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第16話 貞操の危機ってヤツですか?
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「期待していたなら、応えてあげようか?」
悠がベッドの上に乗っている。
「はい? って、近いんですけどっ⁉︎」
毛布の上に体重がかけられているからか、史華は背後に移動することしかできない。身じろぎして下がれば、すぐに壁にぶつかった。
交錯する視線。彼の瞳は飢えた獣のように鋭く獲物を捉えている。
「史華ちゃん」
身の危険を感じ、彼の身体を押し退けようと手を伸ばすと、簡単に捕らえられてしまった。そのまま頭上に纏めて押し付けられる。
「だ、ダメ……」
拒否をしなければと思っているのに声が思うように出せないし、身体も言うことをきいてくれない。
ただ、熱を帯びた視線に釘付けになっていた。身の危険を感じているはずなのに、恐怖によるドキドキが恋愛のそれのように錯覚してしまいそうだ。
小説を読んで想像していたことよりも刺激が強い。
「俺が君の身体目的じゃないってことを認めさせてあげるから、覚悟しようね」
色気を感じる声に、肌が粟立った。
それと同時に、淡い期待を胸に抱くオンナの自分を強く感じた。
「――だ、ダメです、やっぱり、こういうのはっ!」
雰囲気に飲まれそうになったところで、史華は正気に戻った。だが、すでにマットレスと悠とでサンドウィッチにされている。
「君を気持ち良くさせるだけだよ。最後まではしないから」
「信用できません」
「…………」
悠は黙ったまま、史華を見下ろしている。説得するために思案しているのだろう。
史華は続ける。
「出会ったばかりでこういうことをするの、抵抗があるんです。あなたはきっと、身体が求めていたからしたのだと言うのでしょうけど、あたし、きっとその後で後悔する。気持ちが良かったとしても、そんな反応をした自分に嫌悪してしまうと思うんです。初めてだから、なおさら……。わかって欲しい」
言葉が通じる相手であって欲しかった。希望がたくさんの台詞を生む。
沈黙。
悠が先に口を開いた。
「時間を掛ければ、良いってことかな?」
素朴な疑問を口にしたらしかった。
史華は問いを受けて真面目に考えたあとに答える。他人から問われてみると、違いに気付けるものなのだなと思った。
「……なんか違います。好きでもない人にあたしの初めてをあげたくないです」
「じゃあ、君が好きな相手が、君を好きじゃなくても良いってこと?」
次の質問は間髪入れずにきた。史華は彼の台詞を反芻し、改めて考える。
「む……できるなら相思相愛が良いです」
好きな相手に純潔を捧げたいという意思はあるが、欲張って良いのならちゃんと愛されたいと思った。昨日買ってきた小説の中には無理矢理にというシーンも幾つか見られたけれど、やはり愛し合っているものの方が好感を持てる。だから、互いを愛し合う延長での行為の方が好みなのだろう。
「君は……しっかりしているんだね」
困ったように微笑んだあと、彼は史華の上から退いた。
「身体から始まる恋愛もあるって言って説き伏せてしまうことも考えたんだけど、勿体無くてやめることにしたよ。ますます君に惚れちゃったからね」
「はぁ。嘘臭いですけど」
優しく接してくれているとは思うけれど、それが演技じゃないかと疑ってしまう。一目惚れなどと言っていたが、それが本当なのか確証を得ていなかった。
「ひどいな。押し倒しておきながら、手をつけなかったのに」
言って、悠は肩を竦めた。
「――そうだ。次の土曜日、空いてるかな? プロジェクトが進むきっかけとなった女神さまをお礼の食事に招待したいんだけど」
話題を変えたかったのだろう。悠が真面目な調子で訊いてきた。普通にデートの誘いをしてきたなら、嘘を吐いてでも断ったところだが、こういう言い方をされると逃げにくい。
史華は小さくため息をついた。
「一応、終日空いていたと思いますよ」
「良かった。家に迎えに行くよ。時間は……そうだな。朝十時でどうかな?」
「えぇ、大丈夫です」
少し考えたあとに返事をすると、悠は楽しそうに笑顔を作った。
「今週は土曜日のために頑張れそうだ。――もう邪魔はしないからゆっくり休んでいて」
ひらひらと手を振って出て行こうとする悠のシャツの裾を史華は掴んだ。
「待ってください」
「なんだい? 添い寝の希望だったら喜んで受けるけど」
「一言余計です。――あの、そうじゃなくて、悠さんもちゃんと休まなきゃいけませんよ? 徹夜明けなんでしょう? いろいろお手数お掛けしている上に、ベッドまで借りちゃってる始末でアレなんですけど、休息はきちんととってくださいね」
気持ちを早口気味に伝えると、悠は裾を掴む手を優しく解いて笑んだ。
「ありがとう。俺は大丈夫だから」
史華の額に口付けを落とし、部屋を出て行ってしまう。
「大丈夫……?」
休んでいて良いと言われたが、結局胸の高鳴りが収まらなくて悠が再び部屋を訪ねるまで史華は一睡もできなかったのであった。
悠がベッドの上に乗っている。
「はい? って、近いんですけどっ⁉︎」
毛布の上に体重がかけられているからか、史華は背後に移動することしかできない。身じろぎして下がれば、すぐに壁にぶつかった。
交錯する視線。彼の瞳は飢えた獣のように鋭く獲物を捉えている。
「史華ちゃん」
身の危険を感じ、彼の身体を押し退けようと手を伸ばすと、簡単に捕らえられてしまった。そのまま頭上に纏めて押し付けられる。
「だ、ダメ……」
拒否をしなければと思っているのに声が思うように出せないし、身体も言うことをきいてくれない。
ただ、熱を帯びた視線に釘付けになっていた。身の危険を感じているはずなのに、恐怖によるドキドキが恋愛のそれのように錯覚してしまいそうだ。
小説を読んで想像していたことよりも刺激が強い。
「俺が君の身体目的じゃないってことを認めさせてあげるから、覚悟しようね」
色気を感じる声に、肌が粟立った。
それと同時に、淡い期待を胸に抱くオンナの自分を強く感じた。
「――だ、ダメです、やっぱり、こういうのはっ!」
雰囲気に飲まれそうになったところで、史華は正気に戻った。だが、すでにマットレスと悠とでサンドウィッチにされている。
「君を気持ち良くさせるだけだよ。最後まではしないから」
「信用できません」
「…………」
悠は黙ったまま、史華を見下ろしている。説得するために思案しているのだろう。
史華は続ける。
「出会ったばかりでこういうことをするの、抵抗があるんです。あなたはきっと、身体が求めていたからしたのだと言うのでしょうけど、あたし、きっとその後で後悔する。気持ちが良かったとしても、そんな反応をした自分に嫌悪してしまうと思うんです。初めてだから、なおさら……。わかって欲しい」
言葉が通じる相手であって欲しかった。希望がたくさんの台詞を生む。
沈黙。
悠が先に口を開いた。
「時間を掛ければ、良いってことかな?」
素朴な疑問を口にしたらしかった。
史華は問いを受けて真面目に考えたあとに答える。他人から問われてみると、違いに気付けるものなのだなと思った。
「……なんか違います。好きでもない人にあたしの初めてをあげたくないです」
「じゃあ、君が好きな相手が、君を好きじゃなくても良いってこと?」
次の質問は間髪入れずにきた。史華は彼の台詞を反芻し、改めて考える。
「む……できるなら相思相愛が良いです」
好きな相手に純潔を捧げたいという意思はあるが、欲張って良いのならちゃんと愛されたいと思った。昨日買ってきた小説の中には無理矢理にというシーンも幾つか見られたけれど、やはり愛し合っているものの方が好感を持てる。だから、互いを愛し合う延長での行為の方が好みなのだろう。
「君は……しっかりしているんだね」
困ったように微笑んだあと、彼は史華の上から退いた。
「身体から始まる恋愛もあるって言って説き伏せてしまうことも考えたんだけど、勿体無くてやめることにしたよ。ますます君に惚れちゃったからね」
「はぁ。嘘臭いですけど」
優しく接してくれているとは思うけれど、それが演技じゃないかと疑ってしまう。一目惚れなどと言っていたが、それが本当なのか確証を得ていなかった。
「ひどいな。押し倒しておきながら、手をつけなかったのに」
言って、悠は肩を竦めた。
「――そうだ。次の土曜日、空いてるかな? プロジェクトが進むきっかけとなった女神さまをお礼の食事に招待したいんだけど」
話題を変えたかったのだろう。悠が真面目な調子で訊いてきた。普通にデートの誘いをしてきたなら、嘘を吐いてでも断ったところだが、こういう言い方をされると逃げにくい。
史華は小さくため息をついた。
「一応、終日空いていたと思いますよ」
「良かった。家に迎えに行くよ。時間は……そうだな。朝十時でどうかな?」
「えぇ、大丈夫です」
少し考えたあとに返事をすると、悠は楽しそうに笑顔を作った。
「今週は土曜日のために頑張れそうだ。――もう邪魔はしないからゆっくり休んでいて」
ひらひらと手を振って出て行こうとする悠のシャツの裾を史華は掴んだ。
「待ってください」
「なんだい? 添い寝の希望だったら喜んで受けるけど」
「一言余計です。――あの、そうじゃなくて、悠さんもちゃんと休まなきゃいけませんよ? 徹夜明けなんでしょう? いろいろお手数お掛けしている上に、ベッドまで借りちゃってる始末でアレなんですけど、休息はきちんととってくださいね」
気持ちを早口気味に伝えると、悠は裾を掴む手を優しく解いて笑んだ。
「ありがとう。俺は大丈夫だから」
史華の額に口付けを落とし、部屋を出て行ってしまう。
「大丈夫……?」
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