39 / 51
第39話 デートは覚悟を決めて
しおりを挟む
悠は少し過保護なところがあるのかもしれない。史華はショートメッセージアプリが既読になるのを見て、そんなことを思う。
今朝も会ったのに、マメな人だな。
悠が見舞いに来てくれた翌日、仕事に出た史華は悠に会っていた。始業前なのに出社していた理由は、史華に会いたかったからだそうだが、実際はそれだけではなく仕事のためだ。その日の午前に会議があり、その資料を読み込んでいるのを見かけたから。就業時間にとらわれないスタイルで仕事をしているだけで、態度は真面目なのだ。
そんな様子だったのに、昼には体調を心配するメッセージが届き、夕方にも明日のデートについての打ち合わせのメッセージが届いていた。返信すればすぐにスタンプが返ってきて、暇ではないはずなのによくやるなあと感心した。
本当に付き合っているみたい。
ふと、さっきまで読んでいた小説の一節が浮かぶ。今の史華たちにように他愛のない会話を文字でするシーンがあった。どんな状況でそのメッセージを書いたのかが透けて見えて、互いを思いやる気持ちが察せられた。今どきっぽい素敵なシーンだったと思う。
こんな感じで、本を読みながら自分たちに重ねることもさらに増えていた。アダルトなシーンに自分の姿を重ねることは経験不足もあってイメージできなかったのだけれど。
明日、どうなるのかな……。
待ち合わせは史華の家のそばだ。いつもの場所と言って差し支えない路地。行き先は悠のおまかせにしている。どこに連れて行かれるのかはわからないが、宿泊するのは確定らしい。着替えを用意する必要はないらしいことが書いてあったが、一応一泊分の荷物は用意した。
今なら……受け入れちゃうかもな……。
楽しみなのと不安なのとで心がざわつく。おやすみと打ち込んだ後、スマートフォンを充電につないで、史華は目を閉じたのだった。
翌朝は雨だった。
場に似合わない深紅のクーペに史華が乗り込むと静かに発進した。
「昨日までは雨降らないって言っていたのに、残念だね」
「そうですね。予定、狂っちゃいました?」
「まあね。紅葉を見ようかと思っていたから」
「それは残念です」
悠は山登りの格好ではないので、ドライブでめぐるつもりだったのかもしれない。想像以上に激しい雨で、車内に置いた傘が床に水たまりを作りそうだ。
「ピカピカの車なのに、汚れてしまいますね」
濡れた傘をしまうための袋を持っているわけがない。必然的に車内のあちこちを濡らしてしまう。
「気にすることはないよ。俺も同じ状況だから」
笑って返されると安心する。悠がこういう小さなことで怒るような人ではない。そんなことはわかっているつもりではあったが、申し訳ない気持ちにはなるものだ。
どうにかできないものかとキョロキョロしていると、鼻がむずむずしてきた。咄嗟に口元を手で覆う。
「くしゅんっ!」
天候が雨であることもあり、外気は冷え込んでいる。十一月にコートを出すのは早すぎるかと思ったものの、先日熱を出したこともあってトレンチコートを羽織ってきた。その下には暖かなニットのワンピース。膝丈なので、タイツで足元の防寒対策はしっかりしたつもりだ。だが、それでも身体は冷えたようだ。
「病み上がりにこの天気は身体に毒だね。さっさとホテルに入ろうか? 部屋で食事を頼むこともできるし」
「……ホテルに行くのは確定なんですね」
この後に及んで往生際が悪いとも感じられたが告げる。できれば避けたいと思う気持ちが前面に現れた声になった。
「いろいろと合理的でしょ? 俺の部屋が気に入っているならそれでも構わないけど」
「うーん……くしゅんっ!」
暖房が効いているはずだが、少し濡れてしまったのがよくなかったのかもしれない。くしゃみが止まらなかった。
「――近場にしようかな」
予定が狂いっぱなしで申し訳なくなる。しかし今日のことはすべて悠にまかせることに決めていたので史華は頷いた。そしてそのまま眠ってしまう。
今朝も会ったのに、マメな人だな。
悠が見舞いに来てくれた翌日、仕事に出た史華は悠に会っていた。始業前なのに出社していた理由は、史華に会いたかったからだそうだが、実際はそれだけではなく仕事のためだ。その日の午前に会議があり、その資料を読み込んでいるのを見かけたから。就業時間にとらわれないスタイルで仕事をしているだけで、態度は真面目なのだ。
そんな様子だったのに、昼には体調を心配するメッセージが届き、夕方にも明日のデートについての打ち合わせのメッセージが届いていた。返信すればすぐにスタンプが返ってきて、暇ではないはずなのによくやるなあと感心した。
本当に付き合っているみたい。
ふと、さっきまで読んでいた小説の一節が浮かぶ。今の史華たちにように他愛のない会話を文字でするシーンがあった。どんな状況でそのメッセージを書いたのかが透けて見えて、互いを思いやる気持ちが察せられた。今どきっぽい素敵なシーンだったと思う。
こんな感じで、本を読みながら自分たちに重ねることもさらに増えていた。アダルトなシーンに自分の姿を重ねることは経験不足もあってイメージできなかったのだけれど。
明日、どうなるのかな……。
待ち合わせは史華の家のそばだ。いつもの場所と言って差し支えない路地。行き先は悠のおまかせにしている。どこに連れて行かれるのかはわからないが、宿泊するのは確定らしい。着替えを用意する必要はないらしいことが書いてあったが、一応一泊分の荷物は用意した。
今なら……受け入れちゃうかもな……。
楽しみなのと不安なのとで心がざわつく。おやすみと打ち込んだ後、スマートフォンを充電につないで、史華は目を閉じたのだった。
翌朝は雨だった。
場に似合わない深紅のクーペに史華が乗り込むと静かに発進した。
「昨日までは雨降らないって言っていたのに、残念だね」
「そうですね。予定、狂っちゃいました?」
「まあね。紅葉を見ようかと思っていたから」
「それは残念です」
悠は山登りの格好ではないので、ドライブでめぐるつもりだったのかもしれない。想像以上に激しい雨で、車内に置いた傘が床に水たまりを作りそうだ。
「ピカピカの車なのに、汚れてしまいますね」
濡れた傘をしまうための袋を持っているわけがない。必然的に車内のあちこちを濡らしてしまう。
「気にすることはないよ。俺も同じ状況だから」
笑って返されると安心する。悠がこういう小さなことで怒るような人ではない。そんなことはわかっているつもりではあったが、申し訳ない気持ちにはなるものだ。
どうにかできないものかとキョロキョロしていると、鼻がむずむずしてきた。咄嗟に口元を手で覆う。
「くしゅんっ!」
天候が雨であることもあり、外気は冷え込んでいる。十一月にコートを出すのは早すぎるかと思ったものの、先日熱を出したこともあってトレンチコートを羽織ってきた。その下には暖かなニットのワンピース。膝丈なので、タイツで足元の防寒対策はしっかりしたつもりだ。だが、それでも身体は冷えたようだ。
「病み上がりにこの天気は身体に毒だね。さっさとホテルに入ろうか? 部屋で食事を頼むこともできるし」
「……ホテルに行くのは確定なんですね」
この後に及んで往生際が悪いとも感じられたが告げる。できれば避けたいと思う気持ちが前面に現れた声になった。
「いろいろと合理的でしょ? 俺の部屋が気に入っているならそれでも構わないけど」
「うーん……くしゅんっ!」
暖房が効いているはずだが、少し濡れてしまったのがよくなかったのかもしれない。くしゃみが止まらなかった。
「――近場にしようかな」
予定が狂いっぱなしで申し訳なくなる。しかし今日のことはすべて悠にまかせることに決めていたので史華は頷いた。そしてそのまま眠ってしまう。
1
あなたにおすすめの小説
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
祖父の遺言で崖っぷちの私。クールな年下後輩と契約結婚したら、実は彼の方が私にぞっこんでした。
久遠翠
恋愛
広告代理店で働く仕事一筋のアラサー女子・葉月美桜。彼女の前に突きつけられたのは「三十歳までに結婚しなければ、実家の老舗和菓子屋は人手に渡る」という祖父の遺言だった。崖っぷちの美桜に手を差し伸べたのは、社内で『氷の王子』と噂されるクールな年下後輩・一条蓮。「僕と契約結婚しませんか?」――利害一致で始まった、期限付きの偽りの夫婦生活。しかし、同居するうちに見えてきた彼の意外な素顔に、美桜の心は揺れ動く。料理上手で、猫が好きで、夜中に一人でピアノを弾く彼。契約違反だと分かっているのに、この温かい日だまりのような時間に、いつしか本気で惹かれていた。これは、氷のように冷たい契約から始まる、不器用で甘い、とろけるような恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる