オレ様社長はお断りっ!

一花カナウ

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第48話 トラブル発生

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 雨はまだ降っている。真紅のクーペは都心から離れた場所に向かっていた。
 本社に向かうんじゃないなら、どこかの料亭かと思っていたけど……この方角は違うのかな?
 一時間ほど郊外に向かって走って、工場らしき建物のそばで車は停車する。史華はその意外な目的地に驚いていた。

「史華ちゃんはここで待っていてもいいけど、どうする?」
「お仕事、なんですか?」
「うん。仕事でのトラブルではあるんだけど、それだけじゃなくて」

 悠は困ったような顔をした。何か説明がしにくい事情があるのだろう。

「私が役に立てることがあるなら、お付き合いしたいのですが……邪魔になってしまいますよね?」

 部外者が立ち会うのも変だろう。デート中の呼び出しだとしても、お付き合い中の人間はそこに立ち会わない。
 でも、この場所、あたしが知っている場所なのよね。
 わがままを言ってついていくものでもなかろうと考えて申し出ると、悠は助手席の扉を開けた。

「邪魔にはならないさ。一緒に行こう」
「いいんですか?」
「おそらく、一緒にいたほうが都合がいい」

 手を差し出された。史華は一瞬躊躇したが、すぐに彼の手を取る。

「わかりました。緊急事態なんですよね。急ぎましょう」




 事務所に向かうようだ。悠が停めた駐車場には修理業者のものらしいロゴの入ったワンボックスカーも停められている。
 休日なのに……?
 トラブルで工場に呼ばれたということは、ここに置かれている機材や装置の故障だろうか。
 だが、悠が呼ばれる理由がわからない。悠の会社はこの工場の管理会社とは違うからだ。

「おお、緒方くん。休みの日に呼び出して悪かったね」

 事務所に入ると、中にいた初老の男性が声を掛けてきた。

「いえ。連絡をいただけてありがたいです」

 悠の会社の取引先だと理解した。その上で、この男性も史華には見覚えがあった。
 先日会った悠のお見合い相手の父親だ。
 史華は邪魔をしないように悠の後ろに下がって様子をうかがう。事務所の面談室には彼のほかに、女性が二人いた。一人はお見合い相手の若い女性で、もう一人はその母親に違いない。若い女性は俯いたままぶつぶつとなにやら呟き続け、母親はそんな彼女の肩を抱いて宥めている。
 何があったの?

「ほら、お前は謝りなさい」

 男性が若い女性に促すが、彼女は不満げな目を悠に向けただけで声を掛けることさえしなかった。

「私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は悪く――」

 何を呟いていたのか唇の動きを読み取れたおかげでなんとなく伝わってくる。やらかしたのはこの女性のようだ。
 男性はそれを見てその場に膝をつき、頭を下げる。

「緒方くん、本当に申し訳ない。大型プリンタが壊された以上、しばらく案件を引き受けられなくなった。急ぎの案件についてはできる限り引き継ぎ先を探しているが、どこも余裕がなくて――」
「それだけであれば、俺のほうで手配するので結構です。信用できる場所に依頼します」
「それは――」
「で? 問題はプリンタの故障が主ではないですよね?」

 男性の言葉に被せるように、悠の冷ややかな声が室内に響く。
 男性は地面を見つめたままだ。

「長いこと取引してきましたが、このような形で関係を終えることになるなんて」
「待ってくれ!」

 青い顔をして、男性は顔を上げる。悠は表情を変えない。

「勢津子叔母さんから何を言われていたのか存じ上げませんが、俺は認めていませんから。今日は株式会社ラブロマンスの社長としてではなく、緒方悠として顔を出したつもりです。近々、正式な書類がそちらに届くことでしょう」

 悠は若い女性の方に顔を向けた。

「未智佳《みちか》さん、君はもっと自身の立場やご両親の仕事に興味を向けるべきだ。浅はかな行動だと判断できなかったのは、君が無知だったからではないかな?」
「ひどいわ! 私はっ」

 女性は急に立ち上がって悠の正面に立った。悠は冷たい視線で彼女を見下ろす。

「君は俺を手に入れてどうしたかったの? 社長夫人の名前が欲しかった? 自分を着飾るあらゆるものを手にしたかった? ――君は自分に何が相応しいのか、よくよく省《かえり》みたほうがいい」
「なんですって!」
「論理的に反論できるなら話を聞くよ?」

 悠が促すと、真っ赤な顔をして彼女は史華を指差した。

「この場所に部外者を連れてくる方が非常識だと思うわ」
「部外者、か」

 悠が史華に顔を向ける。
 あたし?
 部外者だと騒ぎ立てるのはそのとおりだろう。反論しようがない。だが、悠は何か思惑があるようだ。
 悠が史華に微笑んだ。

「史華ちゃん、ここの設備を使ったことがあるんだよね。同等の設備がある場所も知っているんじゃない?」

 どうしてそれを、と混乱したが史華は頷いた。

「はい。卒論に必要な模型の出力を依頼したことがあるので。ほかの工場も、知ってはいますよ」

 卒業時期がずれ込んだこともあって、自分で模型を出力してくれる工場を探さねばならなかったのだ。小型のものは大学の設備でどうにかできたが、大きなものとなるとそうはいかない。特殊な形状のものを3Dプリンタで出してもらうのはなかなか大変だったことを史華は思い出す。
 史華の返答に、三人が狼狽えた。

「そんなのズルじゃない。出まかせで話を合わせているだけだわ」
「調べればわかることさ。それとも、残していないのかな、依頼の記録。俺でも調べられたのだから、君でもわかるんじゃないかと思ったのだけど」

 彼女の両親はダンマリを貫いている。もしかしたら学生から依頼があったことを覚えているのかもしれない。

「くっ……」

 未智佳と呼ばれた女性は唇を引き結んで部屋を出ていってしまう。あとを母親らしき女性が追った。

「――あとのことは専門家に依頼しています。次は彼らも同席する場で話し合いましょう」

 悠はそう告げると、私の手を引いて歩き出すのだった。
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