多重世界シンドローム

一花カナウ

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元カノの死因

待ち伏せた相手は

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 多種多様なビニルの花が咲き乱れる。そのいずれもが雨に濡れ、きらきらと街灯の光を反射させる。

 世継学園高等部の校門で、あやめは行き交う傘を眺めていた。お気に入りの黒い傘を差し、ある人物がやってくるのを待っているのだ。

(彼の行動は調査の対象外でしたから、こうするしかありませぬ)

 夏が去ったばかりとはいえ、夕方でしかも雨が降っているとなるとだいぶ肌寒い。あやめはいつまで待っていれば会えるだろうかと学校の中を覗く。

「――おや? あなたは確か、貴家さんのカノジョさんじゃありませんか?」

 視線の先に見覚えのある少年がいた。世継学園高等部の制服である紺色のブレザーを崩さずに着ている彼は、あやめに気付いて手を振った。

「あぁ、井上さま」

「うわぁ、僕にまで『さま』付けですか。貴家さんから聞いていたけど本当なんだね」

 苦笑を浮かべて、井上はあやめのそばまで来ると立ち止まる。

「なになに? 下校中にデートですか? そう歳が変わらないでしょうに、あなたも余裕があるのですね」

 冷やかしと嫌味の混じる台詞。

「いえ、違います」

 あからさまであるので、さすがにあやめでもその意図はくみ取れた。笑顔を崩すことなくきっぱりと答える。

「照れなくてもいいんですよ。貴家さんを思いっきり誘惑して、成績を庶民レベルまで引き下げてくださいよ。そんで、遊んでいたことを悔やめばいい」

 おっとりとした口調からだんだんと早口に変わる。暗い感情が詰まった笑みを浮かべて言う井上に、あやめは首を横に振った。

「ですから、違うのです」

「?」

「ワタシがお待ちしていたのはあなた様なのです。井上さま」

 あやめが告げると、井上は目をぱちくりさせた。よほど意外だったのだろう。口を開きかけ、閉じたあとは黙っている。

 あやめは続ける。

「お聞きしたいことがありまして、訪ねたのです。お時間はありますでしょうか?」

 貴家から井上が彼と同じ世継学園に通っていることは聞いていた。だから校門で待っていればきっと会えるだろうと考えたのだ。他の情報を得られなかったので、ここで待ち伏せするしかなかったというのももちろんあるが。

「……え? 今日、これから?」

「はい。それほどお時間はいただきませぬ」

 井上がなんと答えるか不安になりながら、あやめはじっと彼の顔を見つめた。

「ってか、二人っきりはまずくないの? 仮にも貴家さんと付き合っているんじゃないの?」

 困ることでもあるのだろうか。井上はあやめから視線を外して問う。

「誤解されているようですが、ワタシは貴家さまのカノジョではありませぬ」

「――じゃあ、なんなの?」

 凄みのある声。作られたにこやかな仮面からは想像ができない声。冷ややかな瞳があやめに向けられる。

 あやめはわずかに身体を震わせた。

(やはり無謀だったでしょうか……)

 井上を訪ねることにしたのは縁の命令ではない。貴家が告げた幼馴染み一葉について知るために、あやめ自身の意思で下界に来たのだ。

(しかし、委員会(モイライ)が混乱状態にある今、自分でどうにかせねばなりませぬ。監査部(ノルニル)を頼ることもできないですし)

 なんとか自力でやらねばと心を奮い立たせ、井上を真っ直ぐ見つめて笑顔を作る。

「お友達、ですよ」

 自分と貴家の関係を表す適当な言葉がすぐに見つからず、あやめはしぶしぶそう答えた。

「友達だって? へぇ」

 井上はあやめの顔をまじまじと見る。

「――あなた、先月末から貴家さんのことをつけていましたよね?」

「!」

 いきなりの問いに、あやめは顔を強ばらせた。

(何故、そのことを?)

 貴家が気付いている様子はなかった。知り合うきっかけとなったあの日を除いては。それであるのに、井上はあやめが調査を開始した日をほぼ正確に言い当てている。驚きを隠すことができない。

「すぐに反論しないところからすると、僕の問いを肯定しているということでしょうか」

 愉快そうに喋る井上の目は笑っていない。

「…………」

 目を反らしたら負けだ、そう思うあやめであったが、耐えられなくて視線を外した。

「――いいですよ、緒方さん。あなたから誘ってきたのですから、お受けしましょう。こんな天気です。外で立ち話もなんですから、どこか店に入りましょうか」

 言って、井上は歩き出す。

「……はい。場所はお任せいたします」

 あやめは頷くと、井上のあとを追った。
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