある流しのそばにアナスタージウス室長はいた。木製のカップに薬湯を注いでいるところだ。
 こちらを見た彼の顔は寝起きそのもので、全体的にボサボサとしている。それでも気品を損なわないどころか色気が漂ってくるのだから、公爵家の人間として育ってきた部分が彼の根底にあるのだろう。

 ほんと、色気がすごい……

 あんな夢を見てしまったせいもあって、目を合わせるだけでドキドキしてしまう。ここで押し倒されてもウェルカムな気分。大人の余裕もあって、がっついてくる気配がしないのも好感が持てる。

 抱いてくれないかな……室長的には、年が離れすぎていてそういう相手として見えないかもしれないけど……

 アナスタージウス室長は三十八歳だという。婚姻歴は一度もなく、若かりし頃は一応婚約者がいたそうだが逃げられたとのこと。研究熱心の変わり者だと有名で、その当時から植物にしか興味を示さず、そのまま植物と結婚してしまえとばかりに研究所職員にさせられたのだと、他の室長から聞いた。

「ん? フィルギニア君? ぼんやりしているようだが、大丈夫かい?」

 私がアナスタージウス室長をじっと見つめたままでいると、彼は心配そうな顔をした。

「よく考えたら、君は休暇を取っていないんじゃないか? 僕は研究以外することがないから休みなんていらないけれど、君はそういうわけにもいかないよねえ」
「あ、いえ! よく眠れていますし、何の問題もありませんわ」

 休みなんてごめんである。今の私は毎日彼の顔を見ることが生きがいなのだ。休暇なんて取ったら、発狂してしまう。
 それに、今は実家に帰りたくない。
 家を出てからは手紙で近況を報告しているが、未だに私をどこぞに嫁がせたくて仕方がないらしく、文面にそういう気持ちが滲んでいるのが気持ちが悪い。私はアナスタージウス室長以外に触れられたくないので、結婚は嫌である。落ち着くまでは実家には寄らないと覚悟を決めていた。
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