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第1話 不意打ちのキス
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多田史華は朝焼けが大好きだ。季節によって色が違って見えるところが神秘的で不思議で、こころよく感じられる。冷え切った空気に包まれて、背筋が自然と伸びるあの感じがたまらなく良い。そんな朝焼けの美しさに惚れたのは、大学時代にコンビニの早朝担当をしていた頃のこと。たった数ヶ月ほど前の日常での出来事だ。
どうして朝焼けのことを思い出したのか。
それは今、この時間が早朝清掃の勤務中だからというわけではない。
史華の視界に、顔を出したばかりの太陽のようにきらめく魅力的な人物が入り込んだからだ。
「この時間に掃除なんだね。いつも綺麗にしてくれてありがとう」
きらきらした空気と自然と背筋をただしたくなるような雰囲気が同居する不思議な男性が室内を覗いていた。何より注目すべきなのは、息をするのを忘れてしまうくらいに整った甘い顔。そんな綺麗な顔をした背の高い青年が史華に向かって微笑んでいる。
「え、あ、はいっ!」
男ばかりの理系大学に所属していた史華としては、男性と喋ることなんてどうということはないはずだった。だのに、彼に見つめられると声が上擦ってしまう。
「お、お仕事ですから、当然ですっ!」
史華は意識して視線を外す。手元に目を向けると、お菓子の包装紙や紙コップなどでいっぱいになったゴミ箱があった。給湯室の隣にある休憩スペースのゴミを回収に来たところだったのを史華は思い出す。
「――俺に見惚れていたでしょ?」
作業に戻ろうとしていた手が止まった。声がすぐ近く――耳の傍で聞こえたからだ。
史華が顔を上げると青年がそこにいた。さっきまで彼は部屋の入口にいたはずだ。史華のいる部屋の角までいつの間に来ていたのだろうか。
「……邪魔です」
何を言ったら良いのかわからず恐慌状態になった史華の口から出てきたのは、ひんやりとしたドライな声と台詞だった。
「良いから答えろよ」
青年の顔から優しさが消え、鋭さに置き換わる。獰猛な肉食獣のような目。視線を反らせない。
「あ、あの……」
気付けば壁に追いやられていた。青年の左手は壁に付けられており、逃げ道の一つを塞ぐ。
「正直に答えて。答えてくれたら解放するから」
「……綺麗だな、とは思いましたけど……」
素直な感想だ。見惚れていたのかどうかは、史華にはよくわからない。これまで一目惚れという経験もなければ、そもそも恋愛をしたことがなかったからだ。
「……ふぅん」
青年は値踏みするかのような不躾な視線で史華の頭から足先を見ると、口の端を少し上げた。
「悪くない」
何が悪くなかったのだろうかと疑問符を浮かべていると、頬に温かな感触が伝わる。
「へ?」
「続きはまた今度ね」
青年は耳元で囁くと、史華を解放した。ひらひらと手を振りながら休憩スペースであるこの部屋から出て行く。
「い、今のって……」
頬にキスをされたのだと理解すると、全身の力が一気に抜けてしまった。ぺたんとその場にへたり込んだ史華は、ほどよく張りのある胸元に手を当てる。全力疾走のあとみたいに心臓が忙しく働いている。
「なんだったんだろう、今の……」
このときの史華は、彼がこのフロアを使用している企業――株式会社ラブロマンスの社長だとは知らなかった。
どうして朝焼けのことを思い出したのか。
それは今、この時間が早朝清掃の勤務中だからというわけではない。
史華の視界に、顔を出したばかりの太陽のようにきらめく魅力的な人物が入り込んだからだ。
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きらきらした空気と自然と背筋をただしたくなるような雰囲気が同居する不思議な男性が室内を覗いていた。何より注目すべきなのは、息をするのを忘れてしまうくらいに整った甘い顔。そんな綺麗な顔をした背の高い青年が史華に向かって微笑んでいる。
「え、あ、はいっ!」
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「お、お仕事ですから、当然ですっ!」
史華は意識して視線を外す。手元に目を向けると、お菓子の包装紙や紙コップなどでいっぱいになったゴミ箱があった。給湯室の隣にある休憩スペースのゴミを回収に来たところだったのを史華は思い出す。
「――俺に見惚れていたでしょ?」
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「……邪魔です」
何を言ったら良いのかわからず恐慌状態になった史華の口から出てきたのは、ひんやりとしたドライな声と台詞だった。
「良いから答えろよ」
青年の顔から優しさが消え、鋭さに置き換わる。獰猛な肉食獣のような目。視線を反らせない。
「あ、あの……」
気付けば壁に追いやられていた。青年の左手は壁に付けられており、逃げ道の一つを塞ぐ。
「正直に答えて。答えてくれたら解放するから」
「……綺麗だな、とは思いましたけど……」
素直な感想だ。見惚れていたのかどうかは、史華にはよくわからない。これまで一目惚れという経験もなければ、そもそも恋愛をしたことがなかったからだ。
「……ふぅん」
青年は値踏みするかのような不躾な視線で史華の頭から足先を見ると、口の端を少し上げた。
「悪くない」
何が悪くなかったのだろうかと疑問符を浮かべていると、頬に温かな感触が伝わる。
「へ?」
「続きはまた今度ね」
青年は耳元で囁くと、史華を解放した。ひらひらと手を振りながら休憩スペースであるこの部屋から出て行く。
「い、今のって……」
頬にキスをされたのだと理解すると、全身の力が一気に抜けてしまった。ぺたんとその場にへたり込んだ史華は、ほどよく張りのある胸元に手を当てる。全力疾走のあとみたいに心臓が忙しく働いている。
「なんだったんだろう、今の……」
このときの史華は、彼がこのフロアを使用している企業――株式会社ラブロマンスの社長だとは知らなかった。
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