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第26話 流されました
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店の中は外と比べて照明がやや暗く、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
目に入ってくる下着は可愛らしいデザインもあれば、扇情的なデザインのものもあって、誰がこんなのを身につけるのだろうかと首を傾げてしまうものもディスプレイされていた。
「史華ちゃんが機能的なデザインを中心に選んでいるということはわかってるんだけど、デザインよりもまずはサイズを知ることだと思うんだよね」
悠に指摘されたとおり、機能的なデザインを好んでいるのは事実だ。
だが、どうしてそんなことがわかるのだろうか。コーヒーをひっくり返して脱ぐ羽目になったあの時しか、下着を知る機会なんてなかったはずなのに。まともに会話をするようになってまだ一週間も経たない。だのによく観察しているものだと感心した。
そして同じだけの時間を一緒に過ごしているはずなのに、彼のことを一部分だけでも自信を持って説明できるところがあるだろうかと自問する。
流れについていけなくて史華がぼやっとしていると、女性店員が史華たちの前にやってきた。
「何かお探しですか?」
にこやかな接客。男女で店に来ているというのに、動揺している様子はない。それを見て、史華はこういうお客は珍しくないのかなと感じ、安堵する。
「まずは彼女のサイズを測っていただけませんか?」
悠はさらりと告げる。
「承知いたしました。こちらにどうぞ」
店員はごく自然にフィッティングルームに史華を案内する。当然ながら悠は部屋の外で待機だ。
全身が映る大きな鏡の前に立たされると、服を脱ぐようにと指示される。借り物のボレロとピンクのワンピースを脱げば、もう下着姿だ。
今日の下着は地味な方だが、どうして悠に買ってもらわなきゃいけないのかと疑問に思う。一応デートであるし、きちんとした格好でいたいという気持ちから、家にある下着ではまともなものを選んで着たつもりだ。くたびれすぎていない、淡い橙色のレースの上下。無難だと思う。
「肩が凝りやすいとか下着の痕が痒いとかありませんか?」
下着姿の史華に、店員はそんなことを尋ねた。
「え? たまにならありますけど……」
清掃員の仕事の後に就活で数件回るようなハードな日は、特に肩が凝ると感じる。家に帰ってすぐにブラジャーを外したくなるのもそんな日で、ルームウェアに着替える時に身体を見ると赤くなっていることもしばしばだ。
しかし、身体にしっかりと密着感があった方が背筋が伸びるし、多少窮屈でも胸を押さえ込んでおかないと既製品のリクルートスーツが入らないのだから仕方がない。
「身体に合った下着ではないという証拠ですよ。体型が歪む原因にもなりますから、身体にあったものを選びませんと」
失礼しますと一言あって、ブラジャーの上からメジャーがあてられる。
「脱がなくていいんですね」
「はい。ブラジャーを外してしまうと、着用時よりトップが下がってしまうので適切なサイズが測れないのです」
ふとした疑問にも、快く答えてもらえた。採寸はテキパキと進められる。
「なるほど……」
既製品が合わないらしいことには薄々気付いていた。でも、史華は自分のサイズに合わせて全てを用意する気にはどうしてもなれない。自分自身にお金をかけることに、消極的になってしまう。十人並みの自分に、お金をかける価値はないような気がして。
最低限、周りから浮かない程度であればそれで良い。その意識が、お洒落をすることから遠ざける。着飾って出掛ける場所もないのだからそれで良いと納得させて、冒険することはどんどんと減っていく。
「はい。終わりました」
手際良く採寸が終わった。服を着ていいと言われて、史華は再び袖を通す。
「お客様のサイズですと、オーダーメイドをお勧めしますね」
あぁ、やっぱり、と史華は着替えながら納得する。今着ているワンピースを買った時、なかなか体型に合うものがなくて調整してもらったことも思い出した。
「はぁ、太っていると面倒ですね……」
「いえ、お客様の場合は胸の育ちが良いからですよ」
史華のぼやきに、店員はすかさず返す。
「アンダーがスッキリしているので、トップとの差が大きいのです。今はアンダーに合わせて下着を購入されているのでしょうが、胸の形が悪くなりますから正確なカップで選んでいただいた方がよろしいかと」
既製品でアンダーとトップがちょうどのものを手に入れるのは難しい。トップに合わせると太って見えるため、アンダーに合わせたものを買って胸を押し込んできた。その方が上に着るものに身体のラインが出過ぎることがなくすっきり見えるというメリットもあったからだ。
「私共も様々な商品からお選びいただけるように努力は致しますが、お好みのものを身につけていただくにはオーダーメイドが望ましいと思いますよ」
そういうものか、と史華は頷いてみせる。
店員が接客上手なだけかもしれないが、探すよりも作る方が良いと勧められると「そうかもな」と思えてしまう程度には苦労してきた。ダイエットしても胸と太腿が残りやすく、そこから体重が増加するとさらに肉が上乗せされてしまう。それが今の体型だ。
土偶体型にうんざりしていたが、オーダーメイドと言われると気が引ける。さぞかしお金が必要だろう。どんなに良いものでも、史華は自分でその選択はしない。
目に入ってくる下着は可愛らしいデザインもあれば、扇情的なデザインのものもあって、誰がこんなのを身につけるのだろうかと首を傾げてしまうものもディスプレイされていた。
「史華ちゃんが機能的なデザインを中心に選んでいるということはわかってるんだけど、デザインよりもまずはサイズを知ることだと思うんだよね」
悠に指摘されたとおり、機能的なデザインを好んでいるのは事実だ。
だが、どうしてそんなことがわかるのだろうか。コーヒーをひっくり返して脱ぐ羽目になったあの時しか、下着を知る機会なんてなかったはずなのに。まともに会話をするようになってまだ一週間も経たない。だのによく観察しているものだと感心した。
そして同じだけの時間を一緒に過ごしているはずなのに、彼のことを一部分だけでも自信を持って説明できるところがあるだろうかと自問する。
流れについていけなくて史華がぼやっとしていると、女性店員が史華たちの前にやってきた。
「何かお探しですか?」
にこやかな接客。男女で店に来ているというのに、動揺している様子はない。それを見て、史華はこういうお客は珍しくないのかなと感じ、安堵する。
「まずは彼女のサイズを測っていただけませんか?」
悠はさらりと告げる。
「承知いたしました。こちらにどうぞ」
店員はごく自然にフィッティングルームに史華を案内する。当然ながら悠は部屋の外で待機だ。
全身が映る大きな鏡の前に立たされると、服を脱ぐようにと指示される。借り物のボレロとピンクのワンピースを脱げば、もう下着姿だ。
今日の下着は地味な方だが、どうして悠に買ってもらわなきゃいけないのかと疑問に思う。一応デートであるし、きちんとした格好でいたいという気持ちから、家にある下着ではまともなものを選んで着たつもりだ。くたびれすぎていない、淡い橙色のレースの上下。無難だと思う。
「肩が凝りやすいとか下着の痕が痒いとかありませんか?」
下着姿の史華に、店員はそんなことを尋ねた。
「え? たまにならありますけど……」
清掃員の仕事の後に就活で数件回るようなハードな日は、特に肩が凝ると感じる。家に帰ってすぐにブラジャーを外したくなるのもそんな日で、ルームウェアに着替える時に身体を見ると赤くなっていることもしばしばだ。
しかし、身体にしっかりと密着感があった方が背筋が伸びるし、多少窮屈でも胸を押さえ込んでおかないと既製品のリクルートスーツが入らないのだから仕方がない。
「身体に合った下着ではないという証拠ですよ。体型が歪む原因にもなりますから、身体にあったものを選びませんと」
失礼しますと一言あって、ブラジャーの上からメジャーがあてられる。
「脱がなくていいんですね」
「はい。ブラジャーを外してしまうと、着用時よりトップが下がってしまうので適切なサイズが測れないのです」
ふとした疑問にも、快く答えてもらえた。採寸はテキパキと進められる。
「なるほど……」
既製品が合わないらしいことには薄々気付いていた。でも、史華は自分のサイズに合わせて全てを用意する気にはどうしてもなれない。自分自身にお金をかけることに、消極的になってしまう。十人並みの自分に、お金をかける価値はないような気がして。
最低限、周りから浮かない程度であればそれで良い。その意識が、お洒落をすることから遠ざける。着飾って出掛ける場所もないのだからそれで良いと納得させて、冒険することはどんどんと減っていく。
「はい。終わりました」
手際良く採寸が終わった。服を着ていいと言われて、史華は再び袖を通す。
「お客様のサイズですと、オーダーメイドをお勧めしますね」
あぁ、やっぱり、と史華は着替えながら納得する。今着ているワンピースを買った時、なかなか体型に合うものがなくて調整してもらったことも思い出した。
「はぁ、太っていると面倒ですね……」
「いえ、お客様の場合は胸の育ちが良いからですよ」
史華のぼやきに、店員はすかさず返す。
「アンダーがスッキリしているので、トップとの差が大きいのです。今はアンダーに合わせて下着を購入されているのでしょうが、胸の形が悪くなりますから正確なカップで選んでいただいた方がよろしいかと」
既製品でアンダーとトップがちょうどのものを手に入れるのは難しい。トップに合わせると太って見えるため、アンダーに合わせたものを買って胸を押し込んできた。その方が上に着るものに身体のラインが出過ぎることがなくすっきり見えるというメリットもあったからだ。
「私共も様々な商品からお選びいただけるように努力は致しますが、お好みのものを身につけていただくにはオーダーメイドが望ましいと思いますよ」
そういうものか、と史華は頷いてみせる。
店員が接客上手なだけかもしれないが、探すよりも作る方が良いと勧められると「そうかもな」と思えてしまう程度には苦労してきた。ダイエットしても胸と太腿が残りやすく、そこから体重が増加するとさらに肉が上乗せされてしまう。それが今の体型だ。
土偶体型にうんざりしていたが、オーダーメイドと言われると気が引ける。さぞかしお金が必要だろう。どんなに良いものでも、史華は自分でその選択はしない。
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