上 下
1 / 13

プロローグ

しおりを挟む
 重なる肌に安堵する。手のひらが背中を撫でれば、自然と甘い声が漏れ出す。

 本当にこれでいいの?

 大好きな人に触れられるのが心地よいことだと知ったのはいつだったか。
 最初はこの気持ちに戸惑った。それを素直に告げると、彼は優しく微笑んで「それでいいのです」と囁いた。
 彼はいつだって微笑みながらありのままの自分を受け入れてくれる。ときにはおどけて緊張をほぐしてくれた。姉たちのように、何かをすれば鈍臭いと指摘してくるのとは違う。そういうところが嬉しかった。
 すべてがすべて、そのままでいいと甘やかしてくれるわけではないことにも好感を持った。変えたほうがいいことは注意してくれたし、助言もしてくれた。失敗をしても怒ったりせず、納得するまで付き合ってくれた。
 彼と出会ってできるようになったことはたくさんあるし、知らなかったこともたくさん経験した。
 そう、ちょうど今みたいに。

「あ……」

 声が漏れるのは恥ずかしい。自分のものじゃないみたいな甘い吐息が聞こえると、体温がどんどんと上昇する。汗をうっすらとかいていて、長い赤毛が肌に貼り付いた。

「レティ。我慢しないで。もっと声を聴かせて」

 耳元で促されるとくすぐったい。彼の声に熱を感じる。これまで聞いたことのない、身体の芯をぞくっとさせる色気を孕んだ声。

「んん、でも……んっ」

 声を聴かせろと言ってきたのに、彼――セオフィラスは口づけで唇をふさいできた。

「んう……」

 舌が絡む。声なんて出せない。

 セオさま……

 夫婦として愛し合うのがどんなことなのかを教えるとセオフィラスは言っていた。

 今日は初夜。夫婦として結ばれる最初の夜――
しおりを挟む

処理中です...