オレ様社長はお断りっ!

一花カナウ

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第49話 問題解決

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 静かに車は動き出す。二人きりの空間は少しだけ重い。

「勢いで巻き込んでしまって悪かったね」

 工場が見えなくなったところで、悠が告げた。史華は首を横に振る。

「いえ、お気遣いなく。……悠さんは気づいていたんですか?」
「何を?」

 車の運転をしながら、悠はちらっと史華を見やる。

「未智佳さんがプリンタを壊した理由」
「いつかやらかすと思ってはいたさ。……ただ、本題はそっちじゃない」

 悠の表情が険しいものに変わった。
 大型の3Dプリンタを壊したことについては彼らの事業の都合なので、ある意味本題から目を逸らすために意図的に壊したとも考えられよう。つまり、プリンタよりも重要な、隠したいことが彼らにはあったということで。
 史華は慎重に言葉を選ぶ。

「不正があった、と?」
「うん。どうもうちのサンプルを横流ししていたようでね。調査をしていたんだ」
「結果はクロだったのですね」

 悠はウィンカーを出してスムーズに道を曲がる。

「そう。急ぎの案件だと言って動いてもらったのもフェイクだよ」

 それを聞いて、史華はほっと胸を撫で下ろした。

「じゃあ、次の契約先を急ぎで探す必要はないんですね」

 大型の3Dプリンタで出力してくれる企業を探さないといけないかと気にしていたのだ。
 だが、史華の言葉に悠は苦笑した。

「いや、それは別かな」
「必要なんですか?」
「期待していたところだと、うちの依頼に応じられないものがあることに気づいてしまってね。喫緊の案件が間に合いそうになくて」
「なら、仕様がわかれば、お手伝いできるかもしれません――って、出しゃばりすぎですよね。社員でもないのに、社外秘の情報を出せだなんて」

 勢いで提案して、史華はすぐに引き下がる。悠の力になりたいと思う気持ちは強くても、越えてはいけない線はある。
 身体を重ねたからって、図々しいよね、あたし。
 一人で反省していると、悠の手が史華の手に重なった。

「もういっそのこと、うちの社員になりなよ」
「え?」

 聞き間違いかと思って悠を見る。悠はちらりと史華を見ると正面に向き直り、ハンドルを切った。

「一つ、先に謝っておかなきゃいけないことがある」

 車は近くのコンビニに停まった。悠が向き直る。

「なにを、ですか?」

 史華は彼が真剣な表情をしていることに、不安を感じた。なにを言うつもりなのだろうか、それが予想できなくてなおさら怖い。
 悠は頭を下げた。

「君の経歴を勝手に調べた。ちゃんと聞き出したかったけれど、大学時代に何か事情があったようだから触れるタイミングが掴めなくて……俺は卑怯なことをした。申し訳ない」

 罪を告白されて、史華は思い出す。あの工場を史華が知っているとどうして思ったのか、その答えがそれなのだ。

「それで、あたしがあの工場を利用したことがあるとご存知だったんですか」
「ああ。君の部屋にお邪魔したとき、大学で使っていたのだろう資料が目に入って、もしかしたら、と」

 研究室で使っていた資料のいくつかは自分で購入している。素敵な写真も多く、研究の資料としてだけではない価値を感じて手元に残しておきたかったのだ。
 まさかそれが、ヒントになるなんて。ううん、あたしを調べようと思ったのは、それだけじゃないよね。
 悠は顔を上げない。史華はふぅ、と息を吐いた。

「……あたしが悠さんの叔母さんと繋がりがあったんじゃないかと疑っていたからでもあるのでしょう?」
「すまない」
「もういいですよ。悠さんの事情はさっきお聞きしましたし。疑い深くなってしまうのも仕方がないと思います」
「許さなくていい」
「そうですね……勝手に素性を調べられた件については許さないつもりですけど――」

 史華の言葉に、悠は少しだけ顔を上げた。珍しい、不安そうな顔。それを見て、史華は困ったように笑った。

「あたしの素性を知った上で、恋人として付き合っていきたいと思っていただけたのであれば、嬉しいです」

 その返答に、悠は顔を上げて首を横に振った。

「恋人としてじゃない。結婚を前提として、史華ちゃんと付き合いたいんだ」

 結婚を前提として。
 その言葉に史華は焦った。

「あ、あたしでいいんですか?」
「君がいいんだ」

 胸がときめく。口説かれるってこういう気持ちなんだ。
 史華が戸惑っているうちに悠に唇を奪われる。

「――仕切り直そうか。夕食がまだだったね」

 シートベルトを付け直すように促される。安全確認をするなり、車は発進したのだった。
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