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現在、訳アリ結婚中

4.この任務、もうウンザリなんですが。

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「あのぉ、ルビさん……もうこの仕事辞めたいんですけど」
「へえ……やっと俺と一緒に独立する気になったのか?」
「そうじゃなくて」

 喋りながら手慣れた手続きを終え、次の担当に情報をぶん投げる。これで私の仕事は完了だ。協会に戻って次の調査の準備に入る――のだが、最近の仕事内容に私は辟易していた。
 ルビの作業も終わったらしい。私と向き直り、不思議そうな顔をする。

「なんだ?」
「あなた、よく耐えられますよねえ。鉱物人形との婚姻制度が出来てから、ますます増えてるじゃないですか、これ系の仕事! とりわけルビは気持ちがいいだの、抱かれたい鉱物人形ナンバーワンだの、試しに抱かれてみればいいのにだの、毎度毎度どうして聞かされなきゃいけないんですかっ!」

 いつもそうなのだ。
 ルビと組んで調査をする女精霊使いたちは、こぞって同位体であるルビとの性体験を自慢する。私の相棒が関係を持ったわけじゃないにしても聞いていて気分がいいものではない。
 その上で相棒をベッドに誘おうとしてくるのも面白くない。私のものを取られそうだから嫌だというわけでなく、性的な目でパートナーを見られたこと自体が気持ち悪い。ゾッとする。仕事仲間をそういう目で見てほしくない、少なくとも自分が見ているところでは。

「――生娘だと聞くに耐えないのかもしれないが、概ね事実だからな……」

 ルビは面倒臭そうにため息をついた。

 ――事実……どの辺りが?

 詳細を聞き出したい気持ちがふっと湧いたが、知ってしまったらよろしくない気配を察して口をつぐむ。

「それに、だ。こういった仕事が増えたのは、手遅れになる前に救えるようになったからにすぎない。これまでは感知することができないばかりに放置され、魔物に成り果てていたんだ。婚姻制度を設立したのは協会の慈悲というものだろう?」
「信憑性が薄い……」
「なんだ、複数の鉱物人形に身体を許すようなふしだらな精霊使いは救う価値なしか?」
「そういうつもりはないですけど」

 私は左手の薬指に嵌められたリングを指先でくるくるとまわす。
 この指輪は私と目の前にいるルビとの間で成立している契約の指輪だ。協会が新設した婚姻制度の証である。

「俺たちへの仕事は増えただろうが、救われた命が増えているのも事実。資料には目を通しているんじゃなかったのか?」
「数字だけならいくらでもいじれるじゃない」
「だったら、俺たちが最前線の現場で目にしている通りだな」
「…………」

 転送の準備が始まる。

「――おっと、おふたりさん、今日もなかよく夫婦でお仕事か?」

 同じ部署のオパールが転送装置から飛び出してきた。白を基調とした衣装に虹色の光が混じる様はいつ見ても美しい。

「ああ、オパールさんが引き継ぎなんですね。あとはお任せします。鉱物人形たちは原石に戻してあるので、回収をお願いします」
「おう、任せな」

 いつものようにオパールとハイタッチをする。オパールはルビと組むまで長いこと一緒に仕事をしてきた同僚なのだ。

「戻るぞ」
「はい」

 私はルビに促されるまま、転送装置で協会の施設に戻る。

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