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二人きりの部屋で
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ああ、やっぱり緊張する……
ベッドにおろされると、初めてキスをした日のことと重なった。あれは事故みたいな出来事ではあったが、今となってはよい思い出だ。あの日のことがなければ、今こうして二人で向かい合うことはなかったに違いないから。
心拍数が上がっているのを悟られないよう、レティーシャはひっそりといつもより深めに呼吸をした。
「身構えることはないですよ、レティ」
クスッと笑う声がする。レティーシャは小さく頬を膨らませて、セオフィラスを見上げた。
彼は上着を脱ぎ去り、ドレスシャツ姿になっている。着替えが早い。
「これまでも同じベッドで寝ていたでしょう?」
「それはそうですけど……あれはセオさまの不眠症を緩和するためですから、医療行為の延長だと思えば、別に……」
自分もドレスを脱いだ方がいいのだろうかと迷っているうちに、セオフィラスはベッドにやってきた。レティーシャの隣に腰を下ろす。
彼のドレスシャツは肌蹴ていて、くつろいだ状態だ。鍛え抜かれた筋肉を感じられて、レティーシャは目のやり場に困る。
「恋人の睦ごとのレクチャーもしましたよ?」
身を乗り出してきたセオフィラスと向かい合う。思わず逃げようと身をよじると、すぐに押し倒されて口づけをした。
「ん……」
気持ちの準備を促すような優しいキスは、強張っていた身体を解してくれる。
「セオさま……」
唇が離れ、見つめ合う。彼のアメジストのような瞳が濡れて輝いている。それが欲情を示しているとレティーシャが知ったのは、婚約をしたあとだ。
「レティ。今日からは夫として慣れていただくための講義をします。……といっても、恋人の延長ですから、心配しないで」
「は、はい……」
そう言われても、具体的になにをするのか知らされていない以上、不安は隠せない。セオフィラスのことを信用している。でも、未知の領域に踏み込むにはそれだけでは足りなかった。
「慣れれば気持ちがよくなります。ただ、痛かったり気分が悪くなったりしたら遠慮せずに教えてくださいね」
「そんなに大変なことなのですか?」
明日はレティーシャが先に眠ることになると言っていたし、先ほども体力の心配をされたようだった。屋敷に引き籠もりがちだったレティーシャは体力に自信がない。日が昇るまで部屋で二人きりになるという話だったので、体力が必要なこととは考えていなかった。
「大変ということはないと思いますが……善処しましょう」
「よろしくお願いいたします。本当になにも聞かされていないので」
素直にお願いをすると、セオフィラスは嬉しそうに笑った。
「ええ、レティ。一から教えて差し上げましょう。あなたは気持ちよくなることだけを考えていてくださいね。――さあ、始めましょうか」
えっと……始めるにしても、私は何をすれば……
レティーシャが身構えると、まずは唇をセオフィラスの唇で塞がれた。触れて、啄ばまれて、舐められて、やがて口の中に舌が入ってくる。
「んん……」
互いの舌を念入りに擦り合わせると、クチュクチュと音がした。
甘い……
角度を変えて貪られる。目を閉じていたからか、刺激が強い。舌だけの接触なのに全身が過敏になってブルっと震えた。
背後にセオフィラスの手が回る。上体を起こされて、露出していた背中に手のひらが触れた。それだけでゾクゾクした。
「……セオ、さま」
唇が離れると唾液が互いを結んでいる。どれほど激しいキスだったのかを匂わせた。
「レティ、ドレスを脱がしますよ」
「……はい」
レティーシャは頷く。せっかくのウェディングドレスがシワシワになってしまうのは本意ではない。何層にも重ねられたスカートは眠るには邪魔になるし、できればきつく締められたコルセットは緩めたい。一人ではそれができないので、セオフィラスに手伝ってもらう必要があった。
セオフィラスの手を借りて、レティーシャはドレスを脱いでいく。コルセットも取り払われて、肌を覆うのは一枚の布だけとなる。その下着すらも取り除かれようとして、レティーシャは彼の手を反射的に掴んだ。
「あ、あの。これ以上脱ぐわけには……」
全裸になるのには抵抗がある。姉たちのようにめりはりがあるプロポーションであれば、見応えはあるだろう。
しかし、レティーシャの体型はどことなく幼さが残っている。出会ったばかりの頃と比べれば、いくらか肉付きはよくなったことだろう。以前にちょっとだけ見られてしまってはいるものの、大人の女性として見てもらえるか心配だった。
ベッドにおろされると、初めてキスをした日のことと重なった。あれは事故みたいな出来事ではあったが、今となってはよい思い出だ。あの日のことがなければ、今こうして二人で向かい合うことはなかったに違いないから。
心拍数が上がっているのを悟られないよう、レティーシャはひっそりといつもより深めに呼吸をした。
「身構えることはないですよ、レティ」
クスッと笑う声がする。レティーシャは小さく頬を膨らませて、セオフィラスを見上げた。
彼は上着を脱ぎ去り、ドレスシャツ姿になっている。着替えが早い。
「これまでも同じベッドで寝ていたでしょう?」
「それはそうですけど……あれはセオさまの不眠症を緩和するためですから、医療行為の延長だと思えば、別に……」
自分もドレスを脱いだ方がいいのだろうかと迷っているうちに、セオフィラスはベッドにやってきた。レティーシャの隣に腰を下ろす。
彼のドレスシャツは肌蹴ていて、くつろいだ状態だ。鍛え抜かれた筋肉を感じられて、レティーシャは目のやり場に困る。
「恋人の睦ごとのレクチャーもしましたよ?」
身を乗り出してきたセオフィラスと向かい合う。思わず逃げようと身をよじると、すぐに押し倒されて口づけをした。
「ん……」
気持ちの準備を促すような優しいキスは、強張っていた身体を解してくれる。
「セオさま……」
唇が離れ、見つめ合う。彼のアメジストのような瞳が濡れて輝いている。それが欲情を示しているとレティーシャが知ったのは、婚約をしたあとだ。
「レティ。今日からは夫として慣れていただくための講義をします。……といっても、恋人の延長ですから、心配しないで」
「は、はい……」
そう言われても、具体的になにをするのか知らされていない以上、不安は隠せない。セオフィラスのことを信用している。でも、未知の領域に踏み込むにはそれだけでは足りなかった。
「慣れれば気持ちがよくなります。ただ、痛かったり気分が悪くなったりしたら遠慮せずに教えてくださいね」
「そんなに大変なことなのですか?」
明日はレティーシャが先に眠ることになると言っていたし、先ほども体力の心配をされたようだった。屋敷に引き籠もりがちだったレティーシャは体力に自信がない。日が昇るまで部屋で二人きりになるという話だったので、体力が必要なこととは考えていなかった。
「大変ということはないと思いますが……善処しましょう」
「よろしくお願いいたします。本当になにも聞かされていないので」
素直にお願いをすると、セオフィラスは嬉しそうに笑った。
「ええ、レティ。一から教えて差し上げましょう。あなたは気持ちよくなることだけを考えていてくださいね。――さあ、始めましょうか」
えっと……始めるにしても、私は何をすれば……
レティーシャが身構えると、まずは唇をセオフィラスの唇で塞がれた。触れて、啄ばまれて、舐められて、やがて口の中に舌が入ってくる。
「んん……」
互いの舌を念入りに擦り合わせると、クチュクチュと音がした。
甘い……
角度を変えて貪られる。目を閉じていたからか、刺激が強い。舌だけの接触なのに全身が過敏になってブルっと震えた。
背後にセオフィラスの手が回る。上体を起こされて、露出していた背中に手のひらが触れた。それだけでゾクゾクした。
「……セオ、さま」
唇が離れると唾液が互いを結んでいる。どれほど激しいキスだったのかを匂わせた。
「レティ、ドレスを脱がしますよ」
「……はい」
レティーシャは頷く。せっかくのウェディングドレスがシワシワになってしまうのは本意ではない。何層にも重ねられたスカートは眠るには邪魔になるし、できればきつく締められたコルセットは緩めたい。一人ではそれができないので、セオフィラスに手伝ってもらう必要があった。
セオフィラスの手を借りて、レティーシャはドレスを脱いでいく。コルセットも取り払われて、肌を覆うのは一枚の布だけとなる。その下着すらも取り除かれようとして、レティーシャは彼の手を反射的に掴んだ。
「あ、あの。これ以上脱ぐわけには……」
全裸になるのには抵抗がある。姉たちのようにめりはりがあるプロポーションであれば、見応えはあるだろう。
しかし、レティーシャの体型はどことなく幼さが残っている。出会ったばかりの頃と比べれば、いくらか肉付きはよくなったことだろう。以前にちょっとだけ見られてしまってはいるものの、大人の女性として見てもらえるか心配だった。
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