醒めない夢に悪魔の口づけを

一花カナウ

文字の大きさ
4 / 7
契約は優しい口づけで

ここから私を連れ出して

しおりを挟む
 昼食が終わり、看護師が膳を下げにやってくる時間だ。
 聖人まさとはいつものように菫の部屋に入り、トレイに乗せられた皿を運ぶ。今日は彼女の誕生日であるため、決められたメニューのほかにケーキがつけられていた。どの皿も空っぽになっており、体調は優れているらしいことが窺える。

「スミレちゃん?」

 普段なら皿を下げたら部屋を出て行ってしまうのに、部屋に戻った聖人は横になっていた少女に声を掛けた。

「……なんでしょうか?」

 慣れていた対応と違うことに驚いたらしく、スミレは目を丸くしている。

「誕生日プレゼントとして、外に連れて行ってあげますよ」
「え? 部屋から出られるんですか?」

 目を輝かせ、スミレは上体を起こした。体中から伸びる様々な管が揺れる。

「長い時間の外出は無理ですけどね。どこか行きたい所はありますか?」

 聖人の問いにスミレはくすっと笑う。その様子に聖人は首をかしげた。

「何か?」
「いえ。夢の通りのものですから、なんだか可笑しくって。願えば叶うものなんですね」
「そうですよ。強く願っていれば、大抵のことは叶います」
「じゃあ、私の身体が治らないのは、思いが弱いから、ですかね?」

 自嘲気味に笑うスミレに、聖人は首を横に振った。

「いえ、そうではありませんよ」
「どうしてですか? 私、早く身体を良くして、お姉ちゃんを自由にさせてあげたいって、ずっと願っていたんですよ?」
「…………」

 口を噤んで困ったような表情を浮かべる聖人に、スミレは柔らかな微笑みを取り戻して無邪気に告げた。

天守あまもりさん。どこでも良いですから私を連れ出してください。そして一つ、お願いを聞いてくださいませんか?」
「お願い、ですか?」

 同じ顔をしたアヤメのそれとは違う様子に、聖人は正直戸惑っていた。その気持ちの動きが妙に上ずった声となって現れる。

「はい。大したお願いじゃないんですけどね、お姉ちゃんにもプレゼントをあげたくて。協力してくださいませんか?」
「えぇ、そういうことでしたら」

 そして、聖人はスミレを抱えて病室を出たのだった。

 * * * * *
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...