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召喚聖女は早くお家に帰りたい!
人ではないみたい
しおりを挟む「――おい……モエ、目を開けろ」
――あれ……? なんでだろう。頭も身体も重たい……
目を開けるのが億劫で、身体を動かすのも気が乗らない。声もうまく出せなかった。
「魔障にあたったくらいで意識飛ばすなんて、さすがは聖女サマだな。というか、さては神官長にそういう魔法でも仕込まれたか? ほんとアレはつくづく自分のことしか考えていない男だな……」
――ええっと……何があったんだっけ?
意識は戻ったはずだが、頭が働かない。霞がかかったようにぼんやりとしている。
――この人は……この懐かしい声は誰の声だろう……
「モエ。この土地の魔障に対応できるように魔力を吹き込む。少し我慢してくれ。嫌なら目を開けろよ」
身体が彼の手によってきちんと仰向けにされる。顎に手がかかり、持ち上げられる。
――ん? この体勢は……人工呼吸⁉︎
唇から熱が伝わる。どうも吹き込まれているのは息ではない。身体中に熱が回っていく。
「んんっ……」
ピクピクと指先が反応を始める。身体が少しずつ軽くなってきた。
――あ。やっと目を開けられそう……
ゆっくりと目を開けると、黒くてフサフサのまつ毛が見えた。色黒に感じられるのは部屋の明かりのせいだろうか。
硬質でツンツンと逆立った短髪、キリッとした太めの眉毛。ごっつい感じの顔立ちは、神官長とは正反対の男らしさ全開のものだ。
――正直なところ、私のタイプじゃないんだけどな……必要な処置としてのマウス・トゥ・マウスでも、キスと同じなのに……嫌じゃない……
別の意味でぼうっとしてきた。のぼせてきたというか。
「……あんたなぁ、そういう顔していると適当な名目をあげて襲うぞ。自分が今、どういう格好をしているのか、わかってるのか?」
額に手を当てて、彼は盛大にため息をついた。
「えっと……んんっ⁉︎」
彼が離れてくれたので、頭を動かして自分の身体を見る。目に入ったあられもない姿に、私は目を見開いた。
服を着ている――というには、布の面積が小さすぎる。大事な部分はかろうじて隠れていたが、それは多分、彼が気をつかって覆ってくれたからのような気がする。起き上がったら、ほぼマッパだ。
私は貧弱な胸元と股間に手を持っていって、彼の視界に入らないようにした。恥ずかしい。
「ご、ごめんなさい。見苦しいものを……」
「いや、見苦しくはないが。むしろ、オレの好みすぎて、精神力を試されている気分だ」
「そ、それはすみません……」
「謝るのはこっちの方だ。部下が言葉足らずなせいで、あんたを怖がらせてしまった」
そう答えて、彼は自分の纏っていたマントを外して私にかけてくれる。残っている温もりと、獣っぽい香りが私を高揚させた。なんだろう、変な感じ。
「部下って、あの大きな鳥さん?」
私はマントを引き寄せて、上体を起こした。ここは部屋の中だ。それも、王侯貴族が使ってそうな感じの調度品が並ぶ部屋である。ヨーロッパ貴族関連の資料でみたものに近い。中世よりも近代の作品に近くて、煌びやかだ。
室内は燭台で照らされていて、揺らめく炎がこの部屋をどことなく不気味に見せていた。
「ああ、そうだ。あのタイプの魔物はオツムが弱くてな……。索敵をはじめとした知覚は優れているんだが、あとはパワー押ししかできん。迷惑をかけたな」
「いえ。鳥は好きですから」
ベッドの端に腰を下ろした彼の背中に目を向ける。
烏の翼みたいな感じだ。彼の身体と同じくらい大きな翼が背中に生えていて、とても重そうである。彼自身も結構筋肉質で体格に恵まれているので、空を飛ぶにはこのくらいの翼が必要なのかもしれない。伸ばしたらもっと大きい。
「そうか」
彼はホッとしたように笑う。目つきが鋭かったり眉毛が凛々しかったりして強面だと思うのだが、こういう気が抜けたときの表情はとても柔らかく感じられる。話し方もぶっきらぼうな割には相手への敬意や気遣いが察せられて、好感が持てた。
――そういうところも、神官長とは正反対ね……。喋り方は柔和で丁寧な印象だけど、本心がさっぱりわからなかったし。アレって、下心を必死に隠していたからああいう話し方だったってことよね……ああ、怖っ。
神官長のことを思い出して、私は両肩を抱いて身体を震わせた。うわ、鳥肌が立ってきたし。
忘れよう、忘れなさいと自分に暗示をかけながら肩をさすると、彼に気づかれた。
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