観賞少年

一花カナウ

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Misty Rain

《10》

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 処分業務と回収業務とは別々の担当となっていた。処分業務は俺のような放出型の能力を扱うものが担当し、回収業務は操作型能力者が主に担当になった。

「あ、カヅミ。今、いいか?」
『めずらしいなぁ、お前から電話掛けてきよるなんて』

 玄関の傍の部屋。鍵を掛けてユウを外に出し、俺は一人で携帯電話を握る。

「ついさっき、プロトタイプを仕留めた。C‐1113だと思われる。回収しておいてくれ」
『了解。でも、仕事辞めてんのによくやるなあ。プロトを殺(や)るの、キラっとったやん』

 不思議そうなカヅミの声が聞こえる。確かに俺はこの業務が嫌いであったがため、別の任務を請け負うことが多かった。まぁ、凶暴なプロトタイプに遭遇すれば話は別だったが。

「まぁ諸事情があってな。で、いつ頃こっちに戻るんだ?」
『何々? うちが傍にいなくって寂しぃん?』
「……切るぞ」
『あっ! 冗談。さびしぃんのはうちの方』
「切るぞ」
『真面目に答えます! だから、もうす・こ・し・だ・け』

 ゴスッという鈍い音。カシャッという携帯電話を掴む音が続いて聞こえる。短い切り換え音の後、傍にいるもう一人の溜息が入った。

『……私だ』
「――っておい、イヲリさん、今の音、やばくないか?」
『……問題ない』

 ……なんだよ、その間は……。

「兎に角、いつ頃こっちに戻るんだ?」
『今は車の中だ。明日になる前には着くだろうな。でも、らしくないな。アキラからそんなことを聞くなんて』

 意外そうな口調でイヲリが言う。相変わらず単調な話し方ではあるのだが。

「ま、いろいろあってね」
『ハルとの間に進展でもあったか』

 からかうような声。それでも抑揚が大してないんだけど。様子からすると車を運転しているのはイヲリの方のようだ。カヅミはのびているし。

「それはないね」
「あっシュバルツ!! そっち行っちゃダメだって!! 兄さんに怒られる!!」
「…………」

 あの……この部屋、消音・防音設備がバッチリだったはずなんだが、どうしてこうもはっきり……?

『……新しい彼女か?』
「あんな高い声してるけど、男の子っす。変声期前みたいで」
『……バイだったのか。それもまた良いがな』
「ちげーよ!『観賞少年』のNTAタイプを保護したんだ。今は小さいのが流行りみたいだな」
『ニュー(N)トリプル(T)か……。その子、いくつだ?』

 俺の墓穴をさらりと流してくれたイヲリさんに感謝。

「十三か十四かな。きれいな黒目、さらさらのストレートの黒髪に白い肌。女顔。特徴はそんなところ。シリーズナンバーまでわかるか?」
『社長に聞いてみないと何とも。その様子だと、その少年について相談か何かがあるから電話を掛けてきたと見える』

 やっぱわかってるなぁ、イヲリさんは。

「そんなところさ。心配事が増えましてね」
『アレ以来、暗い顔をして、仕事やおつとめがない限り外にも出ていなかったろう? 元気なさそうにしてたぞ』
「ん……」

 アレ……か……。あの事件さえなければ……。
 そう言えばアキルは何処へ? 死んでないだろうしな……。あの台詞が真実であれば、だが。

『その少年、お前を変えてくれる重要役になりそうだな。しかし……』

 イヲリさんはそこで黙り込んだが、俺は彼が何を言おうとしていたのかはわかっていた。アキルに狙われる可能性が高い、そう言いたかったのだ。ミヤコと同じように……。

『……すまんな、嫌なことを思い出させてしまった』
「あ、いや、大丈夫さ」

 冷や汗が出ていたことは、彼には言えなかった。迷惑はかけられない。個人の問題だから、なおさら。

『ま、家に着いたらゆっくり話そう。対策はそれからだ。電話切って良いか?』
「長電話になったな。運転中に悪りぃ」
『いやいや。問題ない。案ずるな。では後ほど』
「それじゃ」

 ツーという音。俺は電話を閉じ、部屋を出た。ふぅっと溜息をついて頭を掻く。気が付いたらこれ、癖になっているみたいだなぁ。

「どうしたの?兄さん。思い詰めたような顔をして」

 黒猫を抱き上げたユウが俺の顔を覗く。

「何でもない。ちょっと仕事の打ち合わせさ」
「で、兄さんは何の仕事をしているのさ?」
「トップシークレット」
「教えてよー! ケチ!!」

 ぷいっと横を向いてリビングに引き返す。

「あ、そうそう。お昼に姉さんが来てね、アップルパイを置いていったよ。ボクたちは先に食べちゃったけど」
「ハルが来てたのか? アップルパイを持って」

 ハルがアップルパイを持って来たということは……。

「冷蔵庫の中で冷えているよ。美味しかった」

 さっきまで不機嫌顔だったのが、ご機嫌な様子に変わって答える。なんか表情が増えたな、ユウのやつ……。

「わかった。小腹が空いたし、これから食べるよ」

 言われたように冷蔵庫を開ける。中央の段に箱ごと入っていた。この店、やっぱり……。

「紅茶淹れるけど飲むか?」

 箱を取り出して薬缶を火に掛ける。

「うん」



 『オルゴール』
 店の名前はそういう名前が付いていた。ハルがこの店でアップルパイを買って、予告なしにここを訪れたということは、その事実以外に意味があった。

 ――社長からのお呼び出し――

 頼んでいた例の件についての報告だろうか?
 雨が止む気配はなく、一晩中降り続いた……。

* * * TO BE CONTINUED or END ? * * *
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