召喚聖女は早くお家に帰りたい!

一花カナウ

文字の大きさ
6 / 13
召喚聖女は早くお家に帰りたい!

逃げるあてなどないのだけれど 2

しおりを挟む
 それに、自宅に残してきた大切な相棒が無事なのかも気になる。家事で焼けてしまったとは思いたくないし、ちゃんとこの目で確認したい。死んでしまったのだとしても、私が最後を見送ってやりたいのだ。

 ――なんとしても、私は家に帰らなきゃいけないのに……

 森の中を走っていた私は、木の根に躓いてしまったらしく盛大にすっ転んだ。起き上がる間も無く近づいてくる破壊音。
 魔物に追いつかれる――

 後方を確認する余裕なんてもうなくて、ただ目をギュウッと閉じて、痛みをこらえようと身体を縮こませた。

 ――ん? 痛くない?

 痛みはないどころか、あたりは静寂に包まれている。森を響き渡っていただろう破壊音は消え去っているのだ。

 ――即死だと、感覚がなくなるのかしら?

 とにかく状況がわからないので、恐る恐る目を開ける。
 最初に地面が見えた。背の低い草とそこそこ太い木の根。ここは森の中だ。やがて獣の鳴き声や鳥の囀りが聞こえ始める。

「……あれ?」

 ゆっくりと頭を上げると、闇色の布が目に入った。それがマントであると理解できたとき、そこに立っていた人物が見下ろしてきた。

「モエ。ずいぶんとひどい姿になったものだな」

 痺れる低音ボイスには聞き覚えがある。私は月明かりで逆光になっている彼の顔を凝視した。

「あなた……」
「神官長の元に帰りたくないなら、オレの手を取れ。悪いようにはしない……つもりだが、あいついわくオレは悪の権化ということになっているから、保証はしかねる。――さあ、選べ」

 私に向かって差し出される大きな手のひら。

 ――あれ? こういう光景、どっかで見たような……

「あんまりのんびりしていると神官長に追いつかれるぞ。どうなんだ?」
「騙し討ちをする神官長よりはマシな感じがするから、あなたを選ぶわ!」

 熟慮の時間がないのは仕方がない。直感を信じて、私は彼の手をガッシリと握った。

「ま、あんたは生まれ変わってもそういうヤツだよな」

 嬉しそうな、それに加えて、どこか懐かしそうな感じで彼は呟く。暗闇と逆光でよく見えないが、笑ったように思えた。

 ――やっぱりこのシチュエーションに覚えがあるような……

 思い出そうと脳内検索を始めたところで、ひょいっと横抱きにされてしまった。たくましい腕と胸の感触に戸惑う。

「おっと、逃げるなよ。空間を跳ぶから、しっかり掴まれ」

 どこに掴まっていればいいのだと問う前に、彼は大きく跳躍していた。

「すごっ……!」

 三階建ての屋敷の屋根さえも隠してしまえるだろう高さがある木々の上に跳び上がると、マントの下から大きな翼が現れた。暗闇に紛れてしまいそうな漆黒の翼。バサバサと上下に動かせばさらに高く舞う。

 ――こんな景色が見られるなんて。

 真下を見る気にはなれなかったが、この高さならかなり遠くまで見通せる。月夜の明かりと魔法の光で浮かび上がる街並みや神殿はとても幻想的だ。
 そんな光景はいかにも異世界にやってきたといった雰囲気を帯びていて、それまではヨーロッパあたりの田舎にやって来たみたいな気持ちでいたから目を丸くしてしまった。

「ふっ……前も同じような顔をしていたな。本当にあんたは変わらんなあ。神官長に追いつかれると面倒だからさっさと渡るつもりだったが、もう少し見て行くか? これで見納めになるし」
「あ、ううん。もう目に焼き付けたからいいわ。ありがと」
「できるなら、もっとたくさんの場所を見せてやりたかったが、そういうなら遠慮なく」

 頭上に巨大で重厚な扉が現れた。それがギィっと音を立てて奥に開かれる。その先は真っ暗でよく見えない。

「……行くぞ」

 彼の腕に力がこもる。私は彼の首に回していた腕により力を入れてしがみついた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...