オレ様社長はお断りっ!

一花カナウ

文字の大きさ
12 / 51

第12話 それとこれとは別なので

しおりを挟む

「史華ちゃん、君はもっと愛されるということを知って良いと思う。俺は本気だよ。君が一目惚れを信用しない人なのだということはとてもよく理解できた。だから、じっくりと時間をかけて俺の愛が届くように努力しよう。そして、自分を下げるような発言はしないと誓って欲しい。俺を詰るのは構わないが、自分で自分を貶めるようなことはしちゃいけない」

 からかっているようには見えなかった。真剣な眼差しに、いい加減な言葉で逃げることを封じられる。

「わ……わかりました。気を付けます」
「よろしい。じゃあ、俺のことは悠って呼んでね」

 にっこりと笑顔が向けられる。それを見ると胸がドキドキした。口付けられた指先も熱くて、理由がわからない。

「そ、それとこれとは別です」
「だったら、君の質問には答えられないね」
「……悠さん、で妥協してください」

 いつまでもこんなやり取りを続けていては心臓に悪い。そっと視線を外しながら史華が提案すると、悠は立ち上がった。

「良いよ。君にはハードルが高かったみたいだからね」

 もっとごねるだろうと考えて身構えた史華だったが、悠はあっさりと了承してソファに座り直した。仕方がないと諦めるような言い方ではなく、どことなく楽しそうに聞こえる口調が引っかかる。だが、指摘はするまい。彼のペースに巻き込まれっぱなしで面白くないが、突っ掛かったら彼の思う壺のような気がしたからだ。

「――で、質問の答えだけど、仕事を家に持ち込まない主義だから職場にいたってだけさ。――あ。君に会えることを期待していたって言って欲しかったかな?」
「いえ」

 照れることもなく、史華はすぐに否定し、台詞を続ける。

「こんなにご自宅が近いなら、帰れば良いのにって思ったもので」

 立派な家なのに、と心の中で続ける。おそらく、今いるリビングのスペースは、史華が一人暮らしをしている家よりも広い。

「家は一人だと寂しいからね。職場にいれば、誰かに会う時間が増える。人と会った方がアイデアが浮かぶんだよね、俺」

 一人だと寂しい――その台詞には感情がこもっているような気がした。彼を見ていて、賑やかな場所が好きそうに感じられたからだ。綺麗に片付けられたこの広い家は静か過ぎる。インテリアはどれもお洒落ではあるけれど余所余所しくて、どことなくひんやりとしている。

 一方、清掃作業で入る株式会社ラブロマンスのオフィスはお洒落で綺麗に整理整頓された空間ではあるのだけど、人の温もりを感じられる場所だ。だからそれを壊さないようにと気に掛けながら、ゴミや汚れを残さないように掃除をしている。気持ち良くお仕事ができるように、そのお手伝いが少しでもできるように。

 あぁ、だから、またこの人に感謝してもらいたいと思ったのね。

 悠の話を聴きながら、史華は想像する。自分のことを、そして彼のことを。

「そうしたら、ちょうど君に会えた。それで良いアイデアが浮かんだんだ。ターゲットのイメージが明確になったことで、これなら行けると確信できた。君のおかげだよ、史華ちゃん」
「あたしは何もしていないですけど」

 強いて言うなら、真面目に言われた通りの仕事をこなしてきただけだ。彼に何かした覚えはない。

 悠は首を横に振る。

「君がそう思っているだけで、他の人はそうじゃないかもしれない」
「そういうもの、でしょうか?」
「そういうものなんだよ。俺が君に証明してやる」

 彼と目が合った。なんてことはない台詞なのに、さっきまでの口説き文句よりも心音が忙しく鳴った。

 どうして?

「――食が進んでいないようだけど、口に合わなかったかな?」

 ぼんやりしていた。悠に問われて、史華ははっとする。

「ど、どれも美味しいです!」
「そう? だったら良いんだけど。――あと、食器が汚れること、気にしているでしょ。取り皿はいくら使っても構わないよ。食洗機に入れるだけだし」
「あ、はい」

 見ていないようでよく見ているんだな、と史華は感心しながら悠の横顔を見つめた。

 食器が汚れることを気にしていたのは事実だ。どうすれば味が混ざらずに食べられるかと考えながら選んでいたのだから。まさか見抜かれるとは思わなかったので正直驚いたし、そういうところも見ているから社長という仕事が務まるのかなとも思った。若いのに経営者であることには、それなりに理由があるのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

祖父の遺言で崖っぷちの私。クールな年下後輩と契約結婚したら、実は彼の方が私にぞっこんでした。

久遠翠
恋愛
広告代理店で働く仕事一筋のアラサー女子・葉月美桜。彼女の前に突きつけられたのは「三十歳までに結婚しなければ、実家の老舗和菓子屋は人手に渡る」という祖父の遺言だった。崖っぷちの美桜に手を差し伸べたのは、社内で『氷の王子』と噂されるクールな年下後輩・一条蓮。「僕と契約結婚しませんか?」――利害一致で始まった、期限付きの偽りの夫婦生活。しかし、同居するうちに見えてきた彼の意外な素顔に、美桜の心は揺れ動く。料理上手で、猫が好きで、夜中に一人でピアノを弾く彼。契約違反だと分かっているのに、この温かい日だまりのような時間に、いつしか本気で惹かれていた。これは、氷のように冷たい契約から始まる、不器用で甘い、とろけるような恋の物語。

処理中です...