【R-18】不眠症騎士と抱き枕令嬢【書籍版後日譚】

一花カナウ

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婚儀のあとのパーティーで

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 時間は少し巻き戻る。

 滞りなく婚礼の儀を終え、今はお披露目のパーティーの最中だ。
 レティーシャはこの日のために用意した純白のドレスに身を包み、夫となったセオフィラスに導かれてホールを舞っていた。彼女の赤い髪と白いドレスのコントラストは美しく、遠くからでも目を引いた。
 今が間違いなく、レティーシャが一番輝いているときだろう。
 男性恐怖症だったことと、美人だと評判の姉たちと比べられるのが嫌だったことで引き籠もりがちだったあの頃とは確実に違う。セオフィラスに出会って、心身ともに成長できたとレティーシャは自信を持って答えられる。

「レティ? もっと緊張されるのではと心配していましたが、大丈夫そうですね」

 ダンスを終えて、セオフィラスに微笑まれた。彼の優しい笑顔はいつも心を温かくしてくれる。これからはもっと身近で毎日見られるのだと思うと、とても嬉しい。
 婚儀を終えたので、レティーシャはラファイエット伯爵家を出てレイクハート公爵家の一員となった。彼との出会った薔薇の美しい季節が遠くに感じられるほどに寒さが増した二月のことだ。

「きっとセオさまとの練習の成果ですわ」

 ダンスへの苦手意識が強かったレティーシャは、婚約する前からセオフィラスにダンスの練習を付き合ってもらっていた。練習をするようになる前は、男性に触れると緊張して動けなくなり、ダンスどころではなかった。それが現在、周囲を魅了し拍手をもらうほどには上達を見せているのだから、きっと成果は実ったのだろう。
 にっこりと笑顔を返すと、セオフィラスの表情に苦いものがわずかに混じる。

「ダンスだけではなかったのですが……」
「?」

 レティーシャは小さく首をかしげる。なにか変なことを言っただろうか。

 確かに今日は失敗が少なかったけれど。

 思い返せば、これまでのレティーシャとは比べ物にならないくらいしっかりと受け答えができていた気がする。一番気にかけていた女王さまへの挨拶も、問題なくできていた。

 やればできる……と油断したら危ないわよね。

 レティーシャは気を引き締め直した。
 そろそろパーティーも終盤だ。招待客たちの宴は続くが、新婚夫婦は初夜を迎えるために退席する。

 いよいよ、初夜と呼ばれている儀式が始まるのね。お姉さまたちは旦那さまに任せればいいとおっしゃっていたけれど……

 レティーシャは段取りを聞いていたのもあって、これから迎える初夜について不安を覚えた。
 初夜について少しは自分でも勉強しておこうと考え、すでに結婚している二人の姉たちに相談をしたのだが、旦那さまに任せればそれでいいの一点張り。さらには、ほかの人に訊くものではないとまで言われてしまった。

 セオさまに任せることについては異論はないけれど。

 この日を迎えるまで、セオフィラスからは様々なことを学んでいる。ダンスやマナーといったことだけでなく、恋人たちの睦ごとも彼から教えてもらった。それらを思い出すに、信用していいと判断できる。
 レティーシャは隣に立つセオフィラスの顔を盗み見る。
 ダンスを終えたときもなにか勘違いをして困らせてしまったようだった。このようなことは日常茶飯事であり、レティーシャとしては少しでも減らしたいと考えている。初夜は夫婦にとって大事な儀式だと聞いているだけに、セオフィラスを困らせて場を白けさせてしまうようなことは避けたい。

「どうかされましたか?」

 セオフィラスのアメジストの瞳と目が合った。どうも見つめすぎたらしい。

「いえ、なんでもありませんわ」
「たくさんの人と会って疲れが出てきたのかもしれませんね。少し早いですが、お暇しましょうか?」

 セオフィラスに顔を覗き込まれると胸がときめく。この人と結ばれたという現実が未だに信じられない。

「あ、でも」
「パーティーまで頑張ってくれましたからね。あまり体力を消耗させては、このあとに差し支えが出ますから」

 そう説明すると、セオフィラスはレティーシャの小柄な身体を横抱きにする。急に視界が高くなって戸惑った。

「え? あ、あの!」

 目を丸くするレティーシャに、セオフィラスは小さくウインクをする。任せてほしいの合図。

「みなさま、これで我々は失礼いたします。あとはレオナルドに任せておりますので」

 セオフィラスが招待客たちに事情を説明しているようだが、周囲の目がある中でいきなり横抱きにされたことにびっくりしたのと恥ずかしく感じていたのとでレティーシャの耳に入らない。
 すると、レティーシャの耳元で声がした。

「行きますよ、レティ」

 その声に胸が高鳴った。動き出せば逃げ場はない。

 レティーシャはセオフィラスにぎゅっと掴まって、彼が部屋に運んでくれるのに任せた。
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