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第38話 見つかっちゃった
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悠が身体を離したので、史華はゆっくりと上体だけを起こす。顔を合わせられなくて、視線をベッドの縁に向けたまま口を開く。
「心配させてしまって申し訳ありませんでした。だから、今日は帰ってください。今度からはちゃんと連絡しますから」
今は互いに冷静になるべきだと考えて提案する。悠の様子がおかしいから、なおさらここは距離を置くことが必要だと判断した。でないと、互いに悲しいことになる気がして。
すると頭上で、ふっと笑う声が聞こえる。悠が動いて、再び史華はベッドで仰向けになった。
「ちょっ、悠さん、あたしの話を聞いて――」
慌てて抗議をする。悠の手が伸びてきて――その手は史華の頭上を通り過ぎ、その先にある掛け布団の下に入り込んだ。
「……悠さん? え、あっ、まさか」
悠の手が戻ってくる。そこに握られていたのは一冊の文庫本。カバーはかけていない。裏表紙のあらすじが目に入って、史華は今までにないほどの機敏な動作でその本を奪おうと手を伸ばす。
「へぇ。史華ちゃんは勉強熱心なんだね」
史華の手はあっさりかわされて、悠は文庫本をしっかり握ると立ち上がった。様子からすると、恋愛小説だと思ったのだろう。おおよそはその通りだが、内容はもっとアダルトだ。
「待って、返してください!」
中を見られるわけにはいかない。このお話はベッドシーンの挿絵がふんだんに挟まれており、それを見てしまったら内容に気づかれてしまう。今ならただの恋愛小説だと言い切れる。すぐに回収せねば。
「『CEOはご機嫌ナナメ』か。会長とか社長とかって恋愛小説でも人気だって聞いたけど、史華ちゃんもそういう立場の人が好きなの?」
タイトルを読み上げて、悠は表紙をめくる。
まずい!
表紙の次はカラー口絵であり、それはもう公共の場では見るのが憚れるような内容であるわけで。
とにかく中を見られまいと史華は焦り、気づいたときには飛びかかっていて――必然的に悠を押し倒していた。
「ふんぎゃっ⁉︎」
「……史華ちゃんは時々大胆だよね」
悠の笑う声が頭上で聞こえる。かろうじて何も置かれていない床に二人で倒れこんでいた。史華は悠に片手で抱きとめられているらしい。
「す、すみません」
悠に謝りながら、必死に文庫本の姿を探す。彼が手に持っていないようだからだ。
視界の端に本が開かれた状態で落ちているのが目に入った。開かれたページは床側なので、中は見えない。密かに安堵して、史華はすぐさま手を伸ばす。
しかし先に悠の手が文庫本に届いた。開かれたページの間に指を引っ掛けて持ち上げる。
だから、そのまま持ち上げると必然として中身が見えるわけで。
そして、そこには偶然にも挿絵があって。
体温が一気に上昇した。
「ふーん。なるほど、これを見られたくなかったのか」
恥ずかしすぎて、史華は急いで悠の上から移動する。本の回収は諦めた。次は言い訳だ。
「えっと、あの、それは友だちが貸してくれたやつで……それで、その……」
愛由美が貸してくれたのがきっかけではあったが、その本は自分で買ったものだ。よりにもよって一番過激なものが出てこなくてもいいじゃないかと思うが、こういうときはきまってそうなるものである。
もじもじとして釈明している傍で、悠はページをパラパラとめくっている。読んでいるのだろうか。
「……本当に君は勉強熱心なんだね」
小声で言うと、悠は苦笑した。本を閉じて、史華に差し出す。
「へ?」
キョトンとしていると、悠は続けた。
「押し倒したりしてゴメン。もう無理に迫ったりはしないから。史華ちゃんがその気になるまでは、キスまでにしておくよ」
「は、はぁ……」
どういう心境の変化だろうか。いつもの悠に戻ってくれたように感じられるが、どこでスイッチが切り替わったのかわからない。
押し倒しちゃったときに頭でも打った、とか?
「だから、実践したくなったら俺を誘ってね」
心配して損した!
本をひったくるように奪うと、史華は悠に背を向けた。
「実践なんてありえないです! それに、こういうことは恋人同士がするものですからっ!」
「俺は史華ちゃんは恋人だと思っているんだけどな。彼氏でもない人とキスできちゃうの?」
はっきり宣言してやると、悠に痛いところを突かれた。
「それは、その……」
悠の所為にすることはできたけれど、彼とのキスに心地よさを覚え始めていることに気づいて、史華は口籠る。
ううん。ダメダメ。流されちゃ……。
悠は遊びでも冗談でもないつもりらしいが、やはり彼と自分は不釣り合いだ。彼の言葉に乗せられて付き合うことができたとしても、うまくいかないに決まっている。自分たちがよくても、まわりが許さない可能性だってある。
そうよ。あのときに出会ったおばさんは納得しないに違いないもの。
この前の見合いの場を思い出して、史華は胸に痛みを感じていた。
「――君のそういう真面目なところも、俺は好きだよ」
ぽんぽんと頭を撫でられて、史華は振り向く。優しそうな悠の顔が目に入った。
「あ、あたしはすぐに口説くそういうところが苦手ですっ」
顔は真っ赤になっているだろう。でも、これは熱のせい。恋のせいじゃない。
「うん、知ってる」
悠は楽しそうだ。からかわれて悔しいが、彼がいつもどおりなのがわかって安心した。口説かれることは耐性がないから苦手であるけれど、こういう言葉がぽんぽん出てこないと心配になってしまうのだから面倒だとも思う。
「もう帰るね。ちゃんとあったかくして寝るんだよ。明日は君の元気な姿を見せてほしいな」
「は、はい。今日はお見舞いに来てくれてありがとうございました。悠さんこそ、きちんとお仕事してくださいよ? 社長さんなんですから」
「はいはい」
史華が念を押して言うと、悠は苦笑を浮かべた。この様子からすると、やはりお仕事を放置してここを訪ねたのかもしれない。
あたしは嬉しかったのかな?
玄関で悠を見送りながら、少しにやけている自分を意識してそう思った。
「心配させてしまって申し訳ありませんでした。だから、今日は帰ってください。今度からはちゃんと連絡しますから」
今は互いに冷静になるべきだと考えて提案する。悠の様子がおかしいから、なおさらここは距離を置くことが必要だと判断した。でないと、互いに悲しいことになる気がして。
すると頭上で、ふっと笑う声が聞こえる。悠が動いて、再び史華はベッドで仰向けになった。
「ちょっ、悠さん、あたしの話を聞いて――」
慌てて抗議をする。悠の手が伸びてきて――その手は史華の頭上を通り過ぎ、その先にある掛け布団の下に入り込んだ。
「……悠さん? え、あっ、まさか」
悠の手が戻ってくる。そこに握られていたのは一冊の文庫本。カバーはかけていない。裏表紙のあらすじが目に入って、史華は今までにないほどの機敏な動作でその本を奪おうと手を伸ばす。
「へぇ。史華ちゃんは勉強熱心なんだね」
史華の手はあっさりかわされて、悠は文庫本をしっかり握ると立ち上がった。様子からすると、恋愛小説だと思ったのだろう。おおよそはその通りだが、内容はもっとアダルトだ。
「待って、返してください!」
中を見られるわけにはいかない。このお話はベッドシーンの挿絵がふんだんに挟まれており、それを見てしまったら内容に気づかれてしまう。今ならただの恋愛小説だと言い切れる。すぐに回収せねば。
「『CEOはご機嫌ナナメ』か。会長とか社長とかって恋愛小説でも人気だって聞いたけど、史華ちゃんもそういう立場の人が好きなの?」
タイトルを読み上げて、悠は表紙をめくる。
まずい!
表紙の次はカラー口絵であり、それはもう公共の場では見るのが憚れるような内容であるわけで。
とにかく中を見られまいと史華は焦り、気づいたときには飛びかかっていて――必然的に悠を押し倒していた。
「ふんぎゃっ⁉︎」
「……史華ちゃんは時々大胆だよね」
悠の笑う声が頭上で聞こえる。かろうじて何も置かれていない床に二人で倒れこんでいた。史華は悠に片手で抱きとめられているらしい。
「す、すみません」
悠に謝りながら、必死に文庫本の姿を探す。彼が手に持っていないようだからだ。
視界の端に本が開かれた状態で落ちているのが目に入った。開かれたページは床側なので、中は見えない。密かに安堵して、史華はすぐさま手を伸ばす。
しかし先に悠の手が文庫本に届いた。開かれたページの間に指を引っ掛けて持ち上げる。
だから、そのまま持ち上げると必然として中身が見えるわけで。
そして、そこには偶然にも挿絵があって。
体温が一気に上昇した。
「ふーん。なるほど、これを見られたくなかったのか」
恥ずかしすぎて、史華は急いで悠の上から移動する。本の回収は諦めた。次は言い訳だ。
「えっと、あの、それは友だちが貸してくれたやつで……それで、その……」
愛由美が貸してくれたのがきっかけではあったが、その本は自分で買ったものだ。よりにもよって一番過激なものが出てこなくてもいいじゃないかと思うが、こういうときはきまってそうなるものである。
もじもじとして釈明している傍で、悠はページをパラパラとめくっている。読んでいるのだろうか。
「……本当に君は勉強熱心なんだね」
小声で言うと、悠は苦笑した。本を閉じて、史華に差し出す。
「へ?」
キョトンとしていると、悠は続けた。
「押し倒したりしてゴメン。もう無理に迫ったりはしないから。史華ちゃんがその気になるまでは、キスまでにしておくよ」
「は、はぁ……」
どういう心境の変化だろうか。いつもの悠に戻ってくれたように感じられるが、どこでスイッチが切り替わったのかわからない。
押し倒しちゃったときに頭でも打った、とか?
「だから、実践したくなったら俺を誘ってね」
心配して損した!
本をひったくるように奪うと、史華は悠に背を向けた。
「実践なんてありえないです! それに、こういうことは恋人同士がするものですからっ!」
「俺は史華ちゃんは恋人だと思っているんだけどな。彼氏でもない人とキスできちゃうの?」
はっきり宣言してやると、悠に痛いところを突かれた。
「それは、その……」
悠の所為にすることはできたけれど、彼とのキスに心地よさを覚え始めていることに気づいて、史華は口籠る。
ううん。ダメダメ。流されちゃ……。
悠は遊びでも冗談でもないつもりらしいが、やはり彼と自分は不釣り合いだ。彼の言葉に乗せられて付き合うことができたとしても、うまくいかないに決まっている。自分たちがよくても、まわりが許さない可能性だってある。
そうよ。あのときに出会ったおばさんは納得しないに違いないもの。
この前の見合いの場を思い出して、史華は胸に痛みを感じていた。
「――君のそういう真面目なところも、俺は好きだよ」
ぽんぽんと頭を撫でられて、史華は振り向く。優しそうな悠の顔が目に入った。
「あ、あたしはすぐに口説くそういうところが苦手ですっ」
顔は真っ赤になっているだろう。でも、これは熱のせい。恋のせいじゃない。
「うん、知ってる」
悠は楽しそうだ。からかわれて悔しいが、彼がいつもどおりなのがわかって安心した。口説かれることは耐性がないから苦手であるけれど、こういう言葉がぽんぽん出てこないと心配になってしまうのだから面倒だとも思う。
「もう帰るね。ちゃんとあったかくして寝るんだよ。明日は君の元気な姿を見せてほしいな」
「は、はい。今日はお見舞いに来てくれてありがとうございました。悠さんこそ、きちんとお仕事してくださいよ? 社長さんなんですから」
「はいはい」
史華が念を押して言うと、悠は苦笑を浮かべた。この様子からすると、やはりお仕事を放置してここを訪ねたのかもしれない。
あたしは嬉しかったのかな?
玄関で悠を見送りながら、少しにやけている自分を意識してそう思った。
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