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私の隠し事、彼の秘め事
26.帰りたいと思える家は新婚の部屋
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* * * * *
またあの夢だ。
戦場で、ルビに魔力供給をする夢。
なんであんな夢を見るのだろう。その原因が、自分が失った記憶にあるのだとしたら。
いや、そもそもどうして記憶がないのだろう。記憶操作の術があるのだろうか。洗脳するようなものはあっても、記憶操作とまでいえるかどうか怪しい気はする。
そうなると心因性のもの、か。
強いショックが原因だったとして、人の生き死ににさえ鈍感な私が記憶を失うほど衝撃を受けることがなんなのかよくわからない。
一体何があったのだろう。
その答えを、私の伴侶であるルビは知っている気がする。
帰宅した。事件が起きてから三日が経っていた。
無事に、と言えるのかよくわからないけれど、自宅に戻れてとてもホッとした。ここは私の家なのだな、と思う。実家でもなく、一年前まで住んでいた独身寮でもなく、ここが紛れもなく私の家だ。
玄関の鍵をかけるなり私は大きく伸びをした。
「お疲れ」
「ルビさんもお疲れ様でした。特別休暇ももらえたし、少しゆっくりしましょう」
「そうだな」
ルビは短く答えて、肩を鳴らす。それなりに疲れがたまっているようだ。
「あの……一緒にお風呂、入ります?」
「誘いなら、乗る」
「誘いといいますか、体調管理の一環ですよ。身体を診ておいた方がよさそうな気がして」
長時間の激しい戦闘の後に思いがけず長旅になった。鉱物人形も疲労するはずだ。
私が真面目に答えると、ルビは苦笑した。
「そういう話だろうな、とは思ってはいたが――」
不意に私の顔に手を伸ばし、顎を持ち上げてきた。
――なんの真似だろう?
急に誘惑するような表情を浮かべてくる。ふだんは消しているらしい色気が漂ってきたような。
――これは、よそのルビがする表情に似てるな?
こういう顔も彼はできたんだな、なんて観察してしまう。美形がやると決まるなあなんてのんきなことを考えていたら、ルビが口を開いた。
「今、君がほしいと思った」
「魔力が、の間違いではなく?」
顎を固定されているので首を傾げることはできず、目を瞬かせる。
何を言っているんだ、の気持ちだ。過労だろうか。酷使したなあとは思っていたが。
「まあ、俺が君にこだわるのは、その魔力に惹かれているからだろうし、否定はできない」
「じゃあ、魔力供給の口づけくらいならしてもいいですよ?」
回復が必要であっても、オパールの護送中だったので控えていた。オパールがいちいちからかってくるのが面倒だったのだ。
「その提案は嬉しいが、わりと君が乱れる姿を見たいと思っている」
ふっと笑う。見慣れない顔。
でも、この熱っぽい視線を私は知っている。彼の赤い瞳に情慾の炎が宿るのがわかった。
「ルビさん、性欲、ちゃんとあったんですねえ」
「襲われそうになってるのに、ずいぶんと悠長な態度だな。嫌なんだろ、そういう目で見られることも」
「他人からそう見られるのは嫌ですけど、ルビさんは伴侶ですし、嫌じゃないので」
素直に思ったままを答えると、ルビが戸惑うように目を瞬かせた。
「……嫌じゃないのか」
驚くところ、そこだったのか。
またあの夢だ。
戦場で、ルビに魔力供給をする夢。
なんであんな夢を見るのだろう。その原因が、自分が失った記憶にあるのだとしたら。
いや、そもそもどうして記憶がないのだろう。記憶操作の術があるのだろうか。洗脳するようなものはあっても、記憶操作とまでいえるかどうか怪しい気はする。
そうなると心因性のもの、か。
強いショックが原因だったとして、人の生き死ににさえ鈍感な私が記憶を失うほど衝撃を受けることがなんなのかよくわからない。
一体何があったのだろう。
その答えを、私の伴侶であるルビは知っている気がする。
帰宅した。事件が起きてから三日が経っていた。
無事に、と言えるのかよくわからないけれど、自宅に戻れてとてもホッとした。ここは私の家なのだな、と思う。実家でもなく、一年前まで住んでいた独身寮でもなく、ここが紛れもなく私の家だ。
玄関の鍵をかけるなり私は大きく伸びをした。
「お疲れ」
「ルビさんもお疲れ様でした。特別休暇ももらえたし、少しゆっくりしましょう」
「そうだな」
ルビは短く答えて、肩を鳴らす。それなりに疲れがたまっているようだ。
「あの……一緒にお風呂、入ります?」
「誘いなら、乗る」
「誘いといいますか、体調管理の一環ですよ。身体を診ておいた方がよさそうな気がして」
長時間の激しい戦闘の後に思いがけず長旅になった。鉱物人形も疲労するはずだ。
私が真面目に答えると、ルビは苦笑した。
「そういう話だろうな、とは思ってはいたが――」
不意に私の顔に手を伸ばし、顎を持ち上げてきた。
――なんの真似だろう?
急に誘惑するような表情を浮かべてくる。ふだんは消しているらしい色気が漂ってきたような。
――これは、よそのルビがする表情に似てるな?
こういう顔も彼はできたんだな、なんて観察してしまう。美形がやると決まるなあなんてのんきなことを考えていたら、ルビが口を開いた。
「今、君がほしいと思った」
「魔力が、の間違いではなく?」
顎を固定されているので首を傾げることはできず、目を瞬かせる。
何を言っているんだ、の気持ちだ。過労だろうか。酷使したなあとは思っていたが。
「まあ、俺が君にこだわるのは、その魔力に惹かれているからだろうし、否定はできない」
「じゃあ、魔力供給の口づけくらいならしてもいいですよ?」
回復が必要であっても、オパールの護送中だったので控えていた。オパールがいちいちからかってくるのが面倒だったのだ。
「その提案は嬉しいが、わりと君が乱れる姿を見たいと思っている」
ふっと笑う。見慣れない顔。
でも、この熱っぽい視線を私は知っている。彼の赤い瞳に情慾の炎が宿るのがわかった。
「ルビさん、性欲、ちゃんとあったんですねえ」
「襲われそうになってるのに、ずいぶんと悠長な態度だな。嫌なんだろ、そういう目で見られることも」
「他人からそう見られるのは嫌ですけど、ルビさんは伴侶ですし、嫌じゃないので」
素直に思ったままを答えると、ルビが戸惑うように目を瞬かせた。
「……嫌じゃないのか」
驚くところ、そこだったのか。
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